2011年05月15日

魔法少女まどか☆マギカSS"memory of girls"

魔法少女まどか☆マギカ 6
魔法少女まどか☆マギカ 6

11話でキュゥべえが語った、インキュベーターによる人類への干渉の歴史は、実に夢が広がる内容でした。
余りに夢が広がったので、TRPGのシナリオにしたりして来たわけですが、もっとこう、直接的に物語を作りたくなるわけじゃないですか。

と言うわけで、ファンもすなるSSといふものを、我もしてみむとてするなり。

……読書好きで、自分で小説書いてみたことがない人間なんて、いるわけじゃないじゃないか。みんな結果は言わずもがなだから、なかった事にして専業読者に戻るわけですが、時には封印した右手の力的な黒歴史が蘇ることだって在るんです。

何しろあの話は、もの凄く精緻に作られているくせに、ループという形で、想像で補完できる空白を大量に残してくれているのですから。そりゃ、妄想も翼をはためかせようというものです。

と言うわけで、お目汚しなので以下収納。(下の「続きを読む」をクリックすると表示されます)
自分で絵とか描けたらもっと色々できるだろうなあ、と思うのは、こんな時です。

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memory of girls


 1936

「兄さんは、ただ空を飛びたかっただけなの。あんな事に巻き込まれるなんて、絶対にダメ!」
 少女の叫びに、白い影は体の半分ほどもある尾を、静かに揺らした。影が立つバルコニーの下からは、街を進むデモ隊のシュプレヒコールが響いている。拡大する隣国の反乱に、この国は結成間もない空軍を派遣していた。デモ隊は、それをやめろと叫んでいる。何故政治的に相容れない政府のために、若い兵士の血を流すのかと。
「だから、お願い。戦争なんかに巻き込まないで。兄さんを無事に家に帰して!」
 そして、少女の願いは、彼らと同じものだった。
「大丈夫。その願いは、適えられるよ」
 一際高くなったシュプレヒコールに呼応するように願った少女を、一瞬遅れて白い光が包み込んだ。


 四年後
「こんなことって……」
 外套から雨の雫を落とす少女の姿は、四年前と変わっていなかった。だが、そのいつもからかわれる背の低さも、これからは珍しくなくなるだろう。うなだれ歩むその姿を、雨に煙る凱旋門が静かに見下ろしていた。門の両面には、今やこの街の支配者となった、赤地に黒のマークを刻んだ旗がはためいている。この街に広がった絶望は、彼女がずっと狩り続けてきたモノを、より一層増やしていくだろう。だが、今の彼女に、それを気にかけるような、心のゆとりは存在しなかった。
「だから、あの時きちんと止めておくべきだったんだ!」
 数時間前。政府から届けられた戦死公報を握りしめ、年老いた父親はテーブルに肘をついた。居間のコルクボードには、四年前の写真が飾られたままだった。無事の帰還を喜ぶ家族の中で、困ったように眉根を寄せる兄の姿。「あんな事が普通になったら、きっとまずいことになる」帰国後、小さくもらしたその言葉を、彼女は忘れていなかった。
「私が悪いんだ。あんな事を願ったから」
 その結論に至ってしまえば、あとは簡単だった。灯火管制で街灯の消えた路地裏に、より一層濃い闇が渦を巻き、そして、彼女を飲み込んでいった。
「四年間、良く頑張ったね。でも、その間に君の中で育ち続けた絶望は、待ち時間を補って余りある。本当に、良くやってくれた」
 あの日と同じようにバルコニーに立ってそれを見下ろす、白い影が発した無邪気な声を聞く者は、もうそこには居なかった。



 1938

「私が望むのは、一つだけ」
 ラジオのニュースでは、大陸で開かれている会議のレポートが、緊張した声で読み上げられていた。ここ数日、バスの中でも地下鉄の中でも、「戦争」と言う単語を聞かない日はない。
「この街でひどい事が起きるのは、絶対に嫌なの!」
 そして、彼女にとってそれは恐怖の対象だった。その語を聞く度に彼女が連想するのは、父母から聞かされたグレート・ウォーの空襲体験であり、昨年パリ万博で見た恐ろしい壁画だった。
「世界に…… この国に平和を!」
 だから、彼女がそれを願ったのは、極自然な事だっただろう。


 二年後
「どうして!?こんな事にならないようにって、私は願ったのに!」
 疲れ切った体をベッドに倒れ込ませる欲求と戦いながら、彼女は白い影に向けて叫んだ。影がたたずむ窓の向こうでは、無骨な防空気球が月の光を受けて輝いている。そのさらに奥、空へと上る煙は、隣の地区に投下された爆弾による物だろう。それは、両親が昔語りに彼女に聞かせた、二十年以上前の戦争の風景と、同じものだった。
「君の願いは聞き届けられたよ。あの時君が願ったおかげで、確かに今まで平和は続いたじゃないか。チェコやワルシャワやパリがどうなっても、この街では何も起きなかった。でも、他の国がみんな降伏したら、もう残りはここしかないじゃないか」
「そんな…… 私が望んだのは、そんな束の間の平和じゃないわ!」
 声を震わせた少女はしかし、二年前の光景を思い出していた。平和が保たれたと誰もが熱狂していた当時、戦争狂・誇大妄想と言われた政治家が新聞で語っていた事。これは平和ではなく戦争の脅迫に屈しただけだという、痛切な非難……
「永遠の平和なんて、さすがに適えるのは無理だよ。君だって、そこまでは、まさか考えたりしなかったはずだよ」
 その、静かな言葉を圧するように、すっかりおなじみになった警報が、また響き始めた。階下からは、家族が飛び起きる音が聞こえてくる。こんな生活はこれからずっと続き、そしてまた親しい人の命を奪っていくのだろう。彼女が夜の闇の中で戦ってきた幻想による被害などととは、比べものにならない規模で。
「私が、私に勇気がなかったから……」
 いつまでも降りてこない少女を急かそうと、部屋に駆け込んだ家族が見た物は、吹き込む夜風に揺れるカーテンと、無人のベッドだけだった。



 1933

「お願い。あの人に力を与えて。滅茶苦茶になってしまったこの国は、誰かが何とかしなくちゃいけないの!」
 少女の声には、切実な思いがにじんでいた。彼女の願いが、その男を支持する一部の人間、暴れたいだけの若者や、過去に拘泥する老人のそれとは異なることを、白い影は良く知っていた。
「本当にいいのかい?彼は、必ずしも君の理想とは違う事を主張しているように見えるけど」
「それでも……こんな暮らしが続くよりマシよ」
 多くの少女たちが叫ぶように声を昂ぶらせて来たこの場面でも、彼女は囁くように声を絞り出した。生き甲斐だった会社を失った父は、今日も台所で酒瓶を抱えたまま動かない。疲れ切った母は、寝室で床に臥せったままだ。この、圧倒的な絶望と貧困よりも、悪いことなど起きようはずがない。
「それならいいんだ。きっと、君の願いは叶えられるだろう」
 歴史に名を残す指導者が、さまざまな幸運の重なりから望む地位を手に入れたのは、それから数週間後のことだった。


 五年後
「やめて!彼女は違うわ!」
 少女の叫びは、幸か不幸か口から出る前に掻き消えた。周囲の群衆は、この場に自分たちを非難する者がいるはずがないと確信した者の態度で、街路に立つ少女の友人に罵声を浴び続ける。
「彼女は……彼女は……」
 友人は、群衆の中にたたずむ彼女を見つめ、ゆっくりと首を振った。巻き込まれないうちに早く行け。疲労を帯びた優しい目は、そう告げていた。直後、その胸に輝く六芒の星に、腐った卵が当たって砕ける。
「ごめんなさい……」
 少女は、見ていられず、声にならない声を残して走り出した。

「もちろん、あんなものじゃ終わらないよ。でも、君は知っていたはずだよ。だってあの男は、彼らを、君の友達をどうするかについて、いつも語っていたじゃないか」
 部屋に駆け戻り、詰め寄った少女に、白い影はため息をついて、これからどうなるかを説明した。迫害はとまらない。財産を、自由を、そして最後には命を奪うためにエスカレートしていく。
「こんな事って。私、この国があの時よりひどいことになるわけなんて無いって……」
 膝をついてうなだれる少女に、白い影はまたため息で応じた。
「何言ってるんだい。あの時君たちには、命も、住む家も、助けてくれる友達もいたじゃないか」
 そして、ハッとして唇をかむ少女に、告げる。
「大丈夫だよ。そういうものまで全部なくすのは、彼女であって君じゃない」
 最後の一押しとなる、決定的な言葉を。
「君の願いは、適ったんだから」
 その部屋の窓が吹き飛んだ音は、商店が襲われる音に紛れ、誰にも気づかれる事無く虚空に消えた。



 1932

「みんなの心を一つに。そうすれば、できないことは無いって先生もおっしゃられてたわ」
 願いを言う少女の目に宿る光は、どこまでも純真だった。
「さすがに全部ってわけには行かないだろうけど、大丈夫。その願いは、きっと叶えられるよ」
「ありがとう!」
 少女は、目を輝かせた。新聞で踊る文字は、国際会議での祖国の劣勢を伝えている。しかし、父が命を落としてまで「独立」を助けた北の大地を、無法な列強に明け渡すなど、あってはならないことなのだ。
「神国は負けない。みんなが心を一つに合わせていれば」
 うっとりとつぶやく少女の横顔を、白い影はいつもの笑顔で見つめていた。


 十年後
「先生!先生!!」
 少女は、悲痛な叫びを上げながら、手のひらの石を握り締める。一瞬だけ、その力を解放したら、と考えた自分を憎みながら。
 変わらない姿と、変わって行ってしまうこの国の中で、絶望から生まれた存在を狩ることだけが、彼女に唯一残された自分の存在価値だった。だから、その力を他の目的に使うことだけは、絶対に許されない。
「違うわ。先生はアカなんかじゃない」
 つぶやく彼女の周囲で、大人たちが口々に冷たい言葉を囁き交わしていた。その醜悪な嘘にまみれた会話からは、同じ価値観の輪から外れた者への敵意があふれている。
「だって、君は望んだじゃないか。どんな敵にもくじけない、一つになった心を。当然、それと違う心を持った者は、みんなの敵って事だよね」
 その中で立ち尽くす彼女の耳に、囁きかけてきた声があった。ここ数年聞いていなかった、白い影が放つ無邪気な音色。「君が変わるには、もう少し時間が必要なようだ」と言い残して消えた、懐かしい声。
「それは…… でも!」
 だが、少女は、未だ少女のままの彼女は、この十年間を思い出さずにいられなかった。皆の心が一つになっていく過程で、一つになれなかった者たちが、どうなって行ったかを。
「第一ね」
 やれやれというように首を振る、白い姿が幻視される。もちろん、人ごみの中で影は姿を見せない。
「分不相応な物を願えば、必ず反動がある。大きな犠牲を強いられた上に、最後には何倍ものしっぺ返しに終わるんだ」
「君がそうであったように。この国が、これからもっとそうなるように」
 それは、彼女が十年間抱き続けてきた疑問に、決定的な形を与える一言だった。



 1941

「この機会しかないの。今を逃したら、私たちはずっと虐げられたまま!」
 金色の稲が風に揺れる水田のほとりで、少女は白い影に向けて、祈るように手を伸ばした。背中に回したノンラー(帽子)が、動きに釣られて揺れる。
「解った。君の願いは果たされる。あの国は、この土地を解放するだろう」
 現れた時から変わらぬ笑みを浮かべたまま、白い影は頷いて見せた。揺れる穂が、実りの重さに耐えかねて、その上にのしかかるようにかしぐ。それだけの実りがあっても、総督府に納める税金を除けば、家族の手元には幾ばくの収入も残りはしない。
「これで、やっと……」
 少女は、ほっとしたように泣き笑いの笑みを浮かべる。この国の人々の抵抗は、意志こそ強かったが余りに弱体だった。そこに現実的な力が加われば、そんな生活も変わっていくに違いない。


 三年後
「それは結局、君達自身の責任と言えるんじゃないのかい?」
 空へと上っていく煙に変わらぬ笑みを向けたまま、白い影は肩をすくめるように尻尾を揺らした。
「そんな!」
 そして、詰め寄る少女の腕に力はない。昨日逝った少女の父を含めて、村の1割が既に死んだ。一年中揺れる穂が耐えたことのない水田は、枯れた姿をさらしている。激化する戦争に加えて、「占領者」と村人が密かに呼ぶ軍隊の徴発。空腹を特別な物と思わなくなったのは、一体いつからだろう?
「私は、この国が、私たち自身の手に戻ればいいって、そう願っただけなのに……」
 両手で顔を覆う少女に、白い影は応えない。ただ、立ち上る葬送の煙が日を遮り、その姿を一瞬闇に落とした。
「君は、君達自身の力を信じられずに、頼ったんだ。奇跡に、そして『解放者』を名乗る他の国にね」
 少女は、顔を覆う手に、一層力を込めた。叔父も、兄のように慕った青年も、幼い日に遊んだ少年も、今や解放者を名乗った者達との闘争に身を投じている。結果から見れば、彼女の願いは、敵を呼び込んだに過ぎなかったことになる。
「そんな、最初から諦めている人間に、独立なんて大それた事がやり遂げられると、本当に思ったのかい?」
 その、事実の一端をえぐる言葉に反論するだけの力は、もう少女に残っていなかった。



 1945

「どうして?戦争は、終わったはずでしょう!?」
 少女のその悲痛な叫びに、影はまたかと言いたげに瞬きした。
「やれやれ。戦争が終わったからって、それで全部が終わりになるわけじゃない。君のお父さんは、捕虜になっていれば幸運だろうね」
「だましたの!?」
 月明かりも届かない廃墟の中で、少女は、唇を振るわせた。月のかわりに、周囲の廃墟では、リンの火が今も時折燃えている。十日前この街を焼き尽くした巨大な火が、今もくすぶり続けているかのように。
「何を言ってるんだい?君が望んだとおり、戦争は終わった。あの国の参戦で、この国は最終的に抵抗を諦めたんだ。そして、あの国がどう言う国かは、君達は散々教えられてきたんじゃなかったのかい?」
 その言葉に、少女は膝をついた。十日前から替えるあてとて無いモンペの焦げ目から入り込んだ小石が、軽い痛みを走らせる。
「私は…… こんな事になっちゃて、お父さんに早く帰ってきて欲しかっただけなのに」
 父の部隊が駐留していた土地は、赤い波にのまれ今も戦闘が続いているという。家族を、友人を、故郷を失った彼女の最後の希望は、あっけなく潰えた。


 1963

「何故おじさまが、あんな目に遭わなければならないの!?」
 三つ編みの少女は、ペチカの上で丸くなった白い影に向かって、声を荒らげた。
「世界が救われたのは、おじさまの決断があったからでしょう?なのに、閉じ込められて、監視されて…… こんなのって無いわ」
「君のおじさんは、この国の最高指導者だったんだよ。あの平和が、相手から逃げ出した結果だと解釈する人は多かった。それで十分だろう?」
 白い影の口調は、相変わらず変わらない。大人が子どもを諭すように、あるいはコムソモール(青年団)の団員が、ピオニール(少年団)の団員を指導するように。
「そんなのっておかしいわ。だって、そうしなければ、この国も、世界もどうなっていたか解らなかったのでしょう?」
 少女は、日頃しつけられているとおり、感情を顕わにすることを極力堪えながら、唇を振るわせた。叔父は態度を変え、世界は平和になり、これからも幸せな生活は続く。だから、しつけられたとおり冷静に振る舞うのは当然なのだ。
「おじさんの周りの人達には、そんな事よりも、きっと大切な物があったんだろうね」
 そして、態度を変えないという意味では、白い影もまた変わらない。彼にとっても、こんな生活は、ずっと続いていくのだから。
「正直、君が何に怒っているのか解らないよ。世界は、核戦争から救われただろう?ニキータおじさんが失脚して秘密警察に監視されてる位、どうって事無いじゃないか。この国では、むしろマシな方だろう?」
 秘密警察は、ただ国家の敵を監視するためにある。そう反論しようとして開いた口から、少女は言葉を紡ぐことができなかった。そのお題目を無邪気に信じ込むには、彼女の家族は権力の中枢に近すぎた。そして何より、お題目が真実でない事は、今の事態が証明している。
「そうだね。ひょっとしてこの国は、君が魔法少女になってまで守る価値なんて、最初から無かったんじゃないのかい?」
 その言葉が、願いの前提を砕く、最後の一押しとなった。

 彼女の失踪は、時期的に余り都合の良い物ではなかった。結局その存在は、多くの足取りがつかめない「行方不明者」と同様、公式記録には残らなかった。彼女が愛した国で、いつも行われていたように。



 現代

「解っただけでも、これだけの痕跡が出てきたわ」
 黒髪の少女は、廃墟を渡る風に髪をなぶらせながら、瓦礫に座る白い影に、冷たい視線を向けた。なぎ倒されたままの、ガス燈を模した灯りが、何かの拍子に瞬き、影が一瞬歪む。
「この短期間でそこまで調べ上げるなんて、君はやっぱり……」
「調べる事自体は、そう困難ではなかったわ」
 少女は、いつものように話を逸らそうとする白い影の言葉を遮った。
「あなたがいつからこんな事をしているのか知らないけれど、人間だって進歩しているのよ」

 二十一世紀に入って加速の度を深めたネットワークは、全ての情報を電子化しつつ世界中に広がっている。特に、「忘れられること」を極度に恐れる戦争記念館のような資料収集団体は、それに積極的に応じていた。
 戦時下の少年少女が残した日記。混乱の中、届け先不明のまま郵便局に留め置かれた文通書簡。名もない歴史学者が残した聞き取り記録……
 前世紀であれば、数人分集めただけで書籍として成立したであろう史料は、今や誰にも省みられないままネットの海に埋もれている。勿論、その利用を妨げてやまない古い法の関係で、クローズドになっている史料も多い。だが、今や完全にオフラインのデータサーバーなど存在しないし、そこにアクセスする方法は幾らでもあった。特に、先進地域としてデータセンターが集まるここ見滝原ならば。
 解析に量子演算器が必要な暗号を解かなくとも、管理者の部屋に忍び込んでメモを見るだけで、どんなセキュリティも丸裸になる。それは、いくら技術が進歩しても変わらない、情報管理の本質だ。

「パリの少女は日記を残した。ロンドンの少女は、消える前にペンパルに手紙を書いていた。ベルリンの少女が行方不明になる直前に涙ながらに語った言葉は、彼女の姉が記憶していた。関東の少女は新聞社に投書を、ベトナムの少女は魔女となった後通信に混じるノイズの形で、事実の一端を残した。KGBの記録については、言うまでもないわね」
「調べてみれば、今まで誰も気づかなかったのが不思議なくらい」
 膨大な史料。圧倒的な記録。些末すぎて歴史学者に省みられることもなく、あるいは錯乱した人間の妄想と切って捨てられた情報も、見るべきポイントが解っていれば、全く違った像を結ぶ。
「君達人間は、見たい物しか見ないからね。不完全な法則の欠点を調べるより、外れた事象を例外だと思い込む方が楽なのさ」
「そうね。そこに気づける者がいるとしたら、奇跡も魔法もあると知っている、私たちだけ」
 そして少女は、軽く息を吐いた後、淡々と言葉をつないだ。
「あなたの見解で構わないわ。世界に絶望を振りまいたあの戦争も、滅びを、世界が焼き尽くされる日を、いつか来る当然の物として諦めていたあの時代も、あなた達が作り出したの?」
 そんな少女と対照的に、それに応える影の口調には、オーバーな感情らしき物が混じっていた。表出される感情が、擬態または単なる装飾に過ぎないとしても、彼女の言葉が不本意だったのは確かなのだろう。
「まさか!感情なんて言う、制御できない膨大なエネルギーを持て余した君達が文明を発達させれば、大量の絶望をばらまくのは当然の帰結じゃないか」
「勿論、彼女たちの浅はかな願いで、状況が悪くなったのも、また事実だろうけどね」
 そして、笑みを連想させる表情を顔に貼り付けたまま、白い影は続ける。
「それを聞いて、君はどうするんだい、暁美ほむら?彼女たちの願いで歪んでしまった歴史を、正そうとでもいうのかい?」
 その言葉に、一瞬だけ遠くを見るように視線を中空に彷徨わせた少女は、目をきつく閉じた。
「いいえ、確認したかっただけよ」
 そして、再び瞼を開いた時、そこに迷いの色は残っていなかった。
「そんな事が出来るとすれば、それは神様だけ。私が正すべき歴史は、たった一つ」
 彼女の足元で、横たわる影はもう動かない。それは、何度も見てきた光景だ。ティーカップを手に微笑む姿。ケーキを切り分け損なって舌を出す姿。孤独を堪えて先輩ぶってみせる悲しい少女…… それを失うのは、いつもの事に過ぎない。どの道、彼女を本質的に助ける術は、ありはしないのだから。
「何処に行くんだい?もう、間に合わないよ」
 その言葉を無視して、彼女はゆっくりと立ち上がった。過去の少女達も、歪められてしまった歴史も、親友と一緒に暖かな時間を過ごした優しい先輩も、救う事はできない。だが、それら全てを諦めてでも、ただ一つ、守らねばならない物があるのだから。
「私の爆弾でも、彼女のマスケットでも止められないなら、それ以上の物をぶつけるしかない」

 市街地へと進む破壊の象徴に背を向け、彼女はもう何度目になるか解らない旅へと足を踏み出す。今回確認できたこと。人類は、かけがえのない親友は、その歩む未来は、常にインキュベーターの干渉に晒される。だから、自分の戦いは、きっと決して勝つことのできない千日手に過ぎない。
「それでも、私にできるのはこれだけ。私は神様じゃないし、そもそもこの世界に神様なんかいない」
 唇を噛みしめ、背筋を伸ばし、彼女は上を向いた。弱気を見せるわけにはいかない。絶望的な事実は見据えたまま、しかし絶望してはいけない。彼女以外に、救わねばならない人を、救える者はいないのだから。

「私は、どうなっても構わない。でも、まどかだけは……」

 その願いが、希望が、最悪の形で適えられることを、彼女はまだ知らない。

 to be continued to next tragicomedy...

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ちなみに、参考にしたのは前に記事を書いた(12)、『私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった』や『戦争は女の顔をしていない』辺りです。



当BLOG内の、まどかマギカ関係のエントリーはこちら




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