2011年04月07日

ホラーよりホラー/『人体冷凍』 感想

人体冷凍  不死販売財団の恐怖
人体冷凍  不死販売財団の恐怖


死体を液体窒素で冷凍し、遠い未来での復活を願う。そんな「サービス」を売りにする財団について、SFファンなら一度は聞いたことが有ると思います。冷凍睡眠(コールドスリープ)の話につながりますしね。勿論、現時点で人体の「安全な」冷凍が不可能なことは知っていますが、未来の解凍技術に望みをかけて大金を払う人間の気持ちは、十分に理解できるつもりです。

この「人体冷凍 不死販売財団の恐怖」は、そんな財団の一つに雇われた著者の体験を描くルポルタージュです。
副題の致命的に古くさいセンス(60年代のゲテモノ特撮ですか?)で勘違いしそうになりますが、れっきとしたノンフィクション。著者は、この財団の犯罪・問題点について内部告発を行ったため、現在も潜伏生活を続けています。(この辺の経緯が正にホラー)

基本的に著者は作家でもなんでもないのですが、この辺はさすが編集能力の高いアメリカのノンフィクション業界。まるでフィクションのように(誉め言葉)起承転結のはっきりした構成と、洒落にならない描写によって、一流のエンターテイメントに…… いや、「事実」なので笑えないんですけどね。

エキセントリックな社員、滅茶苦茶な組織運営、素人同然の(と言うか、そもそも「専門家」のいない)各種医療処置、そして、どう誤魔化そうとしてもにじみ出るカルト性……
そこにあるのは、SFファンがイメージしてきた「キワモノであってもある程度科学的な知見に基づいて運営される冷凍サービス」ではなく、「現実での問題から逃避して、未来での『第二の生』に希望をかけるカルト信者達」の姿です。読者が、財団およびその加入者が「風変わりな科学技術の信奉者」などではなく、「『科学』の皮を被った宗教の信者」であることを理解するのに、そう時間はかからないでしょう。
何の役にも立たないただ高価なだけの器具と薬品(しかも管理は劣悪)の並ぶ備品庫、垂れ流される有害物質と感染症の危険も全く理解してない各種「処理」、そして、死後の復活にどう考えても致命的な影響を与える失敗を考慮しない楽観性。特に最後の、脳が割れても神経が飛び散っても遺体が腐敗しても(衝撃的ですが、頻繁に出てきます)「未来の技術が何とかしてくれる」と気にも止めない職員や信者達には、悪い夢でも見せられている気分になります。

この辺の「酷すぎるだろ、おい」と言うエピソードの数々については、今回の問題が起きる前に伝え聞いていた、原発業界のアレさに通底します。未来の技術=絶対安全な原子力関連技術、ってね。

個人的に、将来一発当てる事があったら、こう言う財団で脳を冷凍してもらうのも悪くないと思っていたのですが、そんな幻想はまとめて吹き飛びました。
つまるところこの手の団体がカルト集団に過ぎないという事を知る上で、読んでおいて損はないと思います。勿論、この本は紛争当事者の一方の立場に立つ物でしかないのですが、人体冷凍保存施設の規制法案(監督官庁を決め、葬儀場と同じ安全基準を定めると言う当たり前の内容)を出した州下院議員が、「生命に対する脅迫」を理由に法案を取り下げていると言う事実だけでも、眉に唾をつけるには十分じゃないかと思います。
作者の立場には与しない部分もあるんですが、(特に、自殺幇助関連は、あまり問題と思わなかったり。本人がそれを「死」と受け止めていない以上、不治の病に冒された信者が、脳が無事な内に自殺して冷凍して貰おうとする行為は、十分に理解できます)そう言う部分とは別に非常に楽しめます。

なお、本の真ん中の色の違うページは写真掲載部分ですが、ここの閲覧には注意。頭部を切断する際の酷い手術(?)の写真が掲載されていて、要するにグロ画像です。実は、表紙も切断された頭部なんですけどね。デザインに埋もれて一見分かりませんが。


最後に、ちょっと考えさせられた点を。財団の信者は、実生活が幸せではない(社会不適合の)SFファンが非常に多い、と言う点には、嫌な部分を衝かれたと思いました。現在の、現実生活への不満を、歪んだ優越感と理想化された未来への希望に置き換えて生きている信者達の姿は、結局は私のようなオタク・SFファンの持つ一面に他なりません。
本来一番宗教から遠い所にあるはずのSF系オタクが、カルトにはまり込むルートが見えてくると言う一点だけでも、この本は読んでみる価値があるかと思います。

なぜ人はニセ科学を信じるのか〈1〉奇妙な論理が蔓延するとき (ハヤカワ文庫NF)
なぜ人はニセ科学を信じるのか〈1〉奇妙な論理が蔓延するとき (ハヤカワ文庫NF)
↑本の中に言及があって確認したら、この189ページで本書の登場人物(それも、最大級に問題の人物)の発言が収録されていて、ビックリ。人体冷凍は現段階ではニセ科学に近い、とした↑の本の記述は、全くその通りだったわけですね。




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