2010年09月19日

逆転の面白さ 「クロノ×セクス×コンプレックス」 第2巻感想

クロノ×セクス×コンプレックス 第2巻
クロノ×セクス×コンプレックス 第2巻

1巻の感想はこちら

性別逆転ものというだけでなく、タイムファンタジーとして非常に面白かったクロノ×セクス×コンプレックスですが、すっかり忘れていた2巻を読破したのでその感想を。

まず、イラストレーターが変わりました。体が原因のようなので仕方ない所です。
とは言え、やはり表紙には違和感がありますね。1巻の表紙と比べて、主人公はかなり大人っぽく描かれています。まあ、実はこちらの方が設定には忠実なのですよね。実際前回読んでいて、男子としては小柄で気弱なはずの主人公が、入れ替わった体では長身の少女という違和感をずっと感じていたわけで。王子様成り上がりとしては正しいのですが、内面とのギャップ(正確には、読んでいて浮かんでくる像)とズレ有り。

なお、中のイラストはタッチが若干異なる(柔らかくなっている)ため、読み始めると違和感は消滅します。

さて、以下本論。今回は、前回モブでしかなかった学園の男子生徒が実質的な主人公になります。では、シリーズの主人公はと言うと、なんと「ヒロイン」の立場になります。

内容自体は、一日の時間をバラバラに過ごす羽目になった男子生徒が、ヒロインと共に問題解決に当たるという内容。タイムファンタジーとしては正に鉄板で、逆を言うと調理法を間違えると恐ろしく陳腐でつまらない物になります。どこの、最近出たタイム・リープ」の出来損ないみたいな作品とは言いませんが…… って言うか、←が評判良い辺り、私の感性は、市場のメインストリームとずれちゃってるようですが。

閑話休題、と言うわけで今回は女子寮内の人間関係は後景に退き、(重要なファクターではありますが)メインは男子寮のショッパイ日常になってきます。ここで、舞台となる学園の印象はかなり変わってきます。具体的には、笑う大天使ここはグリーン・ウッドに化ける感じです。

そして、今回一番の「逆転」は、やはりシリーズの主人公。1巻において、主人公は女子寮(1巻の描写だとそもそも学園は女子校と変わりません)に入り込んでしまった男子であり、演じる内容から女子の「王子様」となっていきます。つまり、女子の皮を被った男子が(女子にとって)理想化された「男子のような女子」を演じるという倒錯が、メインだったわけです。

ところが、今回視点人物が男子生徒になったせいで、主人公はオーソドックスに「ヒロイン」として見られることになります。
例えば、主人公(の入り込んだ体)は女子にしては背が高く、女子から見ると「王子様」として機能してきたわけです。しかし、男子生徒から見ると十分に小柄であり、見事なまでに「女の子」としか見られません。(中身が男子なので)男子生徒と気軽に話せるという事実も、正に「理想化された女子」に近づくわけです。
そもそもラノベの「ヒロイン」の第一条件は、顔でも性格でもなく、「主人公に興味を持ち、コミュニケーションを取ってくれること」なわけですから。……オタクは普通に話しかけてくれるだけでころっと惚れるよね?やめろ、そう言う事実を適示すんのは!

と言うわけで、1巻において必死に演技して「理想の男子(のような女子)」を演じた主人公が、今回は自然に振る舞うだけで「理想の女子」になってしまうと言う、これまた見事な倒錯が描かれるわけです。

最終的に、話は大きな流れである図書館塔の囚人(やっぱり、どっからどう見ても未来の主人公なんですが、展開的に一ひねりしてくれるんでしょうか?)の予言と現実から戻った主人公が言い残す(死んでないけど)爆弾発言で以下次巻、となります。

しかし、そう言う次巻以降への大きな流れとはまた別に、根底に流れる対外イメージとセルフイメージの分離という、思春期最大の問題(つまりラノベの美味しいテーマ)が巧みに描かれ、今もっとも続刊が楽しみなラノベとなりました。いやあ、クオリティ高いです。
何しろ、主人公は当然として、閉鎖的な女子寮と言い、1巻のヒロインの同情するべきか気味悪がるべきか悩む描写と言い、このイメージ分離問題が常につきまとっていますから。入れ子構造で全てをその問題と絡ませ描写するわけで、面白くならないはずがありません。

なお、この巻はタイムファンタジーとしての側面は薄めですが、ラストで提示された問題は間違いなくパラドックス絡みのはずであり、ここからに期待しましょう。また、舞台の「余白」として、どうにも現段階だとボンクラに見えてしまう教師達は、恐らく意図的に描き込まれていないように見えます。世界設定の根幹に関わる人々でもあるため、ここからいくらでも話の膨らませようがあり、色々な展開が期待できます。



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