2010年06月14日

「雲の切れ間に宇宙船 三日月小学校理科部物語②」感想

雲の切れ間に宇宙船 三日月小学校理科部物語(2) (角川つばさ文庫)
雲の切れ間に宇宙船 三日月小学校理科部物語(2) (角川つばさ文庫)

一巻の感想はこちら

結局発売から一月ほど経ってしまいましたが、川端裕人の「三日月小学校理科部物語」2巻の感想です。

前回は男子三人組のターンと書きましたが、今回は作者が言っているとおり、七実のターン。なるほど、基本的には専門馬鹿のきらいがある三人に対し、全体を統括するような立場を担当するわけですか。CO2ロケットの伏線も自力で回収していましたし、今回実務面でも大活躍。

さて、物語はとても面白かったのですが、読んでいてちょくちょく引っかかりました。それは、「これは、一体どの辺をターゲットにしているのだろう?」と言う事。
一応、児童文学のレーベルらしく裏表紙に「小学校上級から」と書かれています。つまり、5・6年生以上ですね。ですが、それにしては引っかかる描写が多いのです。
いや、作品がどうこうよりも、レーベルの方向性として。

例えば、ビーカー、フィルムケースと言った、すぐには今の子どもが思い浮かばない物にこそ、絵が必要なのでは?アンケート葉書には「おうちの人に確認してもらってから出してね」と書いてありますが、「確認」という漢字を習うのは何年生?作中は、全てふりがなが振ってあるのですが。
酸化剤の説明やロケットの図なども、説明しすぎるとくどくなるが簡略化すると意味が無くなると言う、苦労が忍ばれる内容。児童文学だと、気体定数とか言えないですもんね……
ただ、「気体になるともの凄く体積が増える」と言う部分は、一言で印象づけておくべきだったんじゃないかなあ、などと思ったり。

巻末のレーベル刊行書籍一覧を見ると、星新一や筒井康隆、宗田理などが並んでおり、どちらかというと中学生位がターゲットなのですかね。ですが、そこはラノベが強力に食い込んでいる層でしょうし、棲み分けは大変なのかもしれません。と言うか、恐らくラノベ読者未満に向けて、本を読む楽しさを、と言う趣旨なのでしょうけれど。
帯の折り返しに書かれている、レーベルマスコットに関する「つばさちゃんのこと」は、本好きの子どもだった諸氏には笑みがこぼれる内容ですし、応援したいところです。

さて、その面白かった内容の方に。

起承転結の「承」と言う事で、理科部の秘密についてはかなり伏線が撒かれます。そして、それをポイントだと強調しています。つまり、時間理論について、かなり矛盾(疑問点)のある話がされるのですが、そこをきちんと指摘して伏線化するのが七実さん。
「みんな、目の前のことにしか興味がないんだから」と言って、この巻で一番大きな謎に挑む様子は確かに探偵。そして、俯瞰的に物語を眺めている読者に、一番近い存在になるでしょう。
なるほど、今回確かに「七実のターン」です。

この、「伏線だと強調する」と言うのは、一見矛盾するようで大切です。これを怠ると、良くある「作者が知らないだけかと思ったら伏線だった」「単なるミスかと思ったら伏線だった」と言う、ストレスフルなことになります。不思議な描写があった場合、「何かがおかしい」と言う事をどこかで示しておかないと、おかしいのが事象か作者か解らなくなってしまいますから。勿論、その場では全く別の解釈が行えるが、あとになって反転するというのが、優れた方式なのは勿論です。けれど、そうでないなら、こう言う操作が必要になるわけで。

また、七実の携帯電話の待ち受け画面を見て、主人公の胸が痛むシーンなど、本当に王道の「意識させる」展開。頑張れ主人公、君はまだ負けたわけじゃないぞ!と、当時の自分を見る思いでエールを送りたくなりました。
同年代の読者だと、どういう風に感じるんでしょうね?

そして、今回上で書いたとおり伏線としての矛盾を孕みつつ展開する時間移動は、タイムファンタジーの王道。上げればキリがないですが、そよ先輩の最初のシーンなどは、めるへんめーかーのグリーンゲイト物語を思い出しました。
この人も、良いタイムファンタジーを多く出してたんですけどねえ…… またいつか漫画を描いて欲しい物です。

5~6巻で完結と言う事は、最初からつきあい始めた読者は中学卒業前くらいという事になるのでしょうか?予定通りに行けば、かなり上手い時間構成になるかと思います。


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