2010年10月31日

見事なオマージュ 『アンチ・マジカル 魔法少女禁止法』 感想

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫 い)
アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫 い)

2013年追記。新装版出ました↓。
『1』ってついているので、続刊が出る事を期待しても良いって事ですよね?




副題が長いとタイトルにの30文字制限に引っかかるのはどうした物か。
正式タイトルは、「アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~」です。

表題で思い切り書いておいてナンですが、この作品は公式には「WATCHMEN」(wikipediaにあらすじが載っているので、名前しか知らない人は予習すると良いでしょう)とは、何の関係も無い」事になっています。ええ、何しろ後書きに書いてあるんだから、間違いありません!

……逆説的ではありますが、どのような立ち位置の作品かは、この一点で十分に伝わると思います。


作品世界は、90年代に魔法少女の大量発生と闇の勢力との戦いが行われた、もう一つの日本。闇の勢力が駆逐された後、魔法少女達は社会的には厄介者の武装勢力扱いとなり、法規制の対象となっています。
その世界で、ただ一人変身アイテムを捨てることを拒否し、「最後の魔法少女」として犯罪者と戦い続ける女性と、それに憧れ自らも「見習い魔法少女」として活動する少年が主人公です。
物語は、以上のような状況下で、元魔法少女として名を馳せた女性が、ビルから転落死を遂げるところからスタート。実は、彼女はその力を政府のために使って来た工作員。そして、「魔法少女狩りを行う者の存在」を疑う二人は、その死の真相をさぐるため、調査を開始する、と言うのが導入のストーリー。

ほら、ウォッチメンとは、何の関係もありませんよね!?

多少でもオタクとしての素養または90年代の作品に触れた経験があれば、作中の元魔法少女達の、「実在の作品とは何の関係もありません」な感じの描写にニヤリとしつつ、楽しめる事請け合いです。

勿論、「引退」から十年以上経ち、彼女たちはいずれも傷ついたり挫折したり、良い意味でも悪い意味でも「大人」になっているのが、この作品の勘所。これは主人公と鋭い対比をなし、実質的にこの物語が「少年兵問題」に近いものを扱っている事が解ります。幼い心に不相応な力を与えられ、頼られ、しかし戦いが終われば厄介者となって逼塞するしかなかった少女達。それは、前に紹介した元ソ連女性兵士達の悲惨な運命にも重なります。

基本的にアイデア勝負と言うか、「上手い所に目を付けたな」と言う作品ですが、文章力や構成力も悪くありませんし、手堅く(こんな横紙破り作品に、誉め言葉として使うべき単語かはともかく)まとまっています。
ぶっちゃけた話未完なのですが、引きも強く続編が待ち遠しい一冊。ここからどう展開させるのか、ワクワクしてきます。

なお、以下はネタバレ有りの疑問点指摘なので、まだ読んでない方は読み終わってからどうぞ。













と言うわけで、疑問点・問題点です。
物語そのものについては、非常に面白いのは前提とした上で、二点指摘できます。と言うか、そこだけ気になってしょうがありませんでした。

1,後半が詰め込みすぎ・バタバタしすぎ
2,主人公何とかしろ

まず1。
正直中盤までは、「こんなにウォッチメンそのまんまで良いんだろうか」と思いながら読んでいましたが、ちゃんと後半は違う展開になってきます。ところが、ここに大量の焦点や伏線の回収を相互リンクが不十分なままぶち込んでいるせいで、慌ただしく、また描写不足に陥っています。

例えば、主人公が「魔法少女」への恐怖を憶え認識を変えるシーンは、必要だったでしょうか?2ともリンクするのですが、あそこは物語最大のガンだと思います。そもそも、ボコられている主人公も魔法少女で、その力によってほぼ不死状態のくせにあんな事を言い出すわけで、説得力がありません。物語の中では必要な視点なのですが、やるなら2巻以降でやるべきだったのではないかと。

魔法少女の倫理観の機微(ヤクザと手を組んだ警察に対し、手出しをためらう理由はあるでしょうか?本格的な「社会の敵」に仕立てられてしまう、と言う懸念ならともかく)もそうですが、それぞれが大きなテーマだけに、掘り下げて一つずつ処理して行かないと、とっちらかってしまいます。



そして2。
実は、余計な描写・描写不足・強引なシナリオ進行は、全て主人公に押しつけられています。あるいは、主人公がいるせいで、発生しています。

幼馴染に対する一言で言って「ゲロ野郎」な行動の数々もそうですし、肝心なシーンに乱入して話の軸をぶれさすのも、上記のようにテーマを迷走させるのも彼。純粋な「子ども」の立場を成人した「元・魔法少女」達と対比させるためだと思うのですが、それは本来「最後の魔法少女」が担う役割です。象徴的なあの姿と言い、主人公のような能なしが入り込む意味はありません。むしろ、話の筋を綺麗にまとめるなら、幼馴染をそのまま主役にしておけば良かった気もします。

って言うか、ダックさんを躊躇無くぶっ殺したりとか、あり得ないレベルなんですけれど。ダックさんはあの作品を象徴するキャラとも言えるわけで、少なくともあの行動を納得させるだけの描写が欲しかった所。2巻以降では、多分主人公が物語上の悪役になっていくと思われるのですが、それにしても転換点を描いて欲しかった。
少なくとも、彼が居ない方が、話がはるかにスッキリするのは間違いないでしょう。ラストで出てきた黒幕と共に、「第四世代」内の対立軸を描くつもりなのかもしれませんが、「引退した第三世代・戦い続ける最後の魔法少女・第四世代」の三項対立でまとめた方が、美しいと思います。



ただ、この辺については、一巻の数字がある程度出て長期刊行が確定すれば、一気に安定するんじゃないかと思います。数巻に渡って書ける事が決まれば、丁寧に一つ一つのテーマを掘り下げて行けるはずですから。
と言うわけで、続刊制作の発表を楽しみに待ちたいと思います。


P.S.
作者さんのtwitter見て見たら、SF系の人だと解ってビックリ。と言うか、R.U.R.U.Rのライターさんでしたか。
設定読んで滅茶苦茶惹かれて買ってたのに、積みっぱなしですみません。探し出してやるか、それともシナリオ増えてるらしいPSP版をプレイするか……

あと、京都SFフェスティバルって、面白いパネルディスカッションとかやってたんですね。クソ、北海道でやってくれれば良かったのに!




その他ライトノベル関係のエントリーはこちら






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この記事へのコメント
PSP版のR.U.R.U.Rは大幅書き直しで別ライターさんですので気ぃつけてくらさい。あとR.U.R.U.Rの主人公のイチヒコきゅんも同じようなタイプの子供主人公なのでアレかもしんないです。僕はどっちも平気だったんですが、けっこうイラつく人多いみたいですね>イチヒコとサクラ
Posted by 「」 at 2010年11月01日 02:30
情報どうもです。なんか、ONEのPS版みたいな感じですね。PSP版買うのはやめときます。
あ、そこは情報見た時気になってたんですよ<子どもな主人公

まあ、とりあえずプレイしてみます。
Posted by snow-windsnow-wind at 2010年11月02日 00:12
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