2010年09月06日

そんなに良い話か? 映画「Colorful(カラフル)」感想

カラフル
カラフル

カラフルは、森絵都の小説(↑)を原作とする、アニメ映画です。監督は、河童のクゥと夏休みや河童のクゥと夏休みモーレツ!オトナ帝国の逆襲で有名な原恵一監督。結構話題になってましたので、見てきました。

さて、表題にあるとおり私の評価はかなりネガティブですが、前置きしておきます。
まず私は、原恵一監督作品に特に思い入れはありません。少なくとも、名作と名高いオトナ帝国の逆襲については、ノスタルジー描写が鼻につきすぎてあまり好きになれませんでした。
また、原作者の森絵都さんにしても、その作品は「完成度はもの凄く高いけど、遊びがなくて落ち着かない」と言った印象を持っています。
要するに、ファンではないか、むしろ少し苦手意識があると言う事を念頭に、参考にしてもらえればいいと思います。(ファンの方の感想は、他にいくらでもあるでしょうから)


と言うわけで、いつもどおり最初に結論を書きます。
1,基本構造や個々の描写は上手い。鼻につくところもあるが、良くできているのは間違いない。
2,主人公に全く感情移入できない。他のキャラも主人公を立てるためにいきなり酷くなる事がある。

となります。あと細かいところは、最後の方に。


なお、性質上、以下の詳細な内容はネタバレ全開です。それが嫌なら帰れ!じゃなくて、ネタバレが嫌な方は、鑑賞してからまたお越し頂ければ光栄にございます。


では、本論に。
まず1ですが、やはり話題になるだけあって、個々の描写や場面作りで秀でている物があります。
例えば、主題とも絡む油絵調の背景。冒頭の病院を煽って取るシーンで目に飛び込む、鮮やかなキンモクセイのオレンジ。主人公が家族との和解へと進むシーンで、象徴的に描かれる山の紅葉。主人公が描きかけにした油絵や、部屋に放置されている鉄塔と黄昏の絵もその心理を体現していて見事です。

そして何より、最初から徹底して(しかもさりげなく)描き込まれている手の込んだ食卓の描写が、きちんと伏線として機能しているという快感!手を変え品を変え出される気合の入った食事と、主人公が貪るジャンクフード、そしてひろかさんが差し出す駄菓子の三点対照は実に良くできています。

細かいところでも、世田谷線の古い写真が動き出し、現実の光景と重なる廃線歩きの描写などは、主人公が再生するきっかけを上手く示していて気合十分。また、ネットのあのあたりではビッチ呼ばわりされるであろうひろかさんの、陸橋下での真に対する態度など、筋が通っていてとても素敵でした。(あの論理を批判する資格も理由も主人公は持たず、故に独りよがりな彼の自業自得ぶりが際だちます)まあ、これら場面について色々言いたいことはあるのですが、それは次に。

全体として、主人公の再生を導く外部要因(キャラクター・自然描写等)は”大体において”素晴らしく、楽しんでみることができました。


しかし、2です。
とにもかくにも、主人公への感情移入がとても困難で、しかもその困難さ故にオチが簡単に見えてしまい、ゲンナリさせられるのです。(これは、森絵都作品で良く感じるものをなぞっています)

主人公は最初、真とは別人として存在します。ですから、本人が言っているとおり真の母は「どこかのおばさん」に過ぎず、その不倫を軽蔑しているからと言って、家庭を引っかき回しボロボロになるまで追い込むような資格は、これっぽっちもありません。いや、真本人だとしても、あそこまでするのはやり過ぎで、共感はかなり難しくなります。
変人ではあっても悪意はない佐野さんにあそこまでひどい事(脅すために押し倒すまではともかく、眼鏡を取ったあとの発言は、半殺しと全殺しの中間位の目に遭わせても構わない内容です)
そして、見ているこちらは、「この悪行を正当化するエンディングがあるとすれば、『主人公の魂は真の物で有る』以外無いだろう」と、メタ的に予想が付いてしまうのです。

しかも酷いのは、この「別人にしては行動が真でありすぎる」と言う以外に、一番の謎である「主人公の犯した罪」の伏線がないこと。絵を上手く描けたりと言った描写もあるのですが、そもそも「魂が入れ替わったら何が変わるのか」がきちんと説明されないため、伏線になっていません。(例えば、身体能力や「体が覚えてる」感覚について)
そのため、ラストで主人公が「僕は真だ」と言っても、「いや、そうだとは思ったけど、お前がそうだと思う理由ないじゃん」と、突っ込みたくなってしまいます。

また、主人公に共感できない部分の真骨頂として、ひろかが絵を汚そうとする、何の伏線もないシーンが上げられるでしょう。主人公は上から目線で偉そうな事をのたまっていますが、はっきり言ってひろかより主人公の方が数段クズなわけです。少なくとも、自らの欲望に忠実に諸々のリスクを引き受けて行動している(陸橋下で一瞬見せる哀愁は見事でしたが)ひろかは、視聴者の目の前でやりたい放題のDQN行動を繰り広げる主人公よりはるかにマシです。
折角陸橋で完成された(倫理や道徳はともかく、一本筋の通った)論理を見せていたひろかをただの中学生に貶める、自分探しのような台詞を吐かせ、完膚無きまでにたたきのめされた主人公が優位に立てるお膳立てをする演出は、何なんでしょうか?私としては、あの説教内容は、ひろかが主人公に言ってこそ説得力があると思います。(汚れても良い、人はその内に色々な色がある、と言う論理を、彼女は体現しているわけですから)

他にも、魂が抜ける事になっているはずなのに、「はじめてできた友達と一緒の学校に行きたい」と言って受験を強行する辺りには唖然。まあ、上でも書いたメタ視点で、「これがハッピーエンドにつながる以上、そう言う事なのね」と思えますが、主人公の持つ情報から考えれば、ひどい事をやってるんですよ。真に体を返したあと、真が持つのは顔見知りですらないクラスメートと一緒に通う、専門科目もない・自分より程度の高い学校になったはずです。どんな嫌がらせですか?せめて、「真だって僕と同じ条件なんだから、きっとあいつと良い友達になれるはず」と言って、最後に言い残したのと同じ事を友人に言っておく、と言うような演出があれば、話は違うのですが。
そもそも、借宿の体のことなど何も考えず、迷わず私立の最底辺選ぶのとかも、大概ですよね。

最後に、何でもかんでもセリフで説明してしまう演出が、かなり安っぽくつまらない印象を残します。例えば、兄が画面内で果たしていた役割は、もうちょっとオブラートに包んだ言い方をするか、画面に語らせるべき所でしょう。見事に機能した食事のメニューも、もっと「主人公に自ら気づかせる」方法があったはずです。

このように、主人公に全く感情移入・共感できなかった私は、見ているのが辛くて仕方ありませんでした。ただ、一緒に見に行った友人は、「中学生だしむしろ納得できる行動だった」と言って非常に楽しんでいたので、正に人によるかと思います。私は、ゲームのルールも把握しようとせず、意味もなく他者を振り回す主人公にムカツキ、さらには情報の整理(主人公が知っていることと、舞台裏の情報。主人公の行動はあくまでも前者に基づき、後者は物語を作る上で必須だが、主人公の行動に反映させてはいけない)が不十分に思え、楽しめませんでした。


おまけとして、廃線歩き周辺でだけ突然出て来る、「デジカメ発フォトショップ経由」の、安いエロゲみたいな実写取込背景は、勘弁して欲しかったです。動き出す世田谷線の写真に合わせるためだったのかもしれませんが、切り通しを小田急線がすれ違うシーンとか、違和感が酷すぎました。最初に書いた、背景に力を入れているシーンが多いだけに、際だってしまっていました。

最近アニメ映画は当たり続きだったのですが、今回は困った感じの作品を引いてしまったな、と言う印象です。世間じゃ評判良いみたいですが、そこまでの物かなあ、と思う事しきりです。


9/8追記
俺の邪悪なメモさんでは、ひろかの援助交際と母の不倫という二つのセックススキャンダルを取り上げて、面白い分析をしています。
これを見ると、この映画は彼女たちのセックススキャンダルを見て「死ねビッチ!」と思ってしまうような視聴者をこそ、むしろ対照としているのかもしれませんね。その思いがあれば、主人公に感情移入でき、自然に見れるのかもしれません。母相手と違って、ひろか相手にはヘラヘラして応対しているのも、結局は「信じられない」と言う現実逃避だったと言う事でしょう。(だからこそ、陸橋下のイベント以後、ひろかとの会話シーンは無くなる)
ただのその場合でも、やっぱり「ひろかも母も主人公にとっては知らない人であるはず」という問題は、そのまま残ってしまうのですが……


青空/平成のブルース
青空/平成のブルース

最後に、エンディングテーマは良いんですが、何故BLUE HEARTSの原曲じゃなくて、別アーティストにしてるんでしょうか?主人公の痛さも、BLUE HEARTSでそのまま曲がかかれば、かなりイメージが緩和されたと思うのですが。



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タグ :アニメ映画

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この記事へのコメント
森絵都の作品はすべからく主人公に感情移入できない。それは、彼女が意図的にしていること。なぜか・・・。感情移入するのではなく、・・・・してほしいから。
・・・・は、その人の人生に依存するんだ。
この監督もちゃんと理解してるね。そこが素晴らしい。

さあ、・・・とはなんだろうね。じっくり考えてみよう。
Posted by すがり at 2010年09月07日 00:43
友人の方がよくわかってるね。

相手の文章の一部を切り取って挙げるのは非常に失礼だと思うが、「ゲームのルールを把握」って、そんな打算的な中学生は普通いないだろ。ましてやゲームって言っても、人の人生を演じろって話で。

それが出来たら盗んだバイクで走り出す中学生とかいないと思うぞ。

上にも書いてあるが、自分が中学生の時はどうだったか、モラトリアムってどんな感じだったか、というところに自分を落とし込みながら見ないことには。
それをして欲しいが為に、あえて感情移入しづらい様な構成になっているってのはパンフにも書いてあったな。

見事に表面だけを舐めた感じ。

この映画を楽しめなかったのは、原作や製作サイドにあるのではなく、9割方君にあるのではないか。

えらそうに言ってごめんよ。
Posted by かちんこちんこ at 2010年09月08日 23:45
原作は割と軽いタッチのコメディなんですよね
母親のキャラももっと言い訳がましいダメダメっぽい感じで
父親も昔は結構女癖が悪かったとか細かい部分で
変な重さが緩和されていたのですが

アニメ版はシリアスさを高め
父親がほぼ空気・母親の言い訳めいた手紙のやり取りを削除し
プラプラも口の悪い大人の男性から可愛い少年に変えたり、
などなどもろもろの要素が主人公の粗暴な行為がより
強調させる形で作用していた感じでした
監督の意向でしょうかね

これら変更点がまさにご指摘の印象と
重なっていたのである意味ストンと納得いきました

古い記事へのコメ失礼しました
Posted by すがり at 2012年02月22日 22:46
共感したのでコメントさせていただきます。

私はこの本大嫌いですね。
こんなとんでもない主人公になんで皆共感し、褒め称えられるんだろう。
私も中学生時代はバカだったけどこんなクズじゃありませんでした。
映画化もしてこれだけ有名な作品なのにアンチが極端に少ないのも本当に気持ち悪いです。

では、突然失礼しました。
Posted by 通りすがり at 2013年07月28日 16:17
お前らバカか?
真が自分の事真じゃないって思ってんなら自分の身体じゃない分ぞんざいに扱って当たり前だろ。
確かに真はクズっぽい事してるけど、自分の身体じゃないから、半年後はどうせ真の身体は死ぬって思ってんだからクズっぽい事しようが知った事じゃねーよってなんだろ。
ひろかに対する説教とかも自分が一度死んだからこそ言えるセリフで真が一度死んだ事知ってる視聴者だからこそあれに説得力あるって思えると思うけど。
俺は映画だけ見たんだけど、これ楽しめない人ってなんだろ、スゲエ偽善者っつか、めっちゃいい人ぶってる人にしか思えない。
今までの人生で成功しかなかった人とか。
個人的に挫折とかなんやら経験ない人って人間臭さなくてやべえんじゃねえかと思う。
人間臭さ漂う人ならスゲエ楽しめると思うわ。俺は泣いたよこの映画。
Posted by りく at 2014年01月19日 15:14
私が中学生の頃に観ても、この主人公には共感しないし、この主人公はクズだなと、軽蔑しながら観ていたでしょう。

「中学生の頃はこんなもの、この作品を楽しめないなんて偽善者」という考えの人は、主人公と同じような中学時代だったのでしょう。
みんながみんな、クズの中学生だったわけじゃないことを理解してください。
Posted by 偽善者 at 2014年09月14日 09:54
途中で何度もくじけながら最期まで頑張って見ました。この映画の感想を文章にしていただけて、まさしく自分が感じていたことだったのでスッキリしました。ありがとうございました。
Posted by フランスから at 2014年11月30日 08:46
「知ったことじゃねーよ」でのクズ行為はこれ以上無いんだから完全に感情移入できねぇよ!
記事の言い分に完全同意だわ
Posted by いやいや無いって at 2016年05月01日 17:00
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