2010年05月18日

ブラック企業NERV

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE. [Blu-ray]
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE. [Blu-ray]

本エントリーの副題は、「NERVって特務機関に所属してるんだけど、僕はもう限界かもしれない」で。

EVA破(当BLOGの感想はこちら)のパンフを横に置いて、ニートの海外就職日記さんを読んでいて、一つ気づいたことがあります。
それは、あのNERVと言う組織が、笑えるほど見事なブラック企業の典型であり、碇ゲンドウと管理職一同も、ダメな日本の組織を体現していると言う事です。

この線で考えると、TVシリーズでも映画でもあの連中に対した感じた違和感といらだちの理由が、整理できてきました。
それと同時に、当時あれだけ罵倒したシンジ君に対して、申し訳ない気持ちが出てきました。御免よ、君は被害者だったんだね。

では、シリーズを追って考えてみたいと思います。


まず、第一話。シンジ君は父親から呼び出され、単に一緒に暮らすだけだと思って上京(違うか)します。しかし、ゲンドウは別に親子云々など知ったことではなく、単に便利な労働力が欲しかっただけなのです。
何しろ、働かせると言う事すら告知せずに、開口一番こう言い放ちます。

「働かないなら帰れ」

これの恐ろしいところは、シンジ君に働く気など最初から無い事です。まだ中学生ですし。当然彼はへたれて拒否するわけですが、それが普通でしょう。ところが、他の管理職一同も、「自分から逃げちゃダメよ」などととんでもないことを言い放ちます。
自分じゃなくて、無理難題から逃げてるんだよ!ですが、労働=神聖な義務ですから、そんな価値観は許されません。周囲の作業員に至るまで、「何だつかえねえな」という視線を投げ、圧迫感で包囲します。

そこで、ゲンドウが取る手が、また典型。包帯だらけの美少女を引き出し、「ほーら、おまえが働かないと、この子が大変なことになるよ」と脅しをかけます。これなど正にブラック企業の常套手段ですね。「有休は取ってもいいけど、仲間が苦労すると思うよ?」「無責任な!残された仲間はどうなるんだ!?」

言うまでもありませんが、綾波を無謀な戦いに引き出すのはゲンドウであってシンジ君ではなく、彼が罪悪感を抱く理由など1μgもありはしません。代替パイロットすら用意せずに組織を作ってきた彼が、経営能力皆無の馬鹿だと言うだけです。
しかし結局、この脅迫に負けてシンジ君は一回だけ、と言う事で仕事に参加することになります。

ところが、これまた最悪なことに、何も準備なしにシンジ君は一人現場に放り出されます。入社一日目に「度胸試し」と称して飛び込み営業をさせるのと変わりません。何しろ、彼らは司令室から戦闘を見物し、歩けただけで大喜び。

でまあ、順調に研修社員の精神に負荷をかけつつ最初の仕事が終わるのですが、次からの研修もひどい物。
「目標をセンターに入れてスイッチ」と言う、結局実戦ではクソの役にも立たなかった単純作業を延々と繰り返させ、洗脳を続けます。結局小口径の火器自体、作中一回も役に立っていないのですが、毎回そんな物を持って出撃させられる彼らの姿は涙を誘います。後から書きますが、毎回現場のド根性で切り抜けているだけで、管理職は何の役にも立っていません。
しかも管理職は、そんな訓練を続けるシンジ君を見ながら、「最近の若い者は従順すぎる」というような、勝手なことを言っています。

ついでに言うと、あれだけ場所が余っている都市の中で、なぜか彼は上司と同居。福利厚生クソ喰らえ&「連帯感至上主義」の典型的ブラック企業がここにも。上司が常に一緒にいるのに、部屋に鍵すらかからないあれは、蟹工船並だと思うのですが。
それと、給料が払われている形跡もありませんね。当然、有給という概念すらなさそうです。むしろ、「学校に通わせてやって居るだけありがたく思え」くらい考えていそうです。

また、後になると同僚まで同居を始めますが、これまたトヨタのチーム方式をさらにどぎつくしたような状況。あげくに、家事までシンジ君の担当なので、最後の言い訳である「保護者を用意する」と言う建前すら崩壊しきっています。

また、一番最初のゲンドウの言葉から一貫しているのが、「働かせてやって居る」と言う素晴らしい態度。
何しろ、「いいですよ、働けばいいんでしょう。他に人なんか居ないじゃないですか」と、全くの事実を指摘するシンジ君に向かって、直属の上司は「そんな気持ちで働いて欲しくない」と言い放つのです!いやあ、労働だけじゃなくて心まで捧げろなんて、さすがブラック企業で管理職になる人間は言うことが違います。
「代わりがいない」は200%事実なわけですから、土下座してでも働いて貰わなくては困るはずなのに、なぜか彼らは常に上から目線。

特に直属の上司は「あいつは会社の外に友人も作れないゴミだ」みたいな事を言ってますが、放課後を全て仕事と研修に取り上げておいて、よく言えたもんだと思います。

それでもシンジ君は、段々と洗脳されていき、「僕はここで働いていていいんだ」「ここでしか働くことしかできないから」と、社畜道を邁進していきます。

ちなみに、キチガイ直属上司以外で周囲にいるのが、「社長の愛人1」「社長の愛人2」「ワーカホリックのドイツ女」「ワーカホリックのメガネ」(劇場版)と言ったラインナップなのが泣かせます。いやあ、ブラック中小企業ってこんな感じだよね!この辺は、何度か紹介した斎藤美奈子の滅茶苦茶面白い著書で、「問題の大部分は碇ゲンドウというオッサンの下半身の不始末から来ている」(現在手元にないので不正確な引用)みたいな、的確すぎるツッコミをされていたところでもあります。

そして、この企業の滅茶苦茶さをまざまざと見せられるのが、例の「奇跡の価値は」における狂気の作戦。何の根拠もなく、上司権限を活用し、「手形の返済期限が今日までなので、飛び込み営業で大口一個取ってこい。今すぐ」「その在庫処分して手形に回せ?俺が嫌だから断る!」みたいな命令を出す姿は神々しすぎます。
そして、例によって何の助けもせず現場の頑張りのみで事態が解決した後、胸を張って上司に報告。これをそのまま受けいれるゲンドウのぼんくらさも最高ですが、頑張った現場社員への報償は一時金でも休暇でもなく夕飯一回。良くあることですよね!?

しかし、社員達は完全に洗脳完了しており、「良くやった」とか言う社長の一言で、舞い上がって自己実現できてしまうのでした。めでたしめでたし。

しかし、その後は知ってのとおり。いくら社畜根性を鍛えようとも、心は生ものなので、劣悪環境ではどんどん痛んでいきます。
極めつけが、やはり五号機破壊作戦。他社から買い叩いた作業機械をチェックもせずに動かしたあげく、案の定大暴走。その過程で友人を巻き込んだ事を怒るシンジに向かい、また自分たちの責任は一切放擲したまま、「ああん?てめえ仕事とプライベートとどっちが大切だ?」と言い放つ碇ゲンドウ。
これにはついにシンジ君もぶち切れ、作業機械で一人ストライキを敢行しますが、勿論社長は応答もせずに実力行使。そして、立場もわきまえず解雇通告します。

勿論、シンジ君はここで、ファッキン過ぎるこのブラック企業を見捨てて晴れて学生に戻るのが正解。しかし、そうは問屋が卸さないのが、悪質な人間関係による縛りという物です。
と言うわけで、次のデスマーチで元同僚がバタバタ倒れていくのを見たシンジ君は、本社に駆け戻って叫ぶのです。

「僕を働かせて下さい!」

このシーン、TV板の時から違和感抜群でした。だって、本社は既に崩壊寸前で、頭を下げて働いてもらうのは社長の方なのです。それなのに、社畜化完了しているシンジ君は、頭を下げて働かせてもらうのです…… ここに、彼の心が完全に破壊されていることを見て取れるでしょう。あれだけ格好良くなった新映画版でも、なぜかここはそのままでしたね。

ついでに、この直前。リストラされて農家になった元社員が、シンジ君に向かって「君はまだ働くことができる」とけしかける業の深さが最高です。なんて社会だ!


結局、このデスマーチで心を決定的に壊したシンジ君は、以後社畜パワーさえ尽き果てて、鬱病を悪化させていきます。
しかし、NERVはブラック企業ですので、「鬱病なんて根性で治せ」と言わんばかりに仕事量は不変。ついでに、もともとキチガイだった直属の上司もアル中を悪化させるわ、社長の愛人同士の抗争が激化して社内はさらに険悪になるわ、ワーカホリックのドイツ娘も燃え尽き症候群で使い物にならなくなるわで、もうグダグダ。

しかし、事ここに至っても社長は何もせず、なんか偉そうにしているだけ。それどころか、ついにクライマックスには、親会社(株主総会か投資ファンドという可能性もある)であるゼーレに直接差し押さえを受ける羽目になります。
あんた、社内まとめられないどころか、唯一の仕事だったっぽい親会社との折衝もできてなかったのかよ!

しかも、次々に施設が差し押さえを受け、違法操業のかどで社員が逮捕されていく中、社長自身は愛人を連れて逃走を敢行!勿論この際、息子兼使い捨て労働力の事など、一顧だにしません。

まあ、こうして見ると、例の有名なシーンも納得いきますね。あそこでシンジ君が性犯罪に走れるほど「元気が良い」なら、とうに社長を殴り殺すか転職してるはずですから。真面目な人間は鬱になるまでブラック企業に付き合っちゃいますから、注意しましょうね。

さて、ここまで見れば、最後のあのシンジ君の所業(旧映画版)も、納得行くという物でしょう。「こんな世界滅びちまえ」と思っても、何の問題もありません。何しろ、NERVの社是は世界を守ることだったはずですから。「俺がこんな思いして守る意味なんかあるわけねえだろ!」と最後にシンジ君がぶち切れた結果としてのエンディングであれば、あれはあれで十分有りだと思えてきませんか?

何だか、十数年ぶりに、旧作のシンジ君をきちんと認めてあげた気分になりましたよ。



……で、ここまで書いてアップ前にネタかぶりを確認するためにググってみたら、なんかのスレが引っかかったんですが、面倒だし方向性が違うのでそのままアップしていいですよね。


その他のエヴァ関係エントリーはこちら





タグ :アニメEVA

同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事画像
「HELLSING X 上映イベント」に行って来ました
アニメ PSYCHO-PASS #06 「狂王子の帰還」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第6話感想
アニメ PSYCHO-PASS #05 「誰も知らないあなたの顔」 感想
アニメ PSYCHO-PASS #04 「誰も知らないあなたの仮面」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第5話感想
同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事
 意志決定の機会を与えられない物語『この世界の片隅に』 感想 (2016-12-07 00:00)
 「作家性」とは歪さと見つけたり/『君の名は。』感想 (2016-09-08 00:00)
 面白いのが一番!『ゴーストバスターズ』リメイク版 感想 (2016-09-02 01:00)
 素晴らしい、そして欠点だらけの怪作 『シン・ゴジラ』感想 (2016-08-04 00:00)
 これはダメな映画では? 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』感想 (2015-07-10 00:00)
 酷いなこりゃ 映画版Steins;Gate 『負荷領域のデジャブ』 感想 (2013-05-02 00:00)

この記事へのコメント
海外ニート氏のHPより参りました。

面白い記事でしたw
アニメの最初の方しか見たことがなくて話も大筋しかわかりませんが、確かにブラック企業そのものですね。

しかし、こういった企業が現実に存在しているから笑えませんね…
Posted by アツシ@ニート希望 at 2010年05月18日 23:26
海外ニート氏の記事より参りました。

とても面白い記事ですね!こう考えてみるとネルフはとんでもないブラックだったんですね。そして内容に非常に同感です。
私はエヴァファンでもあり、アニメとしては素晴らしい作品だとは思っていましたが、所々で感じる違和感を見事に代弁していただけたような気持ちです。

まだ若干14歳のシンジ君を強引に呼び出して、そして勝手に命令しバカでかい物を守らせて、「ダメよ逃げちゃ」ってそりゃ逃げたくなるだろ普通!!責任重すぎます。理不尽なことでも逃げたら「ダメ人間」のレッテルを貼られるなんて…。
シンジ君は一般的に「ヘタレ」と言われるタイプですが、至って年相応の少年ですよね。少なくとも私が14歳の頃よりしっかりしています。
そんなごく普通の少年の良心に働きかけてエヴァで戦わせるなんて、よく考えたら恐ろしいアニメですねw

日本の企業でもこんなことが日常に起きているのかと考えると、本当に恐怖です。
Posted by 晴みそ at 2010年05月19日 18:52
こんにちは。確かにそうですね。 ミサトがシンジに私たちだって死ぬ覚悟してるのよ(ちゃんとしたセリフではありませんがこんな意味です。)といった時、いや、あんたら死ぬ前にあんたらの半分しか生きていない若い子が先に死んでまうから!と思ったことがありますが、やはりブラックだからの考え方なんですかね。
Posted by エババア at 2010年05月19日 21:46
お二人とも、コメントどうもです。
基本的には面白おかしく茶化したネタなんですが、さすがに「乗せてください!」や「そんな気持ちで乗って欲しくない」は、誰も疑問を持たなかったのか不思議です。
多分、アニメ製作会社と言う物が、凡百の業界を寄せ付けない真っ黒けの猛者揃いだからなんでしょうけど。

あと、あれだけやりたい放題やっておいて、他企業が開発してたEVA代替機の生産を妨害してたりするのも最高です。代替手段もぶっ壊していて、頼みのシンジ君にはあの態度。世界の運命より自社の(超短期的な)利益という潔さは、正に鑑かと。
Posted by snow-windsnow-wind at 2010年05月19日 21:54
と、書いてる間にコメントが増えてました。
エババアさんもどうもです。
そもそも、自分の覚悟(単なる個人的な思い)を基準に、他人に偉そうに説教する事自体が、とんでもなく痛いんですけどね。シンジ君も、かかってるのはお前の命じゃなくて俺の命だ、位言って上げればいいのに……

「奇跡の価値は」なんて、正に典型で、「自殺したいなら一人でどうぞ」と、誰も言わないのが不思議です。と言うか、ATフィールドで生き残れる可能性のあったパイロットはまだしも、本部に残る羽目になった末端職員の事を思うと泣けてきます。
Posted by snow-windsnow-wind at 2010年05月19日 22:01
「世界の運命より自社の(超短期的な)利益という潔さは、正に鑑かと」
>>

噂では、「世界」を「自国」と入れ替えてみた場合にあてはまる政権があるとかないとか。口蹄疫とかで。噂だって信じないとやってられないですが。
Posted by Aruzya at 2010年05月20日 00:41
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。