2011年05月12日

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 8巻 感想

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 8
俺の妹がこんなに可愛いわけがない 8


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いつもは一月ほど遅れて感想を書くところなのですが、今巻はネタバレが怖かったので、実店舗で発売と同時に購入。それでも一日遅れなんですけどね!
あと、紀伊国屋札幌店は、平積みのラノベにカバーを掛けるか、せめて裸状態のは一冊にすべきかと。いつ行っても周囲に立ち読みの学生がたまっていて、邪魔でしかたありません。
って言うか、さすがに文庫本を店頭で読破するなよ!BOOK OFFじゃないんだからさあ。

勿論、今や実店舗は「立ち読みができる」と言う点がネット書店に対する大きなアドヴァンテージなので、色々難しいのは解るのですが。


と言うわけで、俺妹8巻の感想です。
まず、ページをめくったところで、カラーページを独占する黒猫さんの無双状態にのけぞります。正ヒロイン(笑)さんは、目次の裏に表紙絵の部分拡大があるだけ。正にフェイドアウトというか、アウトオブ蚊帳ですね。

で、前巻のあざとすぎて口から内臓吐き出すかと言う勢いだったあの「引き」ですが、何というか、もの凄く作品的に正しいというか、リアルというか、京介に久しぶりに親近感を感じる展開となりました。
でも、それに対する黒猫の反応は…… うちの業界ではむしろご褒美だよ!地面に正座させられて、白ワンピースの美少女に罵倒されるとか、普通にOKするよりアリじゃねえ?

と言うような本気の戯れ言は置いておいて、あくまでも黒猫として、ダメな部分をさらけ出して告白する彼女の様子に、何より尊い物を感じた次第です。決めぜりふとか、笑っちゃダメなんだよ。だって、あの子は本気なんだから。
同時に、京介に、「そこまで言われて即答しないってどう言うことなの?」と頭かち割りたくなる衝動を感じるだけでなく、即答してしまったら彼ではないと言う事を理解できる、今までの蓄積に乾杯。

でまあ、ギャグと文章の切れ味は今巻も健在。四人組が集まったシーンは、本当に楽しかったです。京介も、間違った方向(つまりはオタク的)での気の使い方が板に付いてきて、むしろ桐乃に感情移入して「いっそ殺せ!」と言う気分になれたり、作品全体の芸の幅が広がっています。

まあ、感情移入という点については、むしろ読んでるこっちの側に問題が出ますけどね。「恋人になっても何して良いか解りません(性的な意味ではなく)」と言う話とか、”感情移入できてしまって良いのか”と言う、ね…… いや、奴は性的な意味でも酷い疑問を抱いていましたが。
でもそんな疑問は、感じたら負けだぞ、諸君。我々のリアルの人生は、多分その感情移入の余地を残したまま、これからも続くからな!

>「もう何もかも終わったとか思ってるか?自暴自棄になってるのか?残念だが言わせてもらおう。ゲームオーバーのあともおまえの人生は続くよ!負債満載でな!どれだけ恥をかいても、命を絶たない限り人生は続いていくのだ!」
>「取り返しがつかなくなっても人生は続く。汚点は絶対に消えることはない!受け入れて、強くなるしかないぞ。」
           本郷明(おたく☆まっしぐら)


一方、それとは別に「つきあい始めた」と言う報告に対する常識人(のパラメータが高い連中)の反応は、「ま、そうですよねー」と言わざるを得なかったり。可愛い女の子に彼氏がいない訳ないじゃないか。畜生、畜生!!

とまあ、リアルのトラウマが噴出して、危うく心がゆきたか(あの花)かマミさん(マギカ)かと言うくらいねじ曲がりそうになるのも、基本的にはこそばゆいラブなイベントが続くからです。羨ましい!そして妬ましい!

「その立場に本当になってみたいか?」と聞かれると、「業界的にはご褒美かもしれませんが、流石にそれは……」と応えたくなるイベントも目白押しなんですけどね。
あ、いや、うん。可愛いんですよ。確かに天使ですよ。でも、「神猫」はねえわ!ヨドバシのPC売り場にこんな初々しいカップル居たら、周囲の嫉妬が炎となって火災報知器を鳴らすことになると思います。
同様に、彼女の家にいたらその妹達(幼女)が帰ってきてなじられるなんて…… 素晴らしいけど、第一段階のハードルが高すぎだよね。あ、アニメで初登場し、少ない表情で自己主張していた黒猫の妹たち(京介曰く「ロリ猫」)は、こちらで大ハッスル。天真爛漫と毒舌という定型的コンビですが、見事な話芸でシーンを転がしています。って、なんか新登場の役者に対する評価みたいになっちゃってますが。

あ、ところで、正ヒロインさん(憐憫)なんですが、クライマックスに入るまで、見せ場は自分で「irony」を口ずさむという自虐ネタ(?)経由、恐らくアニメ設定を反映しての妹空アニメ化に発狂するところだけ。アニメで言えば9話の内容に当たるような、キモオタフルスロットルの実技が光り、もう「ヒロイン」としては息してない状態。エロっぽいシーンも、ただの汚れ役にしか見えません。


さて、クライマックスですが、なるほどこうするのかと、技巧的には刮目しました。少なくとも元の鞘だけはないだろうと踏んでいたのですが、黒海で衝突してお互い一手無駄にするトルコとロシア(©ディプロマシー)のように、見事イベント前の状態に。
同時に、その過程で各人の置かれた状況がくっきりと明確化されたため、作品の長期化宣言と同時に、至るべき「終わり」もまたきちんと設定されました。

ただ個人的には、きちんと話を終わらせ、残り一冊くらいで話を畳む方向に持って行くべきではなかったか、と思うのです。
京介の気持ちは決まっていたようですし、あそこはきちんと黒猫に思いを告げ、仕切り直しに至るべきじゃなかったのかと。この恋愛ゲームの終了条件はかなり明確に定まっていたわけですから。
ここからまた日常に回帰して巻数を重ねるのは、構成的に美しくなありません。上の誉め言葉を逆に取れば、丸一冊かけて、何の進展もないどころか、物語を自縄自縛に追い込んでしまったわけですから。
終わらせ損なって無駄に引き延ばされた話ほど、興ざめさせられる物はありません。

第一、商業的な続刊という意味では、外伝をいくらでも描けるじゃないですか。今巻も、書くべき余白を大量にばらまいているわけですし。作者に愛されている(やっぱそう言う事ですよね。あの仲間を失うエピソードとか、高年齢おたくの経験その物ですから)沙織なんて、そのままスピンオフで主役張れる勢いですし。

あと、本筋以外の面では、黒猫を転校させてしまったのは、どうなんですかね?ゲーム部面々との掛け合いもなくなってしまいますし、正直意味が解りません。松戸と千葉なら通学に問題なくね?と言う点も含めて。
大好きな5巻の内容を否定されたようで、額に見事な縦筋ができました。沙織の口を通して、「場」と「人間関係」を失うことの痛みを余すところ無く表現しておきながら、何故そんなぞんざいな事が出来るのか。あそこだけは、本当に……
とまあ、不満もとても多い巻です。軸となる物語は5巻以降迷走気味だったこともあり、むしろ多少強引でも「終わり」へとコマを進められるかに注目していたのですが。

閑話休題、闇の中で交わされる桐乃との会話は、切ないです。何がって、桐乃の気持ちですよ。あそこは、桐乃としては正ヒロイン(笑)の称号から「(笑)」を取る絶好の機会なんです。振られナオン(京介はナオンじゃないけど)の弱味つけ込みレッツゴーは、モテモテ王国の昔からセオリーとなっているわけです。しかし、結局彼女にはそれができなかった。逆の立場の時に京介がどう振る舞うか見えてしまうだけに、しがらみや倫理に蹴りを入れられず、サポートに回ってしまった。
色々言っては居ますが、結局あそこで桐乃は、京介が誰かとつきあうのは嫌という「消極的抵抗」を宣言できただけで、ヒロインとして名乗りを上げる道を閉ざしてしまったのです。
桐乃「の」京介攻略ルートは、これで消えたと見て良いでしょう。あと彼女に残されたイベントは、思いを告げた上で、京介にきちんとふられることくらいです。

あ、そう言えば麻奈美はまた微妙な立ち位置になってますね。ヒロインとしては踏みとどまっているのかどうか。とりあえず、「微笑む魔物」(アルカイック・ビースト)とかって言う中二ワードが頭に浮かびました。

最後に、どうでも良い感想。
ヒロイン候補のこの子等の女子力の低さは、並大抵じゃありませんね。まあ、女子力高かったら、おたくコンテンツのヒロインは勤まらないんだけどね…… 自分で言ってて背中が煤けてくる文章ですが。


と言うわけで、滅茶苦茶面白かったのですが、「ここから更に続けるの?」と言う不満が拭えません。しかも、回帰した日常シーンを書こうにも黒猫の転校に伴う問題が出てきますし、どうにも期待を盛り上げにくいのです。

アニメのヒットもあって、色々難しい舵取りを迫られているのだろうと予想は付くのですが、色々と煮え切りません。人気が出るのが必ずしも良いことばかりではないというのは、つまりこう言うことなのでしょうね。
メディアミックスが主体となる前、菊地秀行や田中芳樹が、作品の完成度一本で勝負していた頃のライトノベル(ジュブナイル)を読んできた身としては、残念に思う局面が多いです。勿論、メディアミックスのおかげで市場が広がったり、完成度が上がったりと言う効果は大きいので、全面否定などできるわけはないのですが……
新刊と同時に掲載された原作者のインタビュー記事でも、その辺は書かれていますね。どれくらいの人数と金が動いているか(そしてそれで食えているか)が見えてきます。
勿論、上記インタビュー中で暴露されている、神猫衣装の追加とかは、共同作業の賜物だと思います。
他にも、作者単独では萎縮してしまう部分に切り込むと言う姿勢なんかは、さすが電撃と感心したりしたのです。
でも、この過干渉な方向性は、一つ間違えると電撃文庫、と言うかライトノベルレーベルがどんどん少年ジャンプ化して、面白くなくなっていく流れにもなり得ると思うんですよ。4巻ラストのアンケート葉書とか、もろそれでしたしね。メジャーな存在になったんだから仕方ない、と言う見方もできますが、市場規模は縮小が続いているわけで、その中でのあがきと見ても色々考えさせられます。

とりあえず、次巻も楽しみではありますが、感想は通例どおり出版から多少遅れるかと思います。




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この記事へのコメント
こんにちは。
いやはや黒猫さんの戦闘力の上昇ぷりに歯止めがかかりません。
コスチュームの変化とともに関係性を変えていた彼女でありますが、7巻の白猫で最後かなと思っていたのに、8巻で神猫、ジャージに、浴衣姿までやってくれました。

転校展開については疑問が残りますが、新しい制服姿が見られるということで楽しみです
Posted by 葉月 at 2011年05月13日 19:10
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