2010年10月27日

アレと大違い/『テルミー きみのやろうとしている事は』 感想

テルミー きみがやろうとしている事は (集英社スーパーダッシュ文庫)
テルミー きみがやろうとしている事は (集英社スーパーダッシュ文庫)


2巻の感想はこちら


ライトノベルで、かなりの当たりを引きました。滝川廉冶「テルミー きみのやろうとしている事は」です。
この作品は、不幸な事故でクラスメート全員を失った二人の少年少女が、その心残りを解消すべく奔走する話です。

と言うと、表題に出そうとしたら文字数オーバーになったあの作品(当BLOGの感想はこちら)が思い浮かんで、スピンターンで回れ右したくなる人が多そうですが、まあお待ち下さい。丁寧に作られた良作です。
と言うか、読後に「Angel Beats!って、こう言うことがやりたかったんじゃないかな?」と思う人も多そうです。私も友人に「できの良いAngel Beats!」と言うフレーズで釣って、読ませたりしましたし。

さて、駄作の話は置いておいて、この作品から受ける悲しくも優しいイメージと続きの気になる(クラスメート達の願いは、1/5ほどしか消化していません)読後感は、物語構造の巧みさに起因しています。

この作品の構造は、3点にまとめられます。

1,背景・前提として存在する、重い「死」
2,死者と彼らが愛した者達の相互救済
3,さらに、主人公達と両者の相互救済


1は、物語の前提です。圧倒的な死は物語開始時点に既に起きてしまっており、決して覆せないばかりか、天国や来世と言った安易な救いは否定されます。「死」は極めて現実的に「死」であって変えられず、取り返しも付かないが故に重要。心に入り込んだ最後の願い、と言うファンタジーを成立させるため、この物語はそれ以外の死に関する幻想を、絶対に許しません。
一見あざといですが、ワイルドカードとして終盤に投入されるのと違い、ここから帰納法的に物語が紡がれるため、嫌らしさは感じません。何より、物語のつかみとしては見事に機能しています。(そのかわり、プロローグがもたつき気味なのは気になりますが)

2は、Angel Beats!を「反面教師」と表現するゆえんです。
あの独善的で独りよがりな物語と異なり、ここで描かれる「未練の解消」は、誰の自己完結でもありえません。
死者達は最後の心残りを果たそうとします。ですが、それは死者が満足するためと言うよりも、残された生者を立ち直らせ、「共に」満足して歩き始めるための儀式です。
厳密に言えば死者は「留まってる」のではない、何らかの残留思念に近い物らしいと言う設定も、上手くこの辺を補完します。死は絶対に死なのですから。1で言及したとおりですね。
そもそも、自己完結のAngel Beats!と異なり、この作品で「死者にとっても最も重要」なのは、残された生者なのです。死者の満足とは生者の思いに他ならず、両者は救い合う事で、死を受けいれて本当の意味で歩み始めることが可能となります。
ラスト近辺で象徴的に語られるように、「悲惨な運命を受けいれ黙って消えよう」と言うあの作品と逆に、死や悲惨や世の理不尽を前に「では、どうする?」と問いかける。真に勇気にあふれた物語となっています。

そして、最後の3。
2の相互救済関係は、死者の願いを叶えて回る主人公二人にも当てはまります。生き残ってしまったという罪悪感を抱えた二人(典型的な「サバイバー」)は、死者と生者を救うことで救済されます。同時に、死んでしまったクラスメート達の知らなかった面を知り、その存在を心に焼き付けて第二の生(憶えている、と言うこと)を与えていきます。
登場人物を背景の大道具のように扱う作品と異なり、ここにおいて一人一人のキャラクターが生き生きと描写され、正に生を与えられ、愛おしい躍動感をもって読者に迫ってきます。
主人公の親友が望んだ滑稽で真摯な願いに泣き笑いし、その父親の行動に納得し、今回は一瞬しか出番のない医師のセリフに込められた、万感の思いを感じる。群像劇としては、見事な成功を収めていると思います。
つまるところ、異常な事態に巻き込まれた死者も生者達も、大事故という一つの事象が生んだ波紋に揺れ動く、水分子の一つ一つに他なりません。その共通項の中で、それぞれが抱える思いや未完の行動をたどる物語が、つまらないわけがありません。(勿論、相応の腕前で料理されていてはじめて、の話ですが。この作品のように)

極端な話、この作品において唯一ラノベ的と言うべき「心に宿った心残り」の設定は、なくても話は回るのです。(実は、もう一つテーマはあり、それはこの設定に関わると同時に次巻以降意味合いが大きくなって行くはずなのですが、ここでは割愛)そう言う意味でも、純粋にできが良い作品だと思います。

勿論、「飛び道具」設定満載のラノベだって、大好きですけどね。そうじゃなきゃ、ラノベ読んでませんって。

最近読んだラノベの中では、ラブコメ要素が一切無い(切実な「恋愛」は、多く出てきますが)硬派な作品という意味でも異色で、今後に期待したいところ。私の手元に届いたのは、発売後二ヶ月なのに初版(そのくせ、何故帯がないのですか?BK1様)でしたが、最低限続刊が出る程度には売れて欲しいものです。こう言う良作が生き延びられる程度の多様性が無いと、「何でもあり」が売りのラノベ業界の、沽券に関わるんじゃないかと思ったり。

本当、続刊が出てくれますように。



その他ライトノベル関係のエントリーはこちら





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