2010年12月08日

拡大する齟齬 「ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!」第6巻 感想

ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! disc6 (ファミ通文庫)
ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! disc6 (ファミ通文庫)

他の巻の感想はこちら


また発売から一月遅れですが、どうしても書籍は後回しになるので仕方ありません。

第一巻から愛読してきた「ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!」も、もう6巻。世界の真相究明自体はaddonこと「シルバーブレット」シリーズに投げた観があり、これから本編をどう展開するのかが気になるところです。

と言うわけで、感想を。

相変わらず、本編と直接絡まない日常会話が面白いですね。ラノベという物は割とその傾向が強いですが、直接的にはギャルゲー(ノベルゲー)のライターさんが書いているというのが大きいかも。
ただし、冒頭数十ページを費やして描かれる賑やかな会話が、シリーズのテーマ(現実と虚構)に食い込んでいるのはさすがです。前巻ラストで登場した従妹が語る、「主人公の中学校時代」(=黒歴史)なのですが、これを攻略対象キャラでない「従妹」が語るところがポイント。
2巻の「現実の幼馴染」は、結局”主人公に幼馴染と呼べるほど明確なパートナーはいなかった”と言う、悲しい事実を示すための逆説存在でした。それはそれで面白かったのですが、やはり肩すかし感が強い物でした。しかしこの部分は、そのがっかりを補って余りあります。
つまり、「ギャルゲーのお約束」としては主役となるべき「姉」も「妹」も「幼馴染」も、そこには関われないという、悲しい虚構性。これぞまさしく、現実と虚構の相克でしょう。

何より、憎まれ口となって出てくる従妹の言葉から、主人公にはちゃんと「家族」も「大切に思ってくれている人」も居たのだと言うことが、読み取れてしまうのが辛すぎます。
虚構の「姉」や「妹」や「幼馴染」に逃げ込まなくても、暖かい親戚や気の合う従妹、「少し歩み寄れば友人になれたであろうクラスメート」が、周りにいたのです。(これは、翔也のセリフからも読み取れます)
しかし、主人公は「ギャルゲヱの世界」で現実を上書きし、それらの可能性を塗りつぶしてしまった。その上で、呼びだしてしまった攻略対象キャラ達を「みんな大切」と言ってさらに関係を閉じる(みんながいるから、クラスメートとこれ以上仲良くなる必要は無い)姿は、あまりにも非社会的です。現実の中で、現実から目を背けていると言っても良いでしょう。結局今回も、翔也の誘いを断ってしまってますしね。

しかし、一方で確実に彼女たちとの関わり合いの中で、主人公は成長している。この辺のジレンマが、作品テーマとなるのでしょうか。
あたかも、ギャルゲーにはまった現実のオタク達が、色々な物を犠牲(高校時代に、ゲームで女の子口説いてるのと現実で女の子にアタックするの、どちらが人生の「経験値」になるかは自明でしょう)にし、失いながら、それでも得た感動や心の動きから、生きる力を貰っているように。

ただそうなると、主人公が「責任」を背負い込んで、攻略対象ヒロイン全てのために自分を捧げようとしているのは、とてつもなく不健康に見えるのですけれどね。いつまでも囚われているという意味でも、呼び出したと言っても彼女たちは人格があるわけで、「ふる」事も当然の帰結としてあり得るだろう、という意味でも。高校生が誓う「永遠」なんて、卒業までに簡単にぶった切れる方が、むしろ自然だろうと。

そして、今回投入された従妹は、ついにその部分に踏み込みます。
今までの巻の感想でも指摘したように、そして多くの読者が同じように感じていたように、主人公の行動を「不自然」「ふざけるな」と言い切ってくれます。これは非常に清々しいのですが、主人公達の側にこれを受け容れる回路が無く、不発気味。

ただ、彼女が投げかけた「病気」「間違った愛」と言うのは、本当にその通りなんですよね。ヒロイン達は主人公への好意をインプリンティングされており、だからこそ「私だけを見て」「死ね二股野郎」と言う、当然すぎる要求をしない。そもそもがデジタルに焼き付けられた、感情というより法則・原則(アシモフ的な)に近い代物。あれを恋愛というのは、多分無理があるのです。
特に、「幼馴染」や「姉」「妹」については、本来その感情の淵源となるべき「共に積み重ねてきた時間」が最初から存在しないという意味で、もうどうしようもないのです。

結局これも、最近問題の「ヒロインが主人公以外と仲良くするだけでビッチだNTRだとボコボコに言われる」と言う流れの、弊害じゃないかと思うわけです。複数いるヒロイン候補を刈り込む事すら許されない、妙な空気になっていないかと。
逆にこれを読んでいると、一部のラウドスピーカーが叫ぶ「純愛」が、いかに気色悪いかも見えてきます。絶対に心動かされず、そもそも目を向けたりつきあうことすらなく、盲目的に主人公だけを愛し続ける。それは、プログラムかロボットに他ならないわけで。

さて、以下は完全なネタバレに入ります。一応注意。















さて、そう言った諸々を想起させつつ、最終的に「一人を選べ」と、文字通りシステムから通告されるのが、今回のキモ。とは言え、「完結」と銘打たれていない以上、結局主人公はまた誰も選ばないと解ってしまっているわけです。

しかし、意外なことに、変化は主人公ではなくヒロイン側に。ヒロインと主人公が1オン1の世界を見せることで、「主人公を独占する」事へのモチベーションをヒロイン側に育む。なるほど、これは非常に上手い手法です。変な価値観に凝り固まってしまい、気持ち悪いほど何を言われても動じなくなってしまった主人公ではなく、ヒロイン側に「あって当然の思い」を起こさせる。なんとか、話が動き出した感じです。

主人公の、あの責任感だか何だか解らない強迫観念に修正を迫るには、ヒロイン側が抗議するしかないわけで。
と言うか、主人公のあの感覚はまだそう言う奴だから、で納得できても、ヒロイン達がそれに揃って同意してしまうのは、完全に宗教ですからね。てか、教祖様がああ言うハーレム築くのは、たちの悪い新興宗教のお約束ですし。
大体、一番あの主人公の言動に違和感を覚えている理恵について、「今は迷っているだけ」とか、どう見ても洗脳教育真っ最中の宗教家ですよ。

と言うわけで、今後の展開には期待したいのですが、どうにもあの○○アニメ、Angel Beats!(感想はこちら)と、同じ臭いがして来たのが、もの凄く不安です。特に、腐れ主人公・音無との類似性とか。

この結論で行くなら、もうとっとと本編は終わらせて、自然に楽しめるシルバーブレットを中心に書いて貰いたいところです。あるいは、心機一転の新作を出すか。
実際文章レベルもシナリオ構築も水準以上なわけで、無理矢理引き延ばされてグチャグチャになってしまったこのシリーズは、早めに畳むのが正解だと思うのですよね。

現実と虚構の対立・融合という作品テーマ的には、次巻に展開されるであろう話は、面白い物だと思います。しかし、もう主人公が凝り固まってしまった現状では、有効に機能するとも思えないのですよね。
正直、読み続けるのが辛くなってきています……




ところで、ファミ通文庫さん。もう外伝含めて登場人物が増えすぎてるんで、そろそろどこかに人物リスト載せて下さいよ。名字を呼ぶキャラと名前を呼ぶキャラもいたりして、かなり困ってしまいます。




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