2010年11月09日

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」 7巻 感想

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉 ((電撃文庫))
俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉 ((電撃文庫))


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何やら面白い事になったらしいと言う話が、いつもどおり自分で敷いた情報規制の網をかいくぐって届いておりましたが、やっと入手&読了。発売日の遅れが憎い!

アニメ版6話は地味子回でしたが、原作はその遙か先(?)を行き、ついにルート確定かと思われる展開に至りました。


まず冒頭ですが、桐乃の「彼氏になって」は、予想のとおり「彼氏のふり」と言う、エロゲお約束の展開。しかし、その短い行程に「起こりそうなイベントを全てぶち込む」サービス精神旺盛な内容で、腹を抱えて笑わせて貰いました。
特に、「恋愛シミュレーションはシミュレーションになりません」な下りと、黒猫さんのパートが。そして、「『妹』と『彼女』は余り変わらない」とか、どこから突っ込んでいいのか解らない悟りの境地に至ってしまう主人公の明日はどっちなんでしょ?
そりゃ、妹背が嫁の意味だった我が国の伝統概念からすれば、間違ってないのかもしれませんが…… そう言う意味じゃねえよ!

それにしても、主人公は見事なまでのハーレムを築いているわけですが、理由も解るんですよね。だって、滅茶苦茶真っ直ぐですよ、こいつ。特に、どんな××な女の子でも、ちゃんと前のめりに突っ込んで行ってますもん。そりゃ、主人公らしくイベントが向こうから歩いてきてますけど、そのたびに一々体と心を張って全力で対応してますしね。
そりゃあ、モテますよ。


前巻のキャラ萌え的白眉は沙織の素顔でしたが、今回はもっと凄いですね。グラビアアイドルは黒猫さんで、桐乃曰く、

「こう言う系統の服、絶対似合うと思ったんだよね」
「こう言う系統っつーと?」
「エロゲで良くあるファッション」

な格好。でも、大好物です!あれは良い物です。やっぱり黒猫さんがヒロインだと思います。


閑話休題、この巻でもっとも重大な展開(っぽくみえるが、まだ不確定。後述)の白眉は、ついに破れる均衡の描写方法。
いわゆるルート選択、分岐のトリガーを引くのは普通は主人公ですが、ハーレム物だとそうそう簡単にはいきません。そこで、発想の転換。主人公が選択できないなら、ヒロインに選択させればいいじゃない?

これ自体は「主人公の一人称」小説としては横紙破りではありますが、そうせざるを得ない所までヒロイン側が追い込まれている伏線を張っているだけに、唐突ではあっても不自然ではありません。

ところで、沙織は本当に素晴らしいキャラですね。京介に発破をかけるのもそうですし(もう地味子要らないな!)同時に主人公がなりかかっていた「サークルクラッシャー」という単語を先回りで出し、これから行うべき行動の方向性を示してみるのもそう。

さて、終盤の主人公による演説ですが、ここまでの定型があってはじめて活きる、完璧な逆転劇でした。
今までの、「格好悪い事をやって、格好良く自爆テロを決める」パターンを、「一見格好良いセリフで格好悪くあがく」に。「捨て身のロールプレイで妹を救う」を「捨て身の本気で妹にはめられる」に。
特に、3巻で主人公が表明した「妹に対して一本線をを引く」決意と、矛盾しない範囲であの格好悪いセリフを組み立てているところに、注目すべきだと思います。つまり、ルート分岐(告白)と「大切」の狭間ですね。


そして、今回最大の問題であるラストのあれなんですが、どう考えてもストレートな黒猫ルートとは思えません。
特に、黒猫が妙に余裕を無くしている様子がしつこく描写されていますから、何らかの事情で恋人のふり、と言う天丼展開に落とす可能性は十分あるでしょう。
加えて、後書きに書かれた「恋愛編の後半」と言うフレーズ。つまり、夏休み以降も話が続く事は確定しているわけです。となれば、そのためにはこの段階でルート確定をしてしまうわけには行きません。

何にせよ、また良い意味でひどい引きなので、新刊を楽しみに待ちたいところです。
ただ、ちょっと引きが強すぎるというか、今回は強引に話を進めすぎている気もするんですよね。あえて「ため」を置かない展開は、アニメで増えた層へのアピールにもなって良いとは思うのですが、ちょっと急ぎ過ぎじゃないかと。夏コミも、同人制作過程や2日目は短編集に投げるとして、3日目の内容はもっと分量を振って良かったと思います。

この辺、アニメ放映中に新刊を出す事が至上命題となるはずなので、編集が割を食ったと見るのは間違いじゃないと思います。刊行間隔自体は普通に半年あいていますが、この巻の内容を考えたら、通常の1.5倍くらいは時間をかける必要があったはずですし。
次巻も、アニメ放映終了からできる限り近く、と言うような色気が出てくると、残念な部分が出てきかねないので不安な部分も残ります。大丈夫かな?

11/11 追記
なんか、↑みたいな事を書いた直後に、原作者インタビューが出てました。
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」7巻発売記念 伏見つかさ先生インタビュー
ラストのあれは、「関係性の変化」だと断言されていてビックリ。しかし、であるならば、正に物語はここから大きく動くわけで、ますます目が離せません。
なるほど。最後の一行は、作者の意図としては「前巻ラストとは違う」という事を強調したものだったんですか。んー、前巻の引きが引きだっただけに、すんなり「あ、またか」と流しちゃってました。あれ以上強調度合いを強くするのは難しそうですが、もう少し何とかならなかったのかな?

ところで、その部分よりも気になったのが、逆書評を恐れて読者の感想が好意的な物に寄る一方、「叩き」を恐れて作者・編集共に展開に非常に気を使っている、と言う所。読者を痛めつけるための文章や単なる罵倒にしかなっていない批評は論外でしょうが、これはこれであんまり良い状況じゃないですよね。「ユーザーさんが繊細」と言う言葉は、要するに「ちょっとした事で切れて叩き出すガキが多い」の意味に他ならないわけで。
売れ線や表現に気を使うのは商品なので仕方ないとしても、あんまり萎縮して欲しくはないなあ、と思ってしまいます。だって、この巻の該当部分って、あとからひっくり返すための釣りの部分ですよ?カタルシスに転化されるための不快感を、読者に気を使ってマイルドにしたら、効果半減じゃないですか。
あと単純に、「気を使ってもらう」のは私は嬉しくない(むしろ馬鹿にされたように感じる)し、そんな声の大きい一部馬鹿のせいで表現が萎縮するというのも最悪な話なわけで。
今までの巻の感想で書いてきたとおり、物語上のバランスが崩れても作者の主張やスタンスを示してきたのは、失敗している面もあれど、作品の魅力・原動力。角を矯めて屠殺場は、勘弁して下さい。


>平野耕太
>@hiranokohta 平野耕太
>ステルヴィア当たりから、オタ向けアニメでヒロインが恋人できる展開やキスする展開が許されなくなって、ストーリーテリングに奇妙で理不尽なファンによる制約が入るようになったような気が少しする。
>11月10日 webから お気に入り リツイート 返信


↑に、なるほどと頷いたり。
下級生2にせよステルヴィアにせよ、問題はヒロインに恋人がどうこうじゃなかったんですよ。単にシナリオ展開が悪意満載(前者)だったり、その恋人が主人公のアイデンティティを奪うと共に話が迷走した(後者)からであって、「ヒロインに恋人ができる展開」自体は何の問題もなかった。どちらかというと、その部分を煽っていたのは、見もせず伝聞で叩き祭に参加していた連中が中心だったと思います。
そう言う部分を叩いていた原理主義者は確かにいました。けれど、その手の主張がコピペ式に騒ぐ事が目的の参加者に利用されたのは、正にその主張が多数派でも常識的でもなく、派手でセンセーショナルである種笑える理不尽な物だったからこそなわけで。それにびびって創作側に萎縮されてしまうと、多くのファンは損しかしない、テロリズム大成功という話になってしまっているのが現状。

度々話題にしている表現規制でも、この流れは良く見られるんですよ。具体的には、オバQの黒人描写を本当に問題だと思っていた人間なんかほとんどいなかった(私はあの描写は無思慮だと思うけど)のに、最近まであの話の存在自体がタブーだった事とか。他には、放送禁止歌なんか展開ですが。
なんとかなんないもんですかね。


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この記事へのコメント
こんにちは。
年末年始に「俺の妹」を一気読みしまして。感想を探してたどり着いた次第です。

7巻読んで、よくある
父と娘の父子家庭で、父親が再婚しようとして、娘が反発する感じかなーと思いました。

基本的に家族の物語は、お互いが自立する方向へ向かうと思うので、これを機に自立する方向へ向かうのではないかと。
Posted by 葉月 at 2011年01月03日 05:13
おいらも同じような感想を持ったy。
でも、まあ、京介兄の一人称で語られてる時点で京介の(周囲を巻き込んでの)成長と(+桐乃妹の)自立がテーマの話だと思います(と言うか信じてます)。
と言うことで次巻あたりは黒猫と地味子の京介兄への恋の鞘当とバトルを通して死すコン京介兄の桐乃妹離れが描かれるのではないかと思う(希望する)しだいです。
場合によっては、御鏡くんとのBLになだれ込むと言う展開も瀬菜ちゃん適にはOKかと...
Posted by isotaker at 2011年02月12日 21:17
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