2010年10月20日

寺本耕也 『超能力者のいた夏』 感想

超能力者のいた夏 (メディアワークス文庫)
超能力者のいた夏 (メディアワークス文庫)


メディアワークス文庫は、電撃文庫で一時代を築いたメディアワークスが、ラノベ卒業生(または、高年齢層のラノベファン)をターゲットに新設したレーベルです。とは言え、書店も扱いに困るらしく、大体電撃文庫の隣に並べられ「ラノベ棚の中で一際精彩を欠く地味な代物」と化してしまっています。

これで内容が名作揃いならまだ救いがあるというか、「表紙なんて飾りです!」と言う正しい中二病患者を吸収できるのですが、内容的にも死屍累々。要するに、作劇上の「飛び道具」(超能力とか萌えキャラとか世界の命運とかセカイ系設定とか)を売りとして本を書いてきたラノベ作家に、飛び道具無しで本を書かせるのが厳しかったと言う事なのでしょう。そもそも、作品の毛色が違ってしまいますから、ラノベで人気が出たなどは、逆にハンデになってしまいますし。

一般小説に近い作品を書いていた杉井光なんかでも、結構厳しい物がありました。結局叙述トリック一発勝負で、ろくにヤマもない「文学」かよ、みたいな。

と言うわけで、○○文庫(お好きなレーベルをお入れください。アレとかソレとか)並の地雷源認定をしていたわけですが、SFマガジンのリーダーズダイジェストに釣られて購入してしまいました。トータルで、あのコーナーでピピッと来た作品のヒット率は、4割程度はありますし。

そしてこれが、今まで読んだメディアワークス文庫の中では、もっとも面白かった作品となりました。いや、そもそも面白かった物自体が…… と言うのは、言わないお約束。

内容は、事情があって田舎の学校に転校して孤立気味のワケあり高校生が、超能力者と交流を持つ話。とは言え、「超能力」の内容は基本的にしょぼく、また作品の主眼は能力を持ってしまった者の疎外です。
超能力者達は、政府に狙われるわけでも陰謀を企むわけでも、夜ごとに正義の味方をやるわけでもなく、ただ静かに暮らすことを望むだけ。歳を重ねて能力が消え去る(事が多いと言う設定)のを待ちながら、壊れやすい関係を維持しようと努める、いじましい存在です。

つまり、全てを一般小説に寄せて失敗していたレーベルが、基本設定ではラノベよりにしつつ内容を一般小説に少しだけシフトさせる、と言う戦術を採って成功した、という事でしょうか。ただし、作者がラノベレーベル出身ではなく、これが処女作の新人というのが何か皮肉ですが。

もう一つの勘所がキャラクターの描き方で、かなり人数は多い者の、ギリギリで描き分けができています。ただ、やはり中盤混乱することが多いので、ラノベ方式のカラーイラストは要らないにしても、推理小説準拠の人物リストが欲しい所。特に、クラスメート2名とヒロインのルームメイトが困りました。
クラスメートの方は一人が身体的特徴を持つので、毎回そこをさりげなく強調して描き分けて欲しかった所。ヒロインのルームメイトは、ルームメイトであるという事があとになるまで解らないのが問題かなあと。名前だけで描き分け可能で識別描写不要なはずの子に限って、毎回身体特徴を(しかも、今一的外れな形で。外国人というのが一番解りやすい点なわけで、金髪にしておいた方が解りやすかったと思います。赤毛だと、ピンと来ないというか、日本のヤンキーが連想されたりしますし)強調されたりする辺り、技術的な詰めの甘さじゃないかと思いますが。

この辺は、極端な特徴を出してテンプレ処理するラノベが日常になる編集部の、不慣れさが出たのかもしれません。ただ、テンプレ処理を行わないからこそ、一つ一つのエピソードをきちんと描き込めているわけで、「リアルさ」を上手く醸し出しています。何しろ、主人公に惚れるキャラクターは、ヒロインしか居ません。好意は何人かから有りそうですが、「友人」の域を出ません。そして、何より重要なのは、「友人としての好意」が、本当に嬉しい物として描写されているのです。

恋愛感情や解りやすいツンデレよりも、ささやかで居心地の良い好意や信頼。それも、過剰な「燃え」や「萌え」で修飾されないありふれた、だからこそ素晴らしい形の。そう言った物を自然に描くのは、確かにラノベよりも一般小説よりのレーベルが適しています。

何故か解りませんが、設定やキャラ面での飛び道具を使わずに、秋山瑞人が物語を書いたら、きっとこんな感じになるのではないかと思いました。心理描写や、主人公の雰囲気なんかが似てるからでしょうかね?

ただ、ラストについては、
「え、それって伏線のつもりだったの?それ以外の解釈って、そもそも無んじゃ?」
「結局どうして解決できたか釈然としない」
と言う部分が残り、ちょっと残念でした。エピローグとか、しっかりまとまってて良いんですけどね。まあ、デビュー作ですから、それくらいの瑕疵は愛嬌だと思います。

と言うわけで、作者の寺本耕也さんは、今後チェックして行きたいと思います。レーベルごと消えてしまわなければ良いんですが。




その他ライトノベル関係のエントリーはこちら





同じカテゴリー(読み物)の記事
 非常に面白い「娯楽」の理論書 『純粋娯楽創作理論 VOL.1』 感想 (2015-06-20 00:00)
 ナイストンデモ本!ダニエル・ドレクスラー『ゾンビ襲来』感想 (2013-02-16 22:00)
 最近読んだライトノベルの感想 (2013-01-30 22:00)
 胸がむかつくひどい話 『魔法少女育成計画 restart』 感想 (2013-01-18 22:00)
 良質ショートショート 『独創短編シリーズ 野﨑まど劇場』 感想 (2012-12-11 22:00)
 余りに出来の悪いSF 山田宗樹 『百年法』 感想 (2012-11-26 22:00)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。