2010年07月03日

誰かが夢見た大宇宙 「宇宙ショーへようこそ」 感想

The Art of 宇宙ショーへようこそ 上 (『宇宙ショーへようこそ』背景美術画集)
The Art of 宇宙ショーへようこそ 上 (『宇宙ショーへようこそ』背景美術画集)


↑正直、本編より高くなるような物はどうかと思うのですが、この作品については背景画集は欲しくなります。


映画の日に休みが重なったので、映画のハシゴをしてきました。

そして、引いた大当たりがこの「宇宙ショーへようこそ」です。(やや残念だった作品については、後日書く気が起きたらと言う事で)

この宇宙ショーへようこそは、「R.O.D」や「かみちゅ!」で一部に熱狂的なファンを持つ、舛成孝二監督&倉田英之脚本の、劇場用アニメです。
内容は、偶然助けた宇宙人に連れられて、田舎の小学生五人組が宇宙を旅する、と言うロードムービー(?)。アクション有り、笑いあり、涙ありの大作に仕上がっています。まあ、それが色々と問題を生み出しているわけなのですが……


と言うわけで、感想です。例によって、結論が先。

1,とにかく情報詰め込みすぎ。要素入れすぎ。ガチャガチャしすぎ。パンク状態。
2,だが、面白い。テーマもグダグダに見えて、実は一貫していてブレはない。観に行って損はない。
3,加えて、宇宙・SF好きにはたまらない内容を含んでいる。


まず1。
もう、最初からぶっ飛ばしています。冒頭の緩やかな各キャラ紹介が終わった瞬間、ほぼシームレスに最初のイベントに突入。宇宙人と出会い、宇宙に旅立つまではとにかく一瞬。
そこまでは、まあ冒頭なので良いとして、以後の矢継ぎ早なシナリオ展開に気持ちが付いていかない部分が出てきます。
特に、目的が今一曖昧なまま寄り道のようなイベントが連発するため、情報の取捨選択ができないと(また、演出に込められたSFガジェット・オマージュにニヤニヤできないと)結構辛いことにもなってきます。
特に、中盤以降複数のシナリオ(主人公と従妹の関係、案内役宇宙人の過去、宇宙ショーの正体、わさび)が併走するため、非常にガチャガチャした印象になります。
それだけ詰め込んで尺が足りなくなったか、信じられない位バッサリと切り捨てられている内容もあり、(結局、何だったか解らない重要ガジェットが複数あります)ちょっと驚かされます。
時間不足はとにかくあちこちに影響を与えていて、序盤のラスト、月からの出発のように、「そこは、あと最低20分積み重ねがないと泣けない」と言う勿体ないシーンも見られます。いやあ、音楽も演出も良いんですが、交友したのは一日ですからねえ。


しかし、2。
面白いんです!冒頭のアクションシーンから、各キャラクターの関係を端的にまとめたキャラ紹介を経、宇宙人が登場してからは超特急。月、銀河、さらには数千万光年の彼方まで、色々な表情を見せる宇宙に案内され、うっとりしているうちにシナリオは進みます。
確かに情報が錯綜するのですが、画面上の作りとしては「良くある三人組の間抜け悪役」だったり「とりあえず悪そうな奴」と、割り切って構わない配慮ができています。メインターゲットであろう子どもにとっては、悪役は悪役で動機やガジェットの設定などどうでも良いわけで、結構上手く割り切っているんじゃないかと思います。
ただ、それまでの演出と類型処理で十分理解できた、人間関係の問題等を、後半一々セリフで説明していたのは勿体なく感じました。そのシーンには動きがほとんど無いこともあって、ちょっと戸惑ってしまいました。

とりあえず、画面のわかりやすさ(女の子をさらうんだから悪役、変身宇宙人は格好良い、敵の怪物は禍々しい)はちゃんと考えられていて、漫画映画かくあるべしと言う内容。ここで情報を大幅に削減することで、「どちらを応援したらいいのか解らない」「今何を主人公達はしようとしているか」「どうしたらハッピーエンドに行くのか」を、子どもに悩ませる事はないと思います。いや、これって本当に大事な事なんですよ。
大量にばらまかれて視聴者を混乱させる情報や設定は、実は気にしなくても楽しめるのです。そこに気づけば、困惑することもありません。

そして、情報がガチャガチャし、並行するイベントに振り回されつつも、テーマは最初から最後までぶれません。月についた時点で発生する内容で「え、そこまで解りやすく言っちゃって良いの?」と思った物ですが、そのまま最後まで正面突破。清々しい余韻を残します。

↓以下ネタバレ反転

周(あまね)の言う「自分の力で」と、清の言う「僕は子どもだから」は、対応しています。未開人類である地球人は宇宙では「子ども」に他ならず、彼らが解決と救出を宇宙の権威機関に任せず立ち向かうのは、これに直結します。
そしてもう一つ、「一人はみんなのために、みんなは一人のために」。宇宙人と地球人が協力して活躍する後半は、つまりこう言うことであり、それこそがあの世界で地球人が将来宇宙人達と共に歩むことを保証するわけです。
一方で、和解できないまますれ違う周と主人公(夏紀)は、地球人同士ですら困難なコミュニケーションを浮き彫りにして、前途の多難さを示します。しかし、二人は結局言葉にすると言う、とても簡単なことで解決してしまう。一方で、高度な文明を持つ「大人」であるはずのポチ達は、結局最後まで関係を修復できないまま終わります。(ここは、本当に切ないポイントです。大人達は、内心をさらけ出して和解することはできず、殺し合いまで演じた上、背中を向けて別れるしかないのです)
勿論、インクと康二のように、子ども同士で友情を築くエピソードが、何を示すかは言うまでもないでしょう。

ちなみに、主人公自体は最後までSF展開から距離を置いているのも好感触。あの中でも彼女は彼女を貫き通してるんですよ。最後に上げる名乗りが「サマー・シスター」であることは注目に値します。つまり、「夏お姉ちゃん」であろうとし続けているわけです。
彼女は、大人達の演じる大きな物語(実際のところ茶番)など興味はありません。ただ、真っ直ぐに周を助けようとしているだけです。そして、そこが良い!

↑反転ここまで

つまり、小松左京の児童向け短編のできの良い物や、藤子・F・不二雄の心温まる系エピソードの系譜ですね。自分の力で、と仲間と一緒に、は、決して矛盾する物ではありません。

また、画面のわかりやすさは上で述べましたが、映像の素晴らしさ・イメージの美しさは特筆物。「え、いきなりそれなの!?」とのけぞる月のシーンに、入管イベントが終わって一気に展開する視界の楽しさ。道行く宇宙人の多彩さもそうですし、彼らが行く繁華街や鉄道、田園地帯に不思議な動物のワクワクする絵面と言ったら、もう!あ、SF関連のは後で書きます。

それだけでなく、冒頭の地球、田舎の光景ですよ!谷間に貼り付くように作り上げられた集落、朝靄かかるわさび畑。谷が広くなったところに作られた、住宅地と古い小学校。白いバンで配達をするトラックに、アスファルトが木の根に浸食される山の道……
BLOG主は子どもの頃、ああ言う典型的な田舎の山村にある親戚の家で夏休みを過ごしていました。懐かしさという点でもそうですが、家自体は結構近代的だったり、とても良く取材して作られていると思います。単品として見た時の美しさ、ここと宇宙のシーンが二大巨頭ですね。
勿論、異星人の街の光景もとても素晴らしいのですが、あちらは「ワクワクするテーマパーク」のような作りになっていますので、性格が異なります。

この辺や宇宙人のデザインは、去年のサマーウォーズと同じですね。ただ、サマーウォーズのアバターよりも、私は今回の宇宙人達の方が好きです。犬型は除いて(笑)

後、キャラクターの立ち方はすごいですよ。各人がちゃんと最初に提示された特徴に忠実に、それに沿った形でイベント起こし、関わって行き、ブレがありません。みんな、大好きだ!


そして、最後に3。
これは、何というか、一部の好事家だけに関わる部分なので、多くの人は↑二項目だけで判断すればいいと思います。
ただ、この部分で、私は思いきり胸を突かれたのです。

と言っても、いわゆるSF設定、科学的な話だけではありません。確かに、科学的に正しい描写(星を覆い隠し背景を闇に落とす地球光、高速で通り過ぎるハッブル、月表面のクレーター、瞬かない星々)もあるのですが、見栄え優先であえて無視している部分も多いです。あ、悪口じゃないですよ。あれは、その方が明らかに映えるシーンで使われていますから。
まあ、エンディングの背景で何度か出てきた、「平行に並ぶ複数の輪を持つ星」だけは、勘弁して欲しかったですが。衛星の軌道面は重心を貫くので、絶対ありえない上に格好悪いです。
一方、祭がグレートウォールで開催されるのは周囲に邪魔な光源がないからだろうなとか、そう言う想像は楽しめます。何しろ、あのシーンの背景では、描かれる星のほとんどが銀河でしたし。

しかしメインは、宇宙に対する思いや大人世代の切なさと子ども達の真っ直ぐな視線。
各種オマージュもあるのですけどね。リングワールドがある星とか、アカシックレコード(仮)を管理している官僚組織とか。
宇宙人にしても、大型と見せかけてくっついている寄生虫のようなのが集合知性を持つ本体なんだろうなとか、鉱質ガラス製の身体を持つ種族など、モブも主要も飽きさせません。特に、康二のお相手となるインクちゃんは、身体の構造を把握するまでしばらくかかりますが、動きの面白さと可愛らしさを兼ね備えた見事すぎるデザイン。間違いなく、SFヒロインの風格です。(いや、スペオペ的なアレではなく……)

そもそもネタバレ部分に書いたテーマ自体が、繰り返しジュブナイル系のSF作品で使われてきたネタ。真摯に描き込みがされるだけで、腐れSFファンは自動的に感動できます。
特に康二のパートが顕著で、彼の思いとこれから目指さなくてはならない道、そして最後の最後で父親が彼の質問に答えるセリフの意味を思うと、本当に泣かせます。

↓ネタバレ反転

彼が「必ず(自分の力で)会いに行く」とインクに言わなかったのが残念だったのですが、一緒に観に行った友人は、だがそれが良い!と言う評価でした。
一方、康二の父は、「コスモス商店」の名と「コスモス」が花の意味ではないことを示す店のロゴ、そして宇宙飛行士の本が「物置にあるはず」と言うセリフで、SFファンの心を鷲づかみです。子どもにその思いを引き継げるなんて、素晴らしいじゃないですか!天の光はすべて星ってわけですよ。
勿論、ポチの格好良さも指摘しないわけにはいかないでしょう。序盤はただのロリコン犬で、偉そうなことを言いつつがま口を切なそうに覗き込んでいるわ、ギャンブルで挽回を図るわ、ダメな大人の典型ですが、後半大化けしてヒーローに。やるべき事を見つけ、しかるべく扱われる(ホームグラウンドに戻り「教授」と呼ばれるようになった瞬間から、彼は変わりましたね)事で、見事に力を発揮します。
しかし同時にそれは、「役割」に縛られそう言った後押しがなければ格好良くなれない大人の、寂しさの象徴でもあるでしょう。結局彼は、敵を倒し宇宙を救っても、何も取り戻せなかったわけですから…… もっとも、いずれは、子どものように簡単にはいかなくても、彼も色々な物を取り戻せる日がくるのかもしれません。ただそれは別の物語で、別の時に語るしかないのでしょうが……

↑反転ここまで。


と、以上のように、欠点は多く目に付く物の、本当に楽しめた作品でした。私と感性が合いそうだと思われた方は、観に行って損はないと思います。
ただまあ、どうせなら、全7話のOVAシリーズか13話のTVアニメとかが良かったんじゃないかなあ、と思ったりします。2時間半弱であれだけ詰め込まれ、しかも切るべき所は一所懸命切っているにもかかわらず(代表例は、ポチの物語)月のシーンのように、駆け足故に勿体ない事になっている部分が多くありましたから。

まあ、その辺はBLU-rayなりでのディレクターズカット補完に期待します。
終わった後、一緒に見た相手と欠点の指摘を楽しく(勿論、暗い意味ではなく)行える作品は、得難い物です。あばたもえくぼとは良く言った物で、全部平均点の作品よりも、素晴らしい部分と共に勿体ない所が含まれている作品の方が色々心に残って、こうしてBLOG記事を書くモチベーションも湧いてくると言う物ですね。

本当に、良い物見せていただきました!




7/7追記
たまごまごごはんさんが書いている本作の感想が、私と非常に近い上にとても魅力を解りやすく伝えていたので、リンクを貼っておきます。

私たちの、大きくて小さな修学旅行に旅立とう!「宇宙ショーへようこそ」

特に、後半に書かれている『「劇場版ドラえもん」が好きだった大人がもう一度旅行に出かけられる』と言う一語が、とても胸に響きました。
私も↑でドラえもんを例に出しましたが、子どもの時見た劇場版ドラえもんって、本当にドキドキして、一緒に魔境や海底や宇宙を旅をしている気分になりましたよね。正に、あの感覚です。劇場を出た後も、何だかわくわく感と切なさが残る、そんな体験でした。




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