2011年03月21日

ひどすぎて泣けるSFもどき/『セドナ、鎮まりてあれかし』 感想

セドナ、鎮まりてあれかし (ハヤカワ文庫JA)
セドナ、鎮まりてあれかし (ハヤカワ文庫JA)

評判が良かったので手に取ったハヤカワSFですが、もう読み進めるのが辛いレベルの作品でした。

あらすじ:
舞台は、西暦3000年代の太陽系。太陽系連合は2945年に起きた戦争によって、人造外惑星系である大国に従属し、ヘタレた従属外交を続けている。前大戦で激戦地となり、多くの英霊が眠る小惑星セドナは、外惑星系へのへつらいから、荒れ果てて放置されたまま。そんな中、事故で脳障害を起こした一人の兵士が、遺骨収集任務を帯びる駐留部隊(わずか二名の小所帯)に赴任する。

と言うようなお話。多分、この時点で嫌な予感を憶える人が居るんじゃないかと思いますが、ほぼその通り。要するに、「日本の土下座外交FUCK!」、「英霊万歳!偉大なる先人達に敬意を払わない連中は死ね!」と叫びたい人が、そう言う話にSFの皮を被せただけです。一言で言うと、「SFなめんな」。

何しろ、出てくるのはみんな日本人。一々日本文化ガジェットを盛り込み、いかにもその筋の人が好きそうな「腐っている政府」の抽象的な(後述)描写を重ね、「英霊の恩を忘れている!」とか憤る文章に、天を仰がない人にはお勧めです。

この手の思想丸出し小説と言えば、ニーブン&パーネルとかハインライン(共にアメリカのライト)や山本弘(日本のレフト)がまず思い浮かびますが、あれはそう言う部分をさっ引いても面白いし、ちゃんとSFだから評価されるわけです。

ところがこの作品は、本当に「ぼくのかんがえた腐りきった戦後日本」に、「千年後」と言うテロップを被せただけ。

おかげで、SF以前の段階で、ツッコミ所がひどい事になっています。例えば、なんで登場人物は全員日本人なのか?どうしてあそこまで日本文化ばかりなのか?一応、セドナの初期入植者に日本人が多かった、みたいな事が書かれていますが、千年後ですよ?出てくる文化からして、現代どころか30年前でも古くさい類の諸々。入植地に築かれた神社、基地に祭られる神棚、兵士が携行するお守り、完全和食の食事描写。(太陽系連合の補給船が材料持ってきてるはずなのに!)稲葉の白ウサギだの桃太郎だの蛍の光だのが、スラスラ出てくる会話内容。しかも、千年間の変質は一切無しと来たもんです。
「英霊」の遺書からして、二次大戦時のそれをまんまパク……いや、リスペクトしたような内容で、どこにも千年間の変化は見えません。

ナノマシンとか変容した生態系とか、言葉を書くのは簡単です。しかし、そう言った技術革新によって起きてくる社会の変化や人間意識(と言うか、常識や文化)の変容、そう言ったダイナミズムはまるでありません。
どう見ても日輪軍(太陽系連合軍って意味らしいですよ)はただの大日本帝国軍で、精神性も戦術も二次大戦止まり。あれで未来世界を描いたつもりなら、SF作家なんか止めちまえと言いたくなります。

大体、太陽系連合ですよ?全地球と12の居住可能地帯が連合を組んだ、汎人類国家ですよ?それを代表して戦ってる兵士が日本人ばっかりとか、どこの宇宙戦艦ヤマトだよ、と言う話です。あれは1970年代ですら、十分に恥ずかしいと認識されてたはずなんですがね。で、ラストに至っては、そんな恐ろしく古い「日本的」な精神性丸出しのメッセージが社会を変えるとか、馬鹿にするのもいい加減にしろと。

ちょっと考えてみれば良いんですよ。日本の愛国的な遺書を読んで、中国人や韓国人やアメリカ人やロシア人や月面都市人や火星人や環土星衛星人が、外惑星との武力衝突を熱狂的に支持するようになるとでも?
我々日本人が、ヴェトナム戦争で死んだ兵士の手紙を読んで、「やっぱり共産主義国家は倒さねば!」と思うことが可能かどうか、試してみると良いんじゃないかと思います。


そもそもの問題として、折角未来の大戦を設定しておきながら、その戦争に至る経緯や土台となる社会の描写が皆無ってのも、人をなめすぎでしょう。例えば、この日本で戦後平和主義が国民に圧倒的支持を受けた根っこには、先の大戦に対する国民の評価があるわけです。だから、あの世界の平和主義を批判するなら、当然その土台を明らかにしなくてはならないはずなのに、恐ろしく幼稚な(作品として、と言う意味ね)「ぼくが戦わなきゃみんな死んじゃう!」な個人の描写しか出てきません。

と言うか、最初の地勢的説明見ると、「先の大戦」って、人造外惑星系の独立戦争じゃないかと思うんですが。それでボロ負けして大被害出したら、そりゃやってられないだろうし、セドナ放棄論も当たり前に出ますよね。あと、そもそもセドナへの侵攻って、二次大戦ではなくフォークランド紛争じゃないかとか。

と言うか、敵軍の兵士もまた英霊、とか口先で良いながら、集合幽霊みたいなキャラはあくまで日本人兵士の魂しか含んでない(多分、外惑星側のスパイマシンが母体のため)とか、つまんないご都合主義で対立の芽を摘んでいるのも大きなマイナス。
遠未来の太陽系という「こことは違う社会」を設定するなら、重層的に見せるために違う立場の人間を出すのは当たり前なんですが、最低限のキャラすら居ない。おかげで、描写全般が恐ろしく一面的で、気色の悪い様相を呈します。何しろ、全員が同じ意見・同じ価値観で、「その他社会」が全部腐っているという風に描かれていますから。
「国を憂いているのは自分たちだけ!」と思い上がってクーデター起こす青年将校とかって、大体こう言う連中が、切れて暴走したなれの果てだったりしますよね。で、政権取ったあとにやる事は知ってのとおり、と。

とにかく、あまりに生硬で幼稚な描き方に、読み通すのがとても辛かったです。
この内容をやりたいなら、ストレートに厚労省のやってる南洋遺骨収集ツアーに参加して、体験記を書いた方が良いんじゃないかと思います。何度も言うように、SFである意味なんて、これっぽっちもありゃしないですから。



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