2010年11月03日

共感できなさが辛い 有川浩「阪急電車」感想

阪急電車 (幻冬舎文庫)
阪急電車 (幻冬舎文庫)


映画化も決まったらしい、有川浩の『阪急電車』です。

私は有川浩は、「ラノベっぽい飛び道具設定を使わない方が面白い」と思っているので、内容を聞いて手に取ってみました。
ちなみに、今まで読んだのは「塩の街」「図書館戦争」「レインツリーの国」「シアター」。結構面白いと感じたのは、「塩の街」の前半と「シアター」です。

さて、今回も前半は結構面白く読んでいたのですが、折り返し駅に着く頃にはつらさが先に立ち、読み終わった時には、放り出すように本を閉じました。

はっきり言って、感想は「これは厳しいな」と言う物にならざるを得なかったです。
原因は、二つにまとめられます。


1,構成の美しくなさ
2,人物の「正しさ」


最初は1。これは2つの中では小さい方だと思いますが、作品の立ち位置を考えるとより大きな問題と言えるかもしれません。
とにかく、連作短編形式なのに、構成が美しくありません。

基本的にこの作品は、良くある「個々に関係のない人物達が織りなす群像劇」です。であれば、その「関係なさ」を活かし、視点や登場人物を変えながらいかに味のある話を作れるかがキモになります。
しかし、この作品はそれに成功しているとは言えません。

まず、主人公が変わったり変わらなかったりします。バトンを渡すように前話のモブキャラ→次話の主人公と回していくのかと思うと、行きつ戻りつして安定しません。そもそも、電車という「偶然乗り合わせ短時間時間を共有するだけの人々」で構成される空間を舞台に選んだのに、ダラダラと前の登場人物が劇の中心に居座られては興ざめです。この時点で短編集としての切れ味は大きく落ちます。
そして、これは2にも関わるのですが、話のテーマが全部一緒です。と言うか、若者の恋愛ばっかりで食傷してきます。無関係な人々で構成される車内なのに、色々な人が交錯するはずなのに、何処まで行っても同工異曲。ついでに、主人公達の出身階層も価値観も判で押したように似たような物で、連作短編形式を全く活かせていません。
世界観の統一を考えた結果かも知れませんが、まるで演じる役者が数人しかいない群像劇を見せられている気分です。


そして、2。
今更気づいたというと笑われるかもしれませんが、多くの登場人物が乱れ飛ぶこの作品を読んで、有川浩の本を読んでどこに「乗れない」のか解りました。

登場人物が、全員「正しい」のです。

若者は初々しい恋を見つけてゆっくりと関係を育み、女性は凜としてプライドを持って生き、優しさと思いやりと余裕がどこまでも貫徹されます。
勿論、それを悪いとは言いません。しかし、どの登場人物も本質的にこの線を外さず、真っ直ぐにその道を歩み続けられると、一気に息苦しくなってきます。

これは、今まで読んだ作品でもそうでした。人間と人間が向き合っているはずなのに、言葉を交わしているはずなのに、価値観の違いが出てこないのです。
例えばこの作品で言えば、受験生の女子高生が家庭環境を考えて選んだ道は「正しい」です。しかし、担任や塾の教師が進める道も決して「間違い」ではなく、また別の「正しさ」を示しているはずです。ところが、彼女はその助言を「単なる実績稼ぎ」と切り捨て、名のある登場人物はその価値観を全肯定します。
私はむしろ、呪いを込めて結婚式に出た女性の「敵」である女性や、嫌なおばさんの心中を見てみたかったですし、彼らなりの理屈に触れられるのを期待しました。と言うか、連作短編ならそう言う作りこそが王道のはずです。

これが描かないのか描けないのかは解りませんが、これでは本質的に面白くなりようがありません。いくら恋愛や闘争を描いても、それは別の仮面を被った同じ役者が演じているような物です。

その証拠に、私は有川浩の作品で「魅力的な悪役」を見た事がありません。
例えば、「レインツリーの国」で言えば、彼らの価値観と対決せざるを得ないのは、予算や優先順位の問題で障害者に「冷たく」ならざるを得ない、行政や企業です。冷徹ではあっても不合理ではない論理と対決してはじめて、障害者の苦労や「問題」(社会問題という意味ですよ。障害者が問題だと言ってるわけじゃないですよ)が見えてきます。しかし、描かれるのは若い恋人二人の閉じた世界です。
例の表現規制関係(リンク先は当BLOGの関連記事)で度々取り上げられた「図書館戦争」にしても、規制側の「正義」が示されないために、一番面白い思想闘争が描けていませんでした。ドイツの「戦う民主制」のように、どう考えても問題はあるが、当事者(国民)にとっては説得力のある規制論というのは多くあるのです。そうでなくても、規制論者は彼らの価値観で動いており、同意するかはともかくその論理体系を「理解」する事は可能です。それこそが人の営みで、もっとも面白い「人間同士の関係」です。

メディアワークス文庫の中ではとても面白かった「シアター!」にしても、主人公の「正しさ」が貫徹して揺るがないため、面白さが大きく損なわれていました。あの話で言えば、金か満足かが0か1で割り切られている時点で、無理が大きすぎるのです。
例えば、「役者のモチベーション」のために金をかけるのを主人公は鼻で笑います。ですが、それが完成度上昇の重要なファクターである以上、完全に無視はあり得ないはずです。
同様に、新参役者の仕事の都合に合わせて予定を考慮するのを「あり得ない」「社会常識がない」などと切り捨てますが、あれもおかしいのです。何故なら、新規再出発の目玉であるあの新参役者は、三顧の礼で迎えて最大限に便宜を図るのが当然の「金の卵を産むニワトリ」でもあるのですから。

と言うわけで、この作品を読んで、作者の問題だか限界だか私の趣味に合わない部分だかが、明確になりました。これはデビュー作から続き、同じ路線で売れている以上、今後とも変わることは無いでしょう。
作品自体の出来が悪いわけではないので残念ですが、今後は手に取る前にためらう事が多くなるかと。シアター!の続編とかは、やっぱり読みたいのですけどね。




その他ライトノベル関係のエントリーはこちら






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この記事へのコメント
有川浩作品がどうしても好きになれなくて、でも何が理由かわからなくて
もやもやしてレビューを探していたら、私の気持ちをどんぴしゃに表現されていて、驚きました!
作品が悪いわけではないけど、どうしても主観的にしか物事を見れない、世界のせまい主役たちに浅さを感じてしまいます。
そこが問題だったんだ!と気付くことができました。

でも、有川作品は人気ありますから、そこに疑問を持たない人はいっぱいいるのですよね・・・・

すっきりさせていただき、ありがとうございました!!!
Posted by soubuta at 2011年01月25日 20:39
自分は有川作品がすきなので、逆に、正しさしか描かれてないから、好きなんだと解りました!

小説をある種の現実逃避?フィクションなんだと分かった上で読んでいるので、有川さんの正しさに溢れた世界を読んでいると居心地がいいのだと思います。
正しくない出来事は現実だけで充分うんざりですから!(笑)

失礼しましたー
Posted by 通りすがりのものです。 at 2012年01月26日 13:51
>通りすがりのものです。 さん
むしろ、自分の正しさを無邪気に信じ込んで、恐ろしく薄っぺらい話にうんざりさせられる人間こそ、現実で見飽きてるのですが……
Posted by snow-windsnow-wind at 2012年01月29日 13:47
最近思うところあってさまよっていたら発見しました。
なんか、胸がスカッとします、このブログ。

有川浩原作「空飛ぶ広報室」のドラマは大好きだし、身内に空自の隊員もいるのですが、作者がやたらしゃしゃり出てきて発する言葉が…どうにも好きになれない。憲法いじりたい昨今の風潮も劇的に怖い(やっぱり、武装している以上「自衛隊」だろうが「警察」だろうが暴力装置に変わりないのに、なにか勘違いされているような気がしていました…)。
そう、俯瞰目線が足りないオトメ的読み物=有川作品、だったんですね。
どうりでなんか読んだあともやもやする訳だ~

ドラマは楽しみなのですが、有川作品…これ以上は読めなさそう。
その気持ちを解説していただいたようでスッキリ。ありがたいです。

また遊びに来ます(夫と好きな作品が似すぎてます…)
Posted by みけ at 2013年06月22日 23:18
はじめまして。
全く同じこと思いました。
Posted by 灰一 at 2014年02月09日 09:44
初めまして。自分も有川作品を読む度に違和感、というか気持ち悪さを感じていました。それで色々と検索していたら、このサイトにたどり着きました。

>有川浩の作品で「魅力的な悪役」を見た事がありません。

同感です。氏の作品は図書館シリーズ以外はほぼ読んでますが・・・。

今のような時代だからこそ、氏の作品のような『わかりやすい勧善懲悪』『主人公サイドが決して揺らぐことのない価値観や絶対的な正義感を持って相手の事情を忖度することもなく正論のみを振りかざして社会や相手の理不尽を粉砕する話』が受け入れられやすいのでしょうね。

でも、人間や社会、人と人との関わりってそんなに単純なものではないと思うので・・・

ただ、この作品の中で圭一と美帆の話だけは「ほっこり」しました。
Posted by ダイス at 2015年06月14日 00:23
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