2011年07月31日

ガガーリンの伝記「Starman」 感想

ガガーリンの伝記「Starman」 感想

Starman


Starman
Starman



↑私が買ったのは上の方の表紙がモノクロの奴ですが、今は下の飛行後50周年記念版が出てるみたいです。内容は一緒。個人的には、モノクロの表紙の方がそれっぽくて好きです。


「Starman: The Truth Behind the Legend of Yuri Gagarin」は、BBCのドキュメンタリーを元にした、ユーリ・ガガーリンの伝記です。著者はJamie Doran。
わずか数ヶ月前に発行されたため、残念ながら今の所原書しかありません。多分、その内訳されると思うのですが、マーク・トウェインの自伝もいつまで経っても翻訳予定が出てこないし、この手の代物はやっぱり厄介。

わざわざ説明するまでもないと思いますが、ユーリ・ガガーリンは、「地球は青かった」の言葉で有名な世界初の宇宙飛行士。
本作は90年代後半、ソ連崩壊後の情報公開や関係者の証言を集め、彼の素顔に迫る貴重な作品となっています。後書きで書かれているとおり、グラスノスチ(情報公開)と抑圧体制の消滅による関係者の証言は、その後のロシアの再全体主義化に伴って、大きく後退しました。そのため、関係者がまだ生きているとしても、これだけの情報を収集するのは、今後は難しくなるでしょう。

ちなみに、本書には元KGBの人間が頻繁に登場すると共に、関係者の足取り(特に、インタビューするための現住所)を調べるためにKGB内部の人間が協力したと言う点からも、その貴重さが解ると思います。

とまあ、前置きはここまでにして、辞書片手に読破したので、その感想を。ただし、当然読み間違いが発生する確率は母語に比べて激増しておりますので、勘違いが含まれていたらご容赦を。


ガガーリンの素顔については、余り知られていなかったというのが本当のところです。何せ資料がない上に、その資料もソ連の「公式」プロパガンダで汚染されていましたから。

さて本書では、まず、ガガーリンが「占領地域」出身だったという、ソ連を知る人間にとっては衝撃的な事実が詳しく述べられます。ひょっとするとこれ以前にも知られていたのかもしれませんが、ちょっと信じられません。第二次大戦中にドイツに占領された地域の出身者は、ずっと差別にさらされ、公職に就くのは極めて困難でした。以前紹介した「戦争は女の顔をしていない」でも、命がけのレジスタンス活動を行ったあげく、戦後は「占領地域出身だから」とまともに職にも就けずに困窮した女性の、ソ連政府への怨嗟が収録されていました。

勿論、関係者の証言には、ガガーリンがドイツの軍人に対して嫌がらせを行い、危うく殺されかける所だった、と言うような「愛国的」エピソードが多く出てきます。しかし、そんな事を考慮するはずが無いのが抑圧的な体制と言う物で、実際それで浮かび上がれなかった人材は枚挙に暇がないのです。

本書の中で関係者が語っているとおり、コロリョフをシベリア送りにし、ガガーリンを本来なら浮かび上がれるはずがなかった立場に置いたソ連の体制は、宇宙開発の成功故に、逆説的に間違っていたことを証明しているのです。

本書は基本的にこの線で書かれていると言う事は、まあ仕方のない所です。実際その通りですから。ただ一点。最後に傍エピソードとして書かれるアメリカの華々しい「勝利」の象徴が、スペースシャトルというのはいただけません。スペースシャトルが失敗作という話は置いておくにしても、ガガーリンに対置するならアポロでしょう。
これは同様に、ガガーリンの才能を示すエピソードとして、スペースプレーンの研究を行っていた時に翼を使ったデザインを選択した、と言う内容を、賞賛の言葉と共に持ってくる所にも感じる違和感です。

ただ、この辺はあくまで些事。ついでに、伝記作品で著者の主観が入るのは当たり前なので、そこを割り引くのも当然。そして本書は、そう言った細かな点など気にならなくなるほど、面白いエピソードが山盛りになっています。

私が一番驚いたのは、描かれるソ連の市民生活の諸相が、想像と違ってかなり「ゆるい」事でした。
例えば、ガガーリンの落下地点に到着した市民達は、備品を持ち出したり引っぺがしたりと、やりたい放題しています。緊急用のゴムボートを持ち出して釣り船にした剛の者もそうですが、子ども達もガガーリンが食べ残した宇宙食を喜んでおやつにしている始末。まあ、後からKGBの連中が回収に回ってかき集めているのですが。(秘密警察の名前が出ると、みんな震え上がって提出したとか)しかし私は、監視体制を前提に、もっと市民は大人しくしている物かと思っていました。
同様に、ガガーリンを良く見たいからと、パレードの車列に自転車を放り込んで車を止めようとする市民とか、ガガーリンの顔見たさに危険なほど旅客機に接近してくる護衛のミグなど、もの凄く人間的で、かつグダグダです。

そもそも、最初に書いたとおり、「占領地」出身のガガーリンが何故かあの役割に選出されている段階で、ソ連の体制がそれほどきつくない、と言うか、かなり穴だらけであったことが垣間見えます。勿論これは、後述されるように、体制の抑圧的方向性と生きにくさを払拭する物では、到底ありえませんが。

他にも、ガガーリンの家族が、ニュースを聞いてモスクワに駆けつける時のエピソードなどからは、建前としての統制とは別に、割と融通の利く状態だったソ連の日常が見えてきます。(全員がラジオにかじりつく中、自動車管理場の主任は独断で車を好きに使って良いと言う。ちなみに、ソ連の体制では、車の私有・私的利用は原則許されない)この辺、建前は完全計画経済でありながら、各工場・公社が非公式な在庫を抱えることで半自由主義市場のような様相を呈していた経済と、パラレルなのでしょう。

一方で、ソ連の宇宙開発を失敗に導いた非効率な官僚システムと不合理な政治の問題は、ここにもついて回ります。ブレジネフ体制への転換と共に、英雄ガガーリンが、「フルシチョフ派」と見なされたせいで冷や飯を食わされ、またプロパガンダに利用されなくなるという不合理が典型でしょう。
勿論、フルシチョフに重用されていた時の待遇が破格だった面はあるのですが、合理的でない体制が宇宙開発の足を引っ張っていたと言う事実は、如実に表れてきます。そもそも、今更言うのも馬鹿馬鹿しいですが、コロリョフがシベリア送りにされず、30年代から一貫して宇宙開発に携わり続け、当然あんな無意味な死を遂げなければ、月に立ったのが星条旗ではなく赤旗だったであろう事は、まず間違いないのですから。

他にも、ソユーズの致命的な事故の前、ガガーリンやエンジニア達が政治的な圧力に対抗し、打ち上げ強行が致命的な事故を招くであろうという直訴を試みるも失敗する下りなど、余りにもソ連的です。(彼らに協力して橋渡し役となったKGBの職員は、ブレジネフの口利きでポストを得た忠臣に話を通そうとするも、露骨な買収を提示された後、拒否の結果として左遷されます)馬鹿な政治屋が専門家の意見具申を無視して計画を強行する事による悲劇は、チャレンジャーでも典型に見られますが、NASAの上司からの圧力とKGBの上司からのそれでは、話がだいぶ違ってきます。

一方、ガガーリンが段々と心を病んでいく点について、この伝記はとても面白い部分に着目しています。それは、彼が有名になった後、大量に押し寄せてくる陳情を処理していたという事。一応担当官にスクリーニングさせながらも、できる限り目を通し、かなりの援助に尽力したなどと言う話が、とても重要なポイントとして挙げられています。これがプロパガンダに使われていなかったという事からも、多分事実なのでしょう。(実は、ソ連国内の生活レベルのひどさを示すエピソードなので、プロパガンダには使えないですけどね)

身内にかけられた冤罪、予算不足で悲惨な状況にある福祉施設、党の横暴…… つまり、彼は国家英雄となりその身に勲章を纏うようになってから、祖国のどうしようもないねじれを見せつけられる羽目になったわけです。この点は、証言者達の話は一致しています。(そう言う談話を選択しているのは当然として)

なお、陳情というか手紙は海外からも大量に届いており、彼はそれにも返事を出していたようです。その真摯な返事を受け取った世界の少年少女は、その後どんな人生を歩んだのか。それが興味深かったりもします。「重要なキャリア選択についての相談」に対して、彼から返事を受け取ったカナダの少年とか。日本にも居たんでしょうかね。こう言うお返事をもらえた子ども達は。

そして終盤のヤマは、チーフ・デザイナーことコロリョフの死の直前。世界初の宇宙遊泳飛行士である、友人アレクセイ・レオーノフと共に彼の秘密(シベリアに送られていたと言う事)を告げられ、共に祖国の体制に決定的な疑問を抱く所でしょう。余りに哀しい事だったでしょう。彼らは忠誠心について徹底的にテストされた上で選抜されていたわけで、つまり誰よりもソ連を信頼していたはずだったのですから。

さて、最後に、何かと話題の多い彼の死について、本書は基本的にレオーノフの証言と、非公開だった委員会の資料に沿って説明します。
つまり、レオーノフが当日現場近辺で聞いた超音速ジェットの音、地元の人間が目撃したSU-11超音速機、更に当日空軍基地のレーダーに写った、ガガーリン達のMIG-15UTと誤認された機体。(重なって同じコースを辿った)これらから、試験飛行をしていたSU-11がガガーリンと教官の乗っていた練習機をソニック・ウェーブに巻き込み、墜落させたという見解を示します。
これは読む限り非常に説得力があるのですが、それをわざわざ国家レベルの委員会が隠した理由については、今一説得力がありません。基地指令の保身、(宇宙飛行士達の飛行時間維持訓練用の機体が年代物のMIG-15UTしか無く、他の機体を空軍からの借用しようとすると必ず嫌がらせを受けたという証言も出てきます。これもまた、ソ連の度し難いほど非効率なセクショナリズムの反映です)英雄を殺してしまった者を守るため、あるいは英雄を死なせたという責任を誰も取らなくて良いように、と言うような感じに書かれていますが、この辺はもう少し細かく証言を集めて欲しかった所です。

と、強く印象に残ったところだけザックリ書きましたが、他にも面白いエピソードは目白押し。ソ連でも西側と全く変わらないマスコミ関係者の滅茶苦茶な取材(むしろ、西側より酷い印象すら持ちました)ですとか、公式の場に出ようとせず、勲章を身につけることもないガガーリンの寡婦・ヴァレンティナさんの話もそう。そこだけやけにゴシップじみて奥歯の者の挟まったような記述になる、ガガーリンの「女性問題」については、どう評価した物か困ったりもしましたが。

つまり、宇宙開発、ソ連、ガガーリン個人のいずれかに興味のある人なら、読んでみて損はないと思います。元がBBCのドキュメンタリーと言う事もあってか、とても読みやすい英文で、引っかかることはまずありません。鬱陶しいスラング満載のセリフがない分、ハリー・ポッター(7巻読んだ時の感想はこちら)より楽なくらいです。
恐らく、待っていても翻訳が出るのは数年単位の時間がかかるでしょうから、高校程度の英語力があるなら挑戦してみて良いかと思います。いや本当、取り上げたのはほんの一部で、大量のエピソードに満足できると思いますよ。



当BLOG内、この他の、宇宙関係エントリーはこちら



  


Posted by snow-wind at 18:00Comments(0)宇宙

2010年10月24日

異星文明由来らしい信号が、検知されていた件

せちやん 星を聴く人 (講談社文庫)
せちやん 星を聴く人 (講談社文庫)

↑この手のニュースなら、貼り付けるのはこれで決まり。BLOG主は、川端裕人の最高傑作だと信じています。暗いけど。もの凄く、暗いけど……


受信専用になっているtwitterで、情報が引っかかってきたので、今日は久しぶりに宇宙関連ニュースを。


Does ET live on Goldilocks planet? How scientists spotted 'mysterious pulse of light' from direction of newly-discovered '2nd Earth' two years ago(MailOnline


正直、情報ソースとしてはあまり筋の良いサイトじゃないと思うのですが、以下、訳して解った情報のまとめ。
例によって日本語ソースだと、表題以外読んでないような代物ばっかりだったので。



1,信号が検知されたのは、今から2年前
2,ただし、検知は一回のみ。二回目以降のスキャン(観測装置をそっちに向ける事)では、検知できず
3,しかし、最近になって、その方向にハビタブルゾーン(液体の水が存在できる範囲。軌道が恒星から遠すぎず近すぎない状態。太陽系なら、地球と火星)にある惑星の存在が判明
4,って事は、あの信号って異星人のでしょ!?


と言う内容になります。
他細かい点については、

・信号の帯域は可視光線(いわゆる「光」)
・地球からの距離は20光年
・この発表はハビタブルゾーンの惑星発見後らしい

と言うのが読み取れます。
あとは、ウクライナの電波望遠鏡借りてメッセージ送ってみましたとか、そう言うどうでも良い内容。


第一印象として、残念ながら追試ができてない(本人以外信号を記録した人間がいない)段階で、かなり眉唾。せめて、ハビタブルゾーンの惑星発見前に発表していれば印象も違うのですが……

それは置いておいても、中性子星をはじめ、「規則的なパルスを発する星」と言うのは宇宙に(自然に)存在するので、これが人工的なものかどうかも考える必要があります。

勿論、SETI@HOMEをずっとパソコンに住まわせ続けている宇宙好きとしては、是非とも「本物」であって欲しいんですけどね。

それなら、返信送って返信の返信が来るまで往復40年。生きている内に、「我々は孤独ではない」を体験できる事になりますし。
期待するなと自分に言い聞かせながら、続報を待ちたいと思います。

この手のニュースって、大体はろくでもない駄法螺で、続報無いままフェイドアウトするんですけどね……



他の、その他の宇宙関係エントリーはこちら


  
タグ :宇宙SF


Posted by snow-wind at 22:00Comments(0)宇宙

2010年08月31日

デンマークの最小構成有人ロケット

ああ、先を越されたんだなあ、と言うのが最初の感想でした。

衝撃的に素朴な1人乗りロケット試作機、打ち上げへ(asahi.com)
デンマークで「募金で作った有人宇宙船」打ち上げ(WIRED VISION)

到達高度100キロ程度のロケットは十分に「枯れた」技術であり、こう言うプランは前から何度も提示されています。
典型的には、松浦さんが参加していたふじ構想↓ですね。

われらの有人宇宙船―日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」
われらの有人宇宙船―日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」

高い金を払ってISSに参加し、数十年振り回されるくらいなら、開発費用数十億(見込み)のあの構想を、基礎研究だけでも進めておけば……
的川さんが朝日の記事の最後で言っている、一番重要な加速度の調整(人間を乗せてあまり高加速すると潰れる。しかし、ロケットの初期加速は大きいほどとっとと大気圏を抜けられて有利。実にアンビバレンツで細かい調整が難しい)の実証データが集められますし、後のバージョンアップに繋げていけます。

だって、デンマークですよ?GDPが日本の1/10以下の小国、って言うか、その国自体が参与しない民間開発ですよ。公用語だって独自言語(デンマーク語)で、NASAの技術者を招聘するのにしっかり障害がある場所です。そんなところにあっさり先を越されるとか!
飛べただけのゴミ・HOPEとか、飛べたことが奇跡のきぼう(ISSのパーツの方)とかに無駄金使って、「ゆくゆくは有人飛行も」とか訳の分からない遠回りやってる間に、目標を絞って最小構成での到達を目指すプランにあっさり抜かれると。

もっとも、仕方ないのかも知れません。国家プロジェクトは大体において色んな思惑(ノイズ)が混ざって迷走し、当初予定と予算を大幅に超過して訳のわからない物に肥大化してしまうものですから。最終的に成功するかどうかとは、別の話として。(アリアンVはなんだかんだでトップクラスになりましたし、エネルギアだって機体自体は物になったわけで。後者は焦土の正論状態ですが)

なので、実は一番興味深いのは、単純な技術的な部分ではなく、法規制でしょうか。はっきり言って、日本でこれをやろうとすると、簡単に潰されます。星製薬のモルヒネ国産化時の妨害を引くまでもなく、根本的に民間ベースでの技術開発を助ける文化もなく、規制でがんじがらめになっています。たかが到達高度数百メートルのモデルロケットですら、知事の許可が必要なんですよ……(勿論、個人ベースでの許可取得はほぼ不可能。D型以上のエンジンを大規模イベント以外で使用したと言う話は、聞いたことがありません)
射場の確保や、協力企業への税制援助、(日本でこれをやると、国またはそれに準じる機関でないので、寄付金の税控除すらありません)何より柔軟な法改正や運用で「邪魔はしない」と言う形の援助は受けているはずですから。

多分、飛行が成功すればある程度細かい報道が出るでしょうから、それに期待したいところです。
リンク先の記事で、的川さんは「でも、本当に人を乗せる勇気があるかなあ」と言っていますが、成功率7割でも乗りたいという奴は、幾らでも居るでしょう。参加している元NASAの技術者なんて、絶対それがやりたくて参加してる人間が一定数居るはずですし。フォン・ブラウンが宇宙飛行士に語ったとおり、「誰より飛んでいきたいのは私だ!」と言う奴ですね。
個体・液体のハイブリッドというのは気になりますが、この構成だと最終段目をそのまま脱出ポッドにできるはずなので、案外安全性は高いでしょうし。

何にしろ、スペースシップ・ワンにつぐ民間有人飛行実現が指呼の距離に迫ったことに、惜しみない賛辞を送りたいと思います。この分だと、私が死ぬまでには民間宇宙飛行も、商業レベルに乗ってくれそうですねえ。



他の、その他の宇宙関係エントリーはこちら





  
タグ :宇宙科学


Posted by snow-wind at 22:00Comments(2)宇宙

2010年06月14日

はやぶさを殺しかかったのは誰か? 読売新聞の与太記事

久しぶりに宇宙関連です。
当初、はやぶさについては何も書く気はありませんでした。功績としてはタッチダウン成功で御の字と思っていましたし、変な浪花節には嫌な気分しか感じなかったからです。
予算も人員もないのに現場の頑張りで大きな功績を上げる、と言うのは美談ではありません。それは、そんな功績を上げるポテンシャルのあるプロジェクトに金や人を出さなかった、経営・管理側の無能さを示す話です。

そんなのを美化するから、関係者が「待遇とか、何がしてもらえるかではなく、宇宙開発のために何が出来るかを考えて来て欲しい」とか、ブラック企業丸出しの話をするようになるんです。キューブサットのプロジェクトを担った人材を全員流出させる状態で、必要なのは金以外にないわけで。

閑話休題、はやぶさ賞賛はまあ置くとして、通り魔的に現政権への批判が出ています。ですが、これははっきり言って言いがかり。普通に考えて、10年越しのミッションで最後の半年を担当した政権に、何を言うのかと言う事です。

なお、最初に書いておきますが、この件について民主党を全面的に褒めるつもりなどありません。ですが、少なくとも、為される批判はお門違いを越えて、愚劣な言いがかりの域に達しています。

さて、では問題の記事。

科学予算削減の民主、はやぶさ絶賛は「現金過ぎ」


>後継機の開発費は、麻生政権の2010年度予算概算要求時の17億円が、鳩山政権の概算要求やり直しで5000万円に、さらに「事業仕分け」を経て3000万円まで削られた経緯がある。福山哲郎官房副長官は記者会見でこの点を問われ、「今回の成功を受け、11年度予算は検討したい」と述べた。


とりあえずこれだけは言わせて頂きたいんですが、「記者会見でこの点を問われ」って、あんたら自分で聞いたことでしょ?突っ込むなら突っ込むで、堂々と突っ込まないでどうするのですか?
言いつけ呼ばわりされるのが嫌で、「○○君が言ってました」とか言う小学生ですか?


そして、内容も相当な物でして……

まず、

>麻生政権の2010年度予算概算要求時の17億円が、鳩山政権の概算要求やり直しで5000万円に

と言うのが意味不明。首相官邸のWEBページで見れる概算要求では、はやぶさの予算などどこにもない。最初から予算化などされていません。あるのは衛星関連予算(って言うか、小惑星探査機がここに入ってる時点でたいがいですが)で、はやぶさ2はプロジェクト化自体されていないのです。

6/17追記
一部で勘違いされたようなので。
上の意味は、「はやぶさ2」単独での予算化はされていないと言う事。(最初から衛星関連予算に含まれる、と書いてますが、解りにくかったようで)従って、単独で仕分けの対象になり得ません。衛星関連予算として一括で取り扱われたわけで、「はやぶさ2を政府が削った」は言いがかりです。
「プロジェクト化」については、ずっと検討段階なので「されている」とは口が裂けても言えません。3千万というのは、「やるかどうか検討するための金」と考えて下さい。単純に、正規職員三人程度配置して設備使わせれば、それくらいの予算になります。解りやすく言えば、塩漬けですね。

↑追記ここまで。


そもそも、概算要求と言うのは、各官庁が行う物なので、そこで減った分は彼らが自発的に引っ込めた部分です。つまり、仮に減ったという事実があるなら、官庁自身優先度が低いと判断していた部分。


そして、事業仕分けへの批判誘導で終わるいつもの形。

ですが、その概算要求にも盛り込まれ、延々と関連予算を食っていた「GX」にやっと止めを刺したのは、一体どこの功績ですか?
これだけは、間違いなく民主党です。前政権は、関係者と財務省が一致して燃えないゴミと見なしていた事業すら、政権交代までに廃棄することができませんでした。廃棄できなかった理由は、政治の横やりです。勿論、この時点での政権政党、自民党のことです。


イオンエンジンの長時間利用や、小惑星タッチダウンの成功と言った偉大な功績を見せられながら、後継機の開発を拒否してきたのはどこですか?
それは、自民党政権です。まあ、潰してきたのはJAXA自身なので、彼らを批判するのは可哀想ですが。自民は単に興味がなかっただけでしょう。しかし、功績も世界的な注目もあったのに、一切口出ししなかったことは確かです。少なくとも、功績は何もありません。

事ここに至って、まるで現政権がはやぶさ2を潰そうとしてきた主犯のように言い立てるのは、恥を知れとしか言いようがありません。


ついでに、はやぶさがタッチダウンを成功させて功績を上げた直後の予算では、五億円が五千万に減らされています。まあ、JAXAの訳の分からない内部処理が原因ですが。

しかし、そのJAXAを独法化したのは自民党。天下りを送り込んで予算を食い潰してきたのは文科省。
大体、もともと別組織だったISASをNASDAとコンパチにしたあげく、Μロケットを叩き潰したのも自民政権です。情報収集衛星という空飛ぶゴミに宇宙予算の半分を突っ込んだのも、ISSと言うお荷物プロジェクトで日本の宇宙開発を減速させたのも同じ。

むしろ、この機会に民主が「受けるネタになる」と思って関連予算を増額してくれれば、万々歳だと思います。
宇宙開発はプロパガンダと不可分ですから、この機会にJAXAも今までのような訳の分からない妨害はせず、2どころかその後のミッションの予算まで分捕る位の勢いで、政府に営業をかけるべきでしょう。
はっきり言って、今までが色々と酷すぎたのですから。


NASAを築いた人と技術―巨大システム開発の技術文化
NASAを築いた人と技術―巨大システム開発の技術文化

前にも紹介しましたが、NASAを支えた「技術力」のもう一方、システム工学に関する本です。職人信仰は未だに根強いですが、フォン・ブラウンのチームでさえ、組織工学の有用性を認め、取り入れて行き、結果非効率を克服できなかったソ連を置き去りにしていきます。
まあ、日本はそれ以前ですけどね。頑張りと根性で切り抜ける組織は、誉められた物ではありません。もっと予算を!人を!効率的運営を!!





この他の、宇宙関係エントリーはこちら


  
タグ :宇宙社会


Posted by snow-wind at 23:45Comments(7)宇宙

2009年10月21日

「超合金」って名前はどうかと思うけど アポロ11&サターンV

大人の超合金 アポロ11号&サターンV型ロケット
大人の超合金 アポロ11号&サターンV型ロケット


バンダイの商品紹介ページ


バンダイが、こんな物を出すそうで。値段は六万弱。
って言うか、画像さがしてたら、もうAMAZONが予約受付してたわけですが…… 実売価格はリンク先のとおり五万強。フットワーク軽いなあ。


とりあえず、ホームスターの最高級モデルと同じ水準と考えると、年齢層の高い宇宙ファン向けとしては、妥当なんでしょうね。


プラモデルは買っても組み立てられない不器用オタクなので、完成品でこれだけギミックが入っている物なら、出して惜しくない感じ。
問題は、やっぱり置く場所ですかねえ。底面積は小さいですが、占有容積はかなりの物になりますし。あと、この分割可能ギミックだと、横倒しにして置きたいかな。
あとは、サンプル画像にあるような、ジオラマセットを別売りしてくれると完璧ですかね。

でも、この画像なんか見ると、オマケでフォン・ブラウン先生のフィギュアを付けて欲しかったり。

こういう風にね。


あ、第二弾はソユーズでお願いします。

  
タグ :宇宙玩具


Posted by snow-wind at 22:00Comments(1)宇宙

2009年09月30日

記事が意味不明になる時 有人ロケット計画

日本も有人ロケット、前原国交相が検討表明(読売オンライン)

前原国交相が有人計画に意欲を示した、と言う内容で、これ自体は普通の記事です。
ところが、何故かこう言うことが書かれてまして……


>宇宙開発担当の前原国土交通相

>宇宙開発を担当する大臣が、日本独自の有人宇宙開発に踏み込んだ発言をしたのは初めて。


文科相ならともかく、なんで「国交相」の枕が宇宙開発担当?国交相なんて、航空管制とかで絡むくらいじゃ?と思って調べてみたら、前原国交相は宇宙開発担当相を兼任してたんですね。議員余ってるんだから、ポストは分けて投げろよ……

とにかく、こんな記事一つ取ってみても、マスコミの宇宙開発に対する理解の低さが垣間見えるわけです。記事読んで疑問に思わなかったんでしょうか?役職名を理解しているなら、「宇宙開発担当相を兼任する前原国交相」か、もっと単純に「前原国交相兼宇宙開発担当相」と書いたはず。
こんな理解度では、今後この計画が進んだ時も、馬鹿でもわかる「予算の数字」以外の評価ができるとは思えません。またいつもの悪夢か……

なお、有人計画については、ここで書いたとおり実績ある分野を潰さないなら、どんどんやって欲しいと思います。

新規技術の開発は、もはや開発しすぎて低効率しか残っていないインフラ整備よりはるかに経済波及効果も大きいので、上手く予算を捻出して欲しいもんです。
だからって、固体技術放棄とかは勘弁な。

  
タグ :宇宙


Posted by snow-wind at 20:00Comments(0)宇宙

2009年09月08日

予想以上に……ひどい。 映画「宇宙へ。」感想

先日見損ねた「宇宙へ。」(そらへ。と読む……)を、週末に鑑賞してきました。
地雷臭に敏感な友人達は誰も付き合ってくれなかったので、一人寂しく新宿へ。

結果、感想は表題のとおり。地雷を踏んだのに悪口を言い合う相手もいないと言うのは、本当に悲しいものですね。


内容を一言で言うと、「下手くそなプロパガンダ」です。
FOX辺りなら予想も付く内容ですが、BBCと思って油断していました。テレビで流れていたら横目で見ても良い、程度の内容です。

まず、原題は「ROCKET MEN」。つまり、主にオリジナルセブン(wikipediaの該当記事はこちら)を中心にしたドキュメンタリーです。

しかし、それ以外の点に関して、驚くほど焦点が合っていません。
まず、冒頭冷戦構造を説明した上でマーキュリー計画に入っていくのですが、「ソ連に先行されていた」と言う、一番重要なポイントが抜けています。米ソ対立の一環として開発競争が行われていた、と明言している以上、この基本設定を説明しないのは片手落ちではすまないでしょう。

「偉大なる西側」をアピールしたかったのかもしれませんが、だとしたら逆にここは取り上げるべきです。「偉大な資本主義陣営の逆転劇」と言うドラマを描けますから。ここに限らず、東側の映像も事件説明も一切無いため、恐ろしく平板な内容になっています。
マーキュリーとジェミニとか、普通の人が一見しただけだと間違い探し状態。ソ連の機体が混ざっていれば、画面が賑やかになるのに。

後半に頻繁に出てくる「人類全体のために」と言うメッセージも、序盤の説明との矛盾以前に、画面とあっていません。人類人類と言われても、画面上にはメイドインUSAしか出てこないのですから。そう言うテーマで行くなら、ソ連を「偉大なライバル」とし、「切磋琢磨しながら競い合って月を目指す」と言う描き方をすべきでしょう。

この辺の、知らない人間にも理解できるように、と言う配慮は徹底的に不足しています。ランデブー・ドッキング方式の説明を、完全にすっ飛ばしていたりするのには唖然。プロジェクトは段階を踏んで進んで行っているのですから、簡単なCGで説明するだけで、月への階梯が可視化できるのに。
アポロにいたってやっと「丸い地球」が肉眼で確認できた、と言う話も、それだけ言われても意味がわからないのでは?(ジェミニや現在のスペースシャトルや国際宇宙ステーションの高度では、「地球」の見え方は、ジャンボジェットから見る場合と実は大差ありません。つまり、「目の前に巨大な湾曲円盤」であって、球を認識できるほどの視野は得られないのです)

とにかく全体的に、何を描きたいのか、どう描きたいのかが見えませんでした。これだと、知らない人間は訳がわからず、ある程度知っている人間は溜息をつくのでは?

また、もう退役が決まっているスペースシャトルとその事故を、あんなに大きく取り上げる必要はあったのでしょうか?未来への前向きなメッセージで終わるなら、シャトルは最小限にして、開発中のアレスの発表辺りで締めくくればいいと思うのです。
エンタープライズの着陸テスト映像の使い方も相当ひどいですが、(知らない人間は、シャトルをSFに出てくる、ジェット機の背中から飛び立つ機体だと思うのでは?)チャレンジャーやコロムビアは触れるくらいで良かったのでは?

ついでに、アポロ8号からの宗教メッセージや、第一次湾岸戦争の方のブッシュ大統領の演説が大きく取り上げられるので、どうにも宗教臭さまで出てきます。

大体、宇宙飛行士に焦点を当てているのに、ガス・グリソムやアームストロングが事故(前者マーキュリーの沈没、後者月着陸船のテスト中爆発)から生還した理由を「運」と言い切るなど、(しかも、二回も!)何とも失礼な内容に。「ライトスタッフ」なめんな!


最後に、ゴスペラーズの日本語主題歌を入れた博報堂の担当者は、死ねばいいと思いますよ。
しかもその歌詞の内容は、「恋人が出来て世界が変わりました」という、恐ろしく個人的で目の前しか見えない系統の物。いや、別にラブソングは良いんですよ。でも、多くの予算や個人の献身を悪魔のように飲み込んで行われたビッグプロジェクトのドキュメンタリーで、そんな個人的な物を持ってきてどうするんですか?
ラブソングを使いたいなら、「FLY ME TO THE MOON」で行けばいいじゃないですか!正直、最後にシナトラのあれが流れるだけでも、だいぶ印象は違うはず。内容も上記の通り「知らない人間置き去り」の説明不足なわけですから。

本当に、期待して観に行っただけにガッカリでした。walkerplusのユーザー平均点が、辛かった訳です。



遠い空の向こうに 【ベスト・ライブラリー 1500円:第3弾】 [DVD]
遠い空の向こうに

口直しに、とてもさわやかな宇宙物の紹介を。
貧乏炭坑町のダメ学生達が、スプートニクショックに触発されて、自作ロケット作りに挑む青春物。

ロケットで研究発表

女の子にモテる
大学の奨学金ゲット

ホワイトカラーの仲間入り!

と言う明確な目標提示が、時代の空気を良く表しています。ちなみに、原作「ロケットボーイズ」はNASAの技術者の回顧録。

原題が "ROCKED BOYS" で、映画が "OCTOBER SKY"。つまりアナグラムなのですが、日本語にすると訳がわからない題名になってしまうのが残念な所。

格差をぶち抜くライフプランが、説得力を持って受けいれられる時代…… 問題は矛盾の存在ではなく、それが乗り越えられるという期待が持てるかどうかにある、という奴ですね。
ちなみに、映画では明言されませんが、当時大学に行けない学生は、徴兵免除が効かずヴェトナム送り。「格差」は、一面洒落にならない巨大さだったりします。



当BLOG内の、その他の映画関係記事はこちら
当BLOG内の、その他の宇宙関係記事はこちら


  
タグ :宇宙映画


Posted by snow-wind at 22:00Comments(0)宇宙

2009年08月23日

「宇宙へ。」鑑賞未遂


アホみたいに重い公式サイトはこちら

NASAの記録フィルムをふんだんに使ったドキュメンタリー、「宇宙へ。」(そらへ、と読む)を見に行きました。
ところが、会場30分以上前にチケットは完売。スゴスゴと帰宅する羽目に。

公開二日目まで500円というのは、そんなに魅力的なんでしょうか?

「宇宙」と書いて「そら」と読むふざけた感性。(原題は「Rocket Men」)
日本語吹き替えしか用意していないふざけた態度。(折角の未公開記録フィルムが!)
日本側の配給会社は、まるで「解って」いません。

かと言って、NASAのアーカイブ無制限アクセスと言う売り文句や、今更アポロ計画と言う内容が、一般層を引きるとも思えなかったのですが……
劇場の係の人が言うには、とにかく500円のせいだろうとの事でしたが、興味のない映画はただでも見ないでしょう。
本当、どう言うことだか解りません。

とりあえず、この混雑は所詮最初数日とのこと。短期で打ち切られるのは間違いないと思うので、早めにちゃんと見る機会を作りたいと思います。

でも、念のため、少し早めに言って様子を見ようと思いますが。


  


Posted by snow-wind at 22:00Comments(2)宇宙

2009年08月16日

軌道エレベータ事始/ 『軌道エレベーター―宇宙へ架ける橋』感想

軌道エレベーター―宇宙へ架ける橋 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
軌道エレベーター―宇宙へ架ける橋 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


軌道エレベータは好きですか?

僕は、大好物です。


そりゃあもう、「天才幼女が膝の上に乗って、軌道エレベータの工学的解説をしてくれる場面がある」と言う話だけで、

うさみみデリバリーズ!!
うさみみデリバリーズ!!

を、即買いしたくらいに!

ちなみにそのシーンは、舞台設定と連動して凄く切なくて良いシーンでした。ただ、工学的に見て、プランに納得の行かない所があるのが不満でしたが。


と言うわけで、軌道エレベータの一般的な解説書としては非常にできが良く、好き者必携の書だったにも関わらず、絶版でプレミアだったこの本の紹介です。

元のハードカバーがこっちで、文庫になった今回のがこっち。価格が一気に1/10くらいまで落ちて、お手頃そのものに。



「軌道エレベータ」とは、ガンダム00にも出ていたあれ。文字通り、宇宙まで続くエレベータです。「軌道塔」と言われることもありますが、この方がイメージしやすいかな?

高度約36,000キロメートルの上空は、「静止衛星軌道」と言い、ここを回る人工衛星は遠心力と重力が釣り合って、地球上から止まって見えます。(地表と角速度が同じ=時間あたり、地球が回るのと同じ角度動くため)
ここから、もの凄く丈夫な糸を垂らしたとすると、その糸は宇宙と地上を結ぶことになります。これをよじ登るような機械を作ると、宇宙までとても安く行けるエレベータになるわけです。

ちなみに、そのままだと当然糸の重みで衛星が落ちてしまうので、反対側にも糸をのばし、バランスを取ります。この反対側の糸は、そのままカタパルトに使える優れものになるので、とても重要。(糸に沿って、地球とは反対側に宇宙船を滑らせると、それは遠心力で勝手に加速されます。ひもに輪っかを通した後、手に持ってを振り回すと解りやすいでしょう)

細かな数字は置きますが、ロケットとは桁がいくつも違うほど安価で、しかも簡単に宇宙に物や人を送れるようになります。しかも、これ自体が前述のようにカタパルトになりますので、宇宙開発は二重の意味で一気に進むことになります。


荒唐無稽な計画と思われるかもしれませんが、工学的には遙か昔に「何ができれば・どの問題がクリアされれば建設できるか」が明確になっている、「枯れた」話です。


そして、それら軌道エレベータの課題と、物理的工学的に見ていかに合理的な物かを詳細に解説しているのが、この本。
本当に薄い文庫本で、読むのには一時間ちょっとしかかからない所もグッド。


軌道エレベータと言うネタは、ガンダムシリーズに限らずSF作品でよく使われるガジェット。元ネタや作品中の描写の意味を理解するための副読本としても、軽くてお勧めです。


例えば、昔スクウェアがフロントミッションの続編という触れ込みで出した「ガンハザード」では、軌道エレベータが作品の背景(と、ラストステージ)で使われていました。
そのオープニングで語られる、「人類は国際協力で軌道エレベータを築き、大きなエネルギー源を手に入れた」と言う意味も、これを読めば納得できます。

また、ターンエーガンダムで出てきた「ザックトレーガー」がどう言う代物かも、これを読めばすぐ解ります。(あれは、「超音速スカイフック」という種類の軌道エレベータです)

00の後半で、私が唯一手に汗握って大興奮した軌道エレベータ崩壊シーンにしても、細かなギミックはかなりリアルに描写されています。(一方で、低軌道ステーションの描写などで、「嘘をついている」所もわかります。勿論、アニメとして見栄え優先で変えている所なので、文句を言うべきではないでしょうが)


なお、建設に向けて、日本でも社団法人の宇宙エレベータ協会と言う所が、研究情報の共有や資料集めと共に、啓蒙宣伝活動を行っています。


繰り返しますが、軌道エレベータは一見荒唐無稽に見える建造物ですが、ワープやタイムトラベルのような「遙か未来に可能になる可能性が無い事もない」ような、オーバーテクノロジーの産物ではありません。現在存在する技術から地続きに、建設可能性を語れるものです。技術的には2030年くらいには、建設開始が可能になるかもしれない、などとも言われます。(実は、政治的問題の方が遙かに大きいという説もありますが……)


とにかく、ロマンの固まりでありながら、実現可能性が非常に高い軌道エレベータ。興味を引かれた、是非ともこの本を一読してみて下さい。


楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)
楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)


今回紹介した本の中にもありますが、軌道エレベータと言う構想が一気に有名になったのは、最近亡くなった大作家、A.C.クラークが書いたこの小説がきっかけ。
彼らしく、ほんの少しだけ進んだ科学の描写を割とさらりと流し、「そのテクノロジーや計画が、世界をどう変えていくか」を淡々と描いた名著です。
内容は本当に、「軌道エレベータを作る」という、ただそれだけ。にもかかわらず、段階を踏んで計画が進んでいく様子と迫真の描写に、グイグイ引き込まれてしまいます。ベストセラーになったのも、むべなるかな。感じとしては、年代記とプロジェクトXの中間と言った感じですね。
単純に読み物としても面白いので、概説書なんざクソ喰らえと言う考えの方でも、これは別枠でお勧め。

と言うか、クラークの最高傑作だと思います。

「地に足の付いた荒唐無稽さ」とでも言うべき描写力は、本当に必見。
どうせまた絶版になるので買っておくことをお勧めしますが、図書館でも全く問題無いでしょう。私が、「読んだことがないのは人生の損失」と人に言える、数少ない本の一冊です。



ちなみに、こんな格言が思い浮かんだんですが、ま、気にしない方向で一つ。
「SFファンが『お薦めの一冊』を語り出したら、とっととその場から逃げ出した方が良い」
「その本は、彼/彼女の人生に影響を大きく変えたかもしれないが、あなたにもそうとは限らない。と言うか、ほとんどの場合そうではない」
「そもそも、それが良い影響だったかどうかは、よく考える必要がある」


  


Posted by snow-wind at 22:01Comments(0)宇宙

2009年06月13日

相変わらず偉そうな…… かぐやとJAXA

かぐやの撮った映像が、JAXAのWEBページで公開されています。

http://www.jaxa.jp/video/index_j.html

さすがに批判に応え、HD映像で公開していますね。

ですが、相変わらず右下に、邪魔くさいロゴが入っています。



このロゴが、素材として使われる時に如何に邪魔くさいかは、こう言うできの良い二次利用物件を見ると、一目瞭然でしょう。

また、転載条件についてサイトポリシーとやらを見てみると、割と酷いことが含まれています。

重要なのはこの2箇所。

>
>本サイトに掲載されている全てのテキスト、図版、画像、音声、映像等などを使用し、以下の利用を行うことはいかなる理由によっても一切禁止させていただいております。
>
> * 特定の個人や団体・組織の活動を応援・推奨・誹謗・中傷するための利用
> * 公序良俗に反する目的・態様による利用
> * JAXA事業や日本の宇宙航空研究開発事業に誤解を与えるような利用
> * JAXA の組織イメージや信用度を著しく低下させる可能性のある利用、特定の個人や組織の権利を侵害する恐れのある利用(本サイトに掲載された成果(学術研究論文を含む)について、あたかも個人の成果と偽ったり、又は同様な誤解を与えるように扱う行為も、これに含まれますのでご注意ください)


>(データの改変)
>テキスト、図版、画像、音声、映像等を改変してのご利用は、クレジットを表示するための作業を除き、一切禁止いたします。改変とは、図版、画像、音声、映像等のトリミング(例えば、縦横の比率を変更することや画像の一部を切り取ること、原作のイメージを著しく損なうはめ込み行為等)や、色を変更・反転させること等の行為も含まれます。



上はまあ大部分マトモですが、特定組織の応援がダメとなると、打ち上げた三菱やJAXAそのものの成果を提示し、声援を送るのも不可になりますね。
宇宙航空研究開発事業に誤解を与えるような利用、などと言うのはもっとストレートに問題。これでは、JAXAの成果を提示して日本の宇宙開発に批判を加えることができなくなってしまいます。と言うか、著作権法上批判や批評のための引用は当たり前に認められるので、こんな無意味な禁止規定を置いている意味がわかりません。

そして、最低なのは下。写真に丸を付けて強調を付けたり、映像に詩を重ねて動画を作るような事も禁止になっています。縦横比の変更や切り取っての拡大など、良くも悪くも当たり前の利用手法ですよね。
例えば、月面に人口構造物が見える!などと言う与太話をする人間は、間違いなくこれを行います。それに反論する側もしかり。ですが、そう言う与太話をする権利は誰にでもありますし、そもそも与太話でない可能性というのもあるわけです。そのために、検証作業用の画像「改変」は、当たり前に行われねばならないわけで……


と言うかですね、根本的な問題があります。
これは、税金で打ち上げた宇宙機に、国民から義務として徴集した受信料で作ったカメラが積まれることによって、撮影された映像です。著作権を国民に対して主張し、その利用を制限するなど、はっきり言ってあってはならない筈です。むしろ、積極的に国民に利用してもらう事こそ、真の社会還元でしょう。
サイトポリシーに入っている肖像権の問題などは当然別としても、国民に対して「著作権」を主張する権利など、そもそも認めてはならないはずです。これらは、国民の財産であって、一機関・一放送局の資産などではないのですから。


ちなみに、金食い虫と毎回罵られながら宇宙開発をしてきたNASAは、この手の情報公開には本当に熱心です。なぜなら、国民が利用できる有用な情報をばらまくと言う事は、自分たちの存在意義・国民から金を集める大義名分を証明するための、重要な広報活動になるからです。

その辺のポリシーは、NASAのサイト下部に細かく大量の宣言が並んでいますので、一度見てみると良いと思います。


英語が苦手なヒトのためのNASAハンドブック サイトの使い方から宇宙・航空機関連の貴重な画像の探し方まで (サイエンス・アイ新書)
英語が苦手なヒトのためのNASAハンドブック サイトの使い方から宇宙・航空機関連の貴重な画像の探し方まで (サイエンス・アイ新書)


ちなみに、たかがWEBサイト一つ見るために、解説本まで存在したり。
実際、大量の情報が公開されているので、こう言うものを片手に見てみるだけでも、かなり楽しめるかもしれません。

「NASA IN YOUR LIFE」の必死さに涙。まあ、基本に税金を投入してもらうために、出資者ならぬ国民相手のプレゼンなわけです。
親方日の丸という意識とは対極なわけで、そりゃあ覚悟も違います。(勿論、これはこれで問題も含んでいるわけですが)

  


Posted by snow-wind at 22:00Comments(0)宇宙

2009年05月20日

重力井戸の底へ  宇宙開発戦略専門調査会とか

公表された宇宙基本計画案(7)

宇宙基本計画の概要が、かなり見えて参りました。

かなりまとまっている記事ですので、(暇な人は他の記事と一緒に)どうぞ。

本当に、この委員会名簿には、ため息しか出てきません。
消費者代表が徹底的に排除された著作権関係(念のため言うと、選出された主婦連合の委員は、できる限りのことをやってくれています)の審議会なども大概でしたが、これはそれ以上。
何しろ、曲がりなりにも有識者と言えそうなのが、元宇宙研所長と大学教授程度です。毛利さんは確かに啓蒙に大きな貢献をした人ですが、宇宙飛行士というのはあくまで軌道上での土木作業員です。政策のトータルプランニングに適任かというと、相当疑問があるでしょう。誰の利害を代表してくれるか解らない、と言う点でも不安があります。

それにしても、キヤノンの御手洗やトヨタの社長、あげくにバンダイの取締役や、「困った人」としか言いようのない松本零士(!!)が入っているのは、何の冗談なのでしょう?
リコールと不良品と人材使い捨ての山を築いたキヤノン・トヨタの二大戦犯に、独自技術と人材「しか」強みのない宇宙開発に口を出させる?馬鹿も休み休み言って下さい。

と言うか、みずほやトヨタ、日立、キヤノンやリコーの人間が潜り込んでいるのに、何故三菱から委員が出ていないのか?この時点で、三菱の寡占市場を食い荒らそうという動きにしか見えません。勿論悪しき独占ならそれも良いでしょうが、現実的に他に技術があるのでしょうか?
リコール率ナンバーワンのトヨタに、中途修理不能な宇宙機の仕様を云々させるなんて、さすが我が国の政治は優秀ですね!

他のメンバーも、お世辞にも宇宙に関する「有識者」とは言えない面々。繰り返し言及した、素人の「政治主導」で導入された情報収集衛星の悲劇が笑い話に思えるくらい、酷い布陣です。

国内宇宙関係の記事は、取り上げる度にこんなものばかりで、本当に嫌になってしまいます。色々ネタは集まるんですが、書く気が起きないんですよ。「前回の続報ですが、やっぱり酷くなりました」で終わってしまう内容ばかりなので。
全く、勘弁して欲しいものです。

以下傍論。
  続きを読む
タグ :宇宙科学


Posted by snow-wind at 22:00Comments(1)宇宙

2009年04月04日

どこまで続くぬかるみぞ 宇宙開発は、文科省から内閣府へ

今後の宇宙開発体制を決める基礎となる文書が公表された(松浦晋也のL/D)

そして、ここで触れられている資料がこちら

二つ上のリンク先エントリーにはリンクミスがあるようなので、この真上のリンクから見てもらうとよいと思います。
要するに、最低でもJAXAつまり宇宙開発の所管官庁は文科省から離れ、恐らく内閣府が担うことになるだろう、と言う話です。
  続きを読む


Posted by snow-wind at 22:00Comments(0)宇宙

2009年03月27日

だから、無意味に煽るなと 北の「人工衛星」

日本に落下なら陸自を災害派遣 北「衛星」で幕僚長(中日新聞)


前回の関連エントリーはこちら

自衛隊は「災害」に際して、大きな力を発揮します。
ですがそれは、多くの人員と物資を短期間で展開できる組織が、他にないからです。

逆に言うと、そう言った特徴が必要にならない災害に、自衛隊を出す意味はありません。火事が起きたり人が倒れてたら、電話する先は119であって防衛省ではありません。
さて、今回の「人工衛星」落下ですが、自衛隊が実力を発揮する大規模災害かというと、まず間違いなくそんな事はありません。
  続きを読む


Posted by snow-wind at 22:00Comments(1)宇宙

2009年03月19日

サラッと書かれる怖いこと シャトル後計画の遅れと頭脳流出

NASA漂流 宙に浮く『シャトル後』計画


>しかし、アレスは予算不足やトラブル続きで開発が遅れ、シャトル計画終了から打ち上げまでに既に五年の空白が生じてしまった。この間にNASA技術者の頭脳流出が懸念されている。


この中で、一番重要なのはここだったりします。
シャトルがどうしようもないので引退させるのは、もうどうしようもありません。↓なんか参照。



問題は、アレス以下の後継開発が難航していること。まあ、シャトルのメインエンジンを使い回すとか、あからさまな弥縫策だったのでこうなるのも当然なのですが、そんなことを言っている場合ではありません。

ポイントとなるのは、「頭脳流出」の意味です。  続きを読む


Posted by snow-wind at 22:00Comments(0)宇宙

2009年03月15日

「人工衛星」の話 追記

とりあえず、一段目が運悪く国内に落下 → 世論沸騰の路線だけは勘弁して欲しいなあ、と思ったり。

今の内に、「部品が落下してきたら非常に有難い情報源になるだろう」とでも言っておくと、緊張を高めないための予防線になると思いますが、どうでしょう?

  続きを読む


Posted by snow-wind at 22:00Comments(0)宇宙

2009年03月14日

北朝鮮の「人工衛星」の話

首相はじめ政府の皆様、それにネット上の国士様達が威勢の良いことを仰っていますが、基本的なところを。

「弾道ミサイル」と「人工衛星」の違いは、前者がすぐに落ちてくるのに対し、後者が理論的には「永遠に落ちてこない(落ち続ける)」と言うだけです。勿論、後者も空気分子等との衝突で運動エネルギーを失い、「いつかは」落ちてくるのですが。

従って、それが「失敗した人工衛星」なのか「成功した弾道ミサイル」なのかを、外部の人間が判断する方法はほとんどありません。
彼の国が人工衛星であると主張し、ルールに基づいて通知を行った以上、日本政府を含めて誰が何を言っても無駄です。


と言うかですね、前の「人工衛星」騒ぎの時にも思ったのですが、何故わざわざ「弾道ミサイル」だと言うことにしてあげるのですか?
  続きを読む


Posted by snow-wind at 22:00Comments(5)宇宙

2009年03月08日

有人月面探査計画について

月面有人探査、2025-2030年に 政府構想(日経新聞)
タチの悪い冗談、ないしは本当の悪夢(松浦晋也のL/D)

プロフィールの映像を見てもらえれば一目瞭然だと思いますが、私は宇宙開発が大好きです。
なので、中国やインドが熱心に宇宙開発を進める一方で、日本が「ひまわり」の予算すらケチられて危うく後継機が飛び損ねる状況を、とても残念に思っていました。
そこに、一度は「今後十年間独自の有人計画はもたない」とまえで明言されていた有人計画の復活。そりゃあ、心臓が跳ね上がるかと思いましたよ。
  続きを読む


Posted by snow-wind at 20:02Comments(0)宇宙