2011年01月05日

時代の断絶『私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった』感想

私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった
私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった


前に紹介した、「戦争は女の顔をしていない」の同型作品になるでしょうか?どちらかというと、前述作品の姉妹作、「ボタン穴から見た戦争」と併せて読みたい作品ですが。

さてこの本は、二次大戦参加各国の、当時思春期を迎えていた子ども達(主に14~19歳くらいが多い)の日記をまとめたものです。登場人物の出身国は、ポーランド、ソ連、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、日本。個人的には中国も入れて欲しかった所ですが、恐らく資料収集が困難となるのでしょう。言論の自由が無い国ですから。
日記の書き手である子ども達は、約半数が生き残り、残りは途中で終わる日記がその運命を示します。日記は時代順に並べられ、しかも交戦状態に有る両陣営の子ども達の物が一緒になっているため、非常に面白い対比および同一性が生まれてきます。
対比はそれだけではなく、アメリカにいて戦争は遠く、平和に日々を送り女の子の事を書き記すアメリカのユダヤ人少年と、ポーランドのゲットーで移送に怯えるユダヤ人少年の対比など、中々凄まじい物があります。

また、ドイツ軍の包囲下で人間としての尊厳をどんどん喪失し、最終的に餓死した少年の日記の直後に、無邪気な愛国心に満ちたドイツ人少女の日記が出てきたりすると、考え込まざるを得ません。彼女たちが怯え、実際に多大な被害を出したソ連軍の「蛮行」も、逆方向から見ればあまりに正当な(あくまでも感情としては、ですが)怒りの赴くところであったことが見えるのです。これは、上記「戦争は女の顔をしていない」で、女性兵士の証言としてストレートに言及されていた所でもあります。

逆に、ベルギー侵攻時に民家や工場から略奪した物資を家族に送って喜んでいたドイツの少年兵(年齢を誤魔化して軍に参加している)が、泥沼の東部戦線で厭戦気分に浸るのを見る時、憶えるべきは同情なのか軽蔑なのか。

また、やはり非常に注目すべき点として、国際認識・世界観が、現在の我々とはやはり大きく異なっている点です。
日本の一高生(戦前のスーパーエリート)は、アメリカとの国力差を見極め、戦争の無謀さ・不毛さを認識し、「自分のような人材を無駄死にさせるような国に未来はない」と断言しながら、特攻に志願して命を落とします。
スターリン粛清で家族を失った子ども達も、愛国心をたぎらせて赤軍に志願します。(これは、上記二作でも度々出てくる描写で、当時一般的な行動・心情だったようです)
イギリス人の少年にとって、日本人が劣った・卑しい民族であることは自明であり、それはフランス人少女のドイツ人に対する認識とパラレルです。
これはそもそも、同じ占領下でありながら、フランス人少女の過ごす世界とポーランド人少年やソ連人少女(パルチザン)の過ごす世界の差としても、露骨に見えてくるでしょう。

少なくとも、20世紀前半、世界は今よりもっと敵愾心にあふれていたとしか思えないのです。
勿論、現在とて差別感情や相互不信は底流をなしており、一朝時あれば旧ユーゴのように血が噴出する事になるのかもしれません。
これはやはり、教育の成果による物なのでしょうか。特にソ連については、革命後の初等教育がいかに力を発揮したかを、まざまざと見せつけられる思いです。日本史でも、維新後の初等教育が「国民(臣民)」の創出を支え、同時に敗戦まで続く思想の基礎を築いたことはつと指摘されています。そして恐らく、現在の中国や北朝鮮でも、同じ事が起きているのでしょう。

こう言った、合理的な精神と同居してあまりに不合理な愛国心が植え付けられていることを、素晴らしい無私の精神と言う人もいるでしょう。しかし、その「根拠無き」「国家の無謬を前提とする」愛国心を、最も有効に利用した国がソ連であったことは、こう言った本を読むとまざまざと見せつけられます。それは、どう考えても理想に近い社会ではないでしょう。世界有数の悲惨な状況にありながら、国家に対する忠誠度だけは馬鹿高い、不気味な北朝鮮のように。

この辺は、GHQが戦後日本の教育システムを必死になって再構築しようとした理由が、良く理解できます。確かに、これは相手にする国にとってはたまった物ではありません。
勿論私は、それに文句をつける気など毛頭ありません。戦後の高度成長はあの改革で導入された中学校義務化(最終的には、国会の上乗せ)や自由度を増した大学教育によって下支えされたのですから。

何にせよ、非常な力作だと思います。見たところ、歴史的解説の誤りはどうでも良い部分が一箇所(硫黄島陥落後の空爆激化について、硫黄島からB29が発進したという記述になっている。正確にはB29の護衛機)だけですし、原語に戻って0から翻訳しなおしている(元の本は英語だが、これは当然ポーランド語やフランス語を英語に訳した物であるため)など、手間もかかっています。

まあ、おかげで日本人少女の日記が、誤字や悪文もそのままで凄く読みにくかったりしますが、そこはご愛敬という物でしょう。
この手の物が好きなら、一読する価値があると思います。






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