2011年03月17日

人物以外全部切り捨て 映画「ヒアアフター」感想

ヒア アフター [DVD]
ヒア アフター [DVD]

今回の震災で、「炉心融解」が"meltdown"の訳語だと初めて知りました。と言うか、いつの間にか訳語が変わったんでしょうか?昔、チェルノブイリや原発関係の本を読んだときに、同じ意味で使われていたと記憶しているのですが。曖昧だったところに、ニコニコのあの曲の題名を読んで、記憶が上書きされた、とかでしょうか……?


閑話休題、映画「ヒアアフター」です。
本当は、今週末に観に行く予定だったんですよ。それなのに、冒頭に震災を想起させる映像があるから、とか言う訳の分からない理由で放映が中止されてしまったので、慌てて観に行ってきました。
即日放映中止の館が多い中、15日まで上映してくれた某館に感謝。
客も、平日とは思えないほど入っていましたので、上映中止を聞いて慌てて見に来た人も多かったのでは?

と言うわけで、クリント・イーストウッドの最新作「ヒアアフター」です。原題が"HEREAFTER"と一続きの単語なのに、なんで邦題は「ヒア アフター」と、スペースが入ってるんでしょうか?もの凄く頭が悪いです。

でまあ、前作グラン・トリノが傑作(当BLOGの感想はこちら)だったんで期待してみたんですが、正直良作とは言いがたい感じでした。問題は、だからと言って駄作ではないところです。

この映画のメイン登場人物は三人。スマトラ大地震で臨死体験をしたフランス人キャスター、子どもの頃事故に遭い望まない霊媒能力を得たサンフランシスコの男性、それに、双子を交通事故でなくしたロンドンの少年です。

これらのエピソードが何の関連もないまま、終盤に至るまで交代制で続きます。大きなイベントは無し。派手なアクションも無し。
ただし、その彼らが何を考え何をしようとしているかは、淡々とした映像の中で、これでもかと描き込まれます。キャスターの神秘体験、霊媒青年の悩み、少年の悲しみ。同時に、それらが周囲の人間には伝わらないという事も丁寧に描かれ、その行動は一部を除いて(後述)納得の行くものに仕上がっています。
従って、彼らに寄り添う視聴者は、その苦しみを理解して、心情的に寄り添うことができるでしょう。言わば、「つかみ」の部分は悪くありません。

しかし、問題はここから。そこから、来世というか死後の世界(ヒアアフター)がからむ展開が、あまりに弱いのです。
別にそこはSFで良いので、来世的な何かに傾倒するフランス人キャスターを正当化する、何らかの説明や設定は不可欠だったはずです。一応、ホスピスの医者が集めた資料があったりするのですが、その具体的な説明はされず、彼女は神秘主義に転んだようにしか見えません。

彼女が途中で口にする、「ノーベル賞受賞者がデータを提示」「宗教団体からの非公開圧力」なんて話は、ちゃんと画面上で展開しないと作品の説得力を減じてしまいます。
少年がインチキ霊媒を回る場面もあるのですから、そこと連動させて、青年が自分が見ているのが本当に「あの世」の事なのか悩む場面なんかも、当然必要だったはず。
と言うか、あの青年の描写は、相手の感情を読むのが異常に上手いとか、そう言う風に説明する余地も残した方が面白かったと思うのですが。(彼の診断名である統合失調症には、そう言う特性が出る場合があります。遺伝形質が大きく影響する統合失調が、何故淘汰されないのかの仮説として、良く提示されます)
実際、あの霊媒の青年は意図的に嘘をついていると思しき場面が、幾つか見えましたし。

と言うわけで、そもそもネタ的にギリギリの線を衝く映画ですが、ちょっと乗れませんでした。臨死体験というのは、疑似科学の跳梁跋扈する典型的な神秘主義領域なので、もっと気合を入れてシナリオを組んでくれないと厳しいです。
勿論、キリスト教世界に生きる本来の想定視聴者(欧米人)にとっては多分問題のない作りで、我々が文句を言うのは筋違いなのかもしれませんが……


あ、そうそう。問題となった津波の描写ですが、恐らくスマトラ地震のニュース映像を元にしたのか、とてもリアルに仕上がっていました。ついこの前大量にテレビで流された映像と、あまり遜色のない感じです。勿論、「映画」として仕上げるために、強調したり甘くしている点はあるのですが、総じて違和感を感じない映像でした。それだけに、イチャモンをつけられたのかもしれませんが……
何かを見て傷つく人間がまず行使すべき権利は、それを見ない権利であって、それ以外ではありません。他人の見る権利を妨害する方向に行った瞬間、彼らはもう「被害者」ではなく、他人の権利を侵害する「加害者」に過ぎないのですから。


航路 上 (ヴィレッジブックス F ウ 3-1)
航路 上 (ヴィレッジブックス F ウ 3-1)

この映画を見る前に期待していたのは、↑こう言う方向性の作品。コニー・ウィリスの描く、傑作SF。
大病院で臨死体験についての研究を続ける科学者である主人公と、擬似的に臨死体験を作り出す実験を企画した別の研究者。彼ら二人と長期入院者の少女が切り拓く、臨死体験の科学的地平。
宗教的臨死体験は、どこまで真実を含むのか?臨死体験者が見るイメージの基軸とは?そして、被験者達が見るタイタニックの光景は、一体何を意味するのか?
実にエキサイティングで、しかもユーモアに富んだ、素敵なSF小説です。

主人公が、「先入観に毒されない」生のデータを取るために自分に課した原則が頭に残っていただけに、映画に出てきたホスピスの医者にはガッカリでした。
この映画を見て、「臨死体験」が物語のネタとして筋が良くないと感じた方には、是非お勧めです。料理一つで、こうまで変わるのですから。



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タグ :映画

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