2011年06月06日

これは素晴らしいSF映画  「バタフライ・エフェクト」 感想

バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション [DVD]
バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション [DVD]


何やら最近テレビ放送されたそうですが、テレビを見る習慣のない私には関係のない話です。
前から面白いという話は聞いていたのですが、AMAZONでの価格が高めだったこともあり、出かける度に各地のTSUTAYAを覗くなどして、DVDを入手しました。まあ、↑のAMAZONを見れば解るとおり、今では3千円そこそこで、価格差はほぼ無くなっています。

と言うわけで、以下感想。

バタフライ・エフェクトは、タイムリープ物SF作品のお手本のような内容です。極端に奇をてらった内容ではありませんが、描写の丁寧さと、これをハリウッド映画でやったという点に、惜しみない賞賛を送りたい所。

物語は、少年時代に記憶の断絶に悩まされていた主人公が、人生最大の後悔(救えなかった幼馴染という、感情移入度抜群のフック)を修正すべく、時を遡ると言う物。
しかし、「バタフライ・エフェクト」の題名の通り、因果の糸は絡み合い、良かれと思って行った改変は思わぬ効果を表し、時間線はどんどん混沌としていきます。しかも、この能力は決して万能でも無限に利用可能な物でもありません。
彼は果たして、この厳しい制限の中で幼馴染を救い、明るい未来を築くことができるのか?

これが、中盤までに明らかにされる前提条件。ここまで読んで惹かれた方は、DVDを注文するなり持っている人に見せて貰って下さい。後から詳しく書きますが、レンタル用のDVDは、売られているプレミアムエディションに比べ、大幅に劣ります。まあ、レンタルで見てみた後に情報を集めて、DVDを買うかどうか決める、でも問題無いとは思いますが。


と言うわけで、以下ネタバレ感想。








まず、「バタフライ・エフェクト」と言う題名には、偽りがあります。作中で、原義どおりのバタフライ・エフェクト(カオス系の予想不能な振る舞い)は、基本的に全く発生しません。発生しているのは、きちんと伏線の張られた「予想可能な影響」だけです。勿論、予想可能である(後から納得できる)からこそグイグイ物語に引き込まれるのであり、これは悪いことではありません。

そもそも典型的なバタフライ・エフェクトを扱ったSFは、ブラッドベリの「雷のような音」(太陽の黄金の林檎収録)ですが、これは本当に短い一発ネタのショートショート。その映画化作品の「サウンド・オブ・サンダー」が悲惨なできだったことを見れば解るとおり、全くもって映画に向かない題材です。

従って、SFファン(海の向こうには有意な数いますし)と一般人を別の意味で引っかける、ちょっと目を引くタームとして「バタフライ・エフェクト」を選ぶことは、間違っていません。タイムパラドックス物という点で、前者に大して最低限の筋は通していますし。少なくとも、「個人でも努力次第で大きな成果が上げられる」みたいな、本来の意味とはほぼ正反対の意味で使う、ブラック企業のクソ経営者とは違います。こう言うクソ本とかね。世界を救うための小さな努力が、結果的に世界を破滅させちゃったよ、的古典SFの方が、遙かに「バタフライ・エフェクト」の語には相応しいですから。


閑話休題、こうした「納得できる」時間への影響が、この作品の真骨頂です。
心を病んだ友人を救うため、きっかけとなる事件を消そうとすれば、もっと酷い結果を導きさらに心を破壊する。
ひどい育ち方をして最悪の人格に育ってしまったキャラクターを矯正しようとすれば、虐待を受けてさらに悪化する。
ではいっそのこと、と彼を排除すれば、そいつが実は果たしていた盾としての役割が失われ、ヒロインに不幸が降り注ぐ。
あげくに、色々な問題を解決できた世界では、自分だけが不幸のどん底に沈んでいる。

これが、濃密な伏線が張り巡らされた中で展開するため、視聴者は「今度こそ!」「ああ、確かにこれじゃダメだ!」と、主人公と共に一喜一憂しつつ、追い込まれる緊張感を高めていきます。
また、主人公の行動がかなり合理的に描かれているのもポイント。後から考えれば、不幸な結果が出力されるのは予想できるにもかかわらず、実行時点では「確かに、この改変で状況は改善するはず」と思わせるだけの描写力、あるいは疑問を挟ませないだけの疾走感を維持します。
そして、入り組んだ伏線の前に、「ええと、結局どのフラグをどう調整すればいいんだよ!?」とこんがらかってきたところで、回数制限を明示してあのエンディングになだれ込むわけです。

この、タイムリープの回数制限を、中盤では緊張感の維持に、そして最後には主人公の決断に説得力を持たせるためにと使い分けているのも、脚本の見事さの一つでしょう。映画館で放映可能なサイズに収める上で、必要かつ無理のない設定でもあり、感心しました。

いや本当、時間改変の描写が上手いんですよ。「今度こそ」と言う期待と、リープ後徐々に顕在化する不穏な空気、そして再挑戦へと背中を押す決定的な描写。考えて見れば同じ事を繰り返して居るのですが、毎回手を変え品を変え場面を変えて飽きさせません。予算は余り多くかかっていないはずなのですが、使い回されるのはヒロインの地下室と大学くらい。しかも、変わらない場所は「何かが(今回も)おかしい」と言う改変を強調するために使われるので、気になりません。

さて、上の方でレンタルで済ませるのは良くないと書きましたが、それには決定的な理由があります。
それは、冒頭のプレミアムエディションに収録されている、ディレクターズカット版とコメンタリーがあるからです。

まずディレクターズカット版ですが、この改変されたエンディングは、一見劇場版と比べて見栄えがしません。あの劇場版の、苦みを含んだ「最後の改変」とラストシーンは、ハリウッド的な、余りにハリウッド的な美しさで「決まって」います。泣きましたよ。自分の命と人生(いずれも複数)をかけて守ろうとした幼馴染を罵倒して、これで良いと微笑む主人公。あれで泣けない人が居るんですか?だって、幼馴染ですよ?幼馴染!
……失礼。よく考えたら、泣けない人は普通にいるでしょう。「幼馴染」という物に魅力を感じない、一部宗派の人とか。
ま、とにかく劇場版は劇場版で、タイムファンタジーとして、凄く綺麗に終わっています。

で、何の話でしたっけ。あ、そうそう。ディレクターズカット版のエンディングでしたね。
劇場版と違って、改変されたエンディングは、劇場版ほど「決まって」いません。しかし、このエンディングによって、ある伏線が、最後の最後で明らかになるのです。これに気づいた時の衝撃は凄まじい物があり、映画の評価が一段階跳ね上がりました。つまりは、悲劇の連鎖なのです。いわゆる「サイエンス」フィクションの感動とは違うかもしれませんが、私がSF作品に求める衝撃を、十分に満たしてくれる「考えオチ」でした。
一応解説しましょう。


以下反転。>


主人公の母親は、「今までに二度」流産しています。それどころか、改変を繰り返す中で、「今までに三度」流産している、と言うセリフに変わっているシーンもあります。(これはミスかも)
そして、主人公の能力は、父親からの遺伝です。

つまり、今まで流産によって失われていた主人公の兄弟も、主人公と同じような人生を歩み、そして最終的に「生まれてきてすいません」を選んだ可能性が高い、と言う事を示すわけです。これは、本当に見事な伏線だと思います。


<反転ここまで。


これがあるからこそ、絶対にディレクターズカット版で見るべきです。断言します。

また、これとは別に、プレミアムエディションには、監督・脚本家二人による詳細なコメンタリーがついています。アニメのDVDなどに良く付いている場合がありますが、あんな温い内容ではありません。
もともと発表までの経緯から解るとおり、あの映画はこの二人が長い年月と魂を込めて作った力作です。それだけにこだわりはもの凄く、各シーンごとに、演出意図やそのために加えた映像の加工・リテイク・編集調整などが、詳細に解説されています。言われて初めて、「ああ、確かにそう言う印象を受ける!」と感心する場面多数で、凄く面白く、また勉強になります。
それだけでなく、製作会社と場面についてやり合った内容(もっと一般的にしろ?FUCK!と言う概要)が解説されていたり、苦労も見て取れます。特に、レンタルにも収録されている没版エンディングの解説(これは、レンタルにも入っているかもしれません)など、大いに笑わせて貰いました。
「何だこれは?主人公はまるで学んで居ないじゃないか。ぶち壊した。あり得ない」とか、会社側に言われて一応撮影したものの、そんな事を要求する相手の「解って無さ」に対する怒りを吐露していたり、興味深い内容です。
勿論こう言うのは、失敗した映画でやられると「ケッ!」と言いたくなるのですが、良くできた映画で解説されると十二分に楽しめます。

ま、どちらにせよ、失敗した途端に「僕のせいじゃないよ」みたいな事を言い出す製作関係者なんかより、遙かにマシだと思いますけどね。どこのフラクタルとは言いませんが。少なくとも、我を通して失敗した制作者は、その責任を引き受けて立つ覚悟があると言うことなわけですし。


と言うわけで、珍しく「この作品が見れて良かった」と同時に、「この商品(プレミアムエディションのDVD)を買って良かった」と言う感想を抱けました。映画でもゲームでも音楽でも、私はこう言う気持ちになることは滅多にありません。消えて無くなって貰っては困るので必要なお金は出しますが、特典等の水増し商材は、消えて無くなれと思うことの方が多いです。しかし、このDVDに関しては、本当に特典に商品価値・金を払うに値する物がありました。
お勧めです。


あ~、なお、2とか3とかが出ているようですが、監督・脚本家が違うという事実だけで、内容を察して余りあると思います。評価も概ね予想どおりのようですし、少なくとも私は見る気はありません。皆さんに見るななどと言う気は一切ありませんが、とりあえず間違って買ってしまわぬよう、ご注意下さい。




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