2011年06月12日

小川一水『青い星まで飛んでいけ』 感想

青い星まで飛んでいけ (ハヤカワ文庫JA)
青い星まで飛んでいけ (ハヤカワ文庫JA)


小川一水は、第六大陸辺りから有名になった、ハードSFの書き手です。とは言え、先人達がそうだったように、単にハードなだけでなく、宇宙への憧れやジュブナイル的前向きさを描いても、結構上手い多才さが魅力です。

もともとラノベ出身なのですが、SFの仕事が増えるに従って、どんどん腕を上げています。

しかし、作者の特性とラノベ出身というのがもの凄い不協和音を奏でており、これが最大の欠点でした。AMAZONのレビューに書いた事があるのですが、とにかくラノベ的なお約束キャラを書かせると、毎回ひどい事になっていたのです。一言で言うと、「美少女」が出てきた瞬間、話が極端に平板になるのです。類型化とパターン化が周囲を巻き込んで進行する上に、そもそも萌えキャラとして機能していなかった辺りが……
出世作の第六大陸からして、設定の都合を美少女一人に全部背負わせ、しかもそのキャラが作中で最も魅力がないという、悲惨な事になっていましたね。

ですが、この欠点は作を追う毎に克服されて行き、余り気にならないレベルになっています。天冥の標シリーズもそうですが、やはり「苦手なところを無理に作品に盛り込まない」方向に進めているんじゃないかと思います。勿論、それが大正解だと思います。ずっと、そうすればもっと話がスッキリするのに、と思っていました。ハヤカワは、それが許されるレーベルなのですし。

と言うわけで、この「青い星まで飛んでいけ」に収録されている、各短編の感想です。


1,彗星都市のサエ
少女が主人公のジュブナイル。安全で快適だが、少年少女の心を容れるには余りに小さい彗星都市を舞台に、そこを飛び出すことを夢見る二人の話。
とても丁寧なジュブナイルで、その分ハードSF描写はやや控えめ。(日常に忍び込ませて各所に顔を出すけれど)過去作で良く「やらかして」いた人間賛歌の使い方も、彗星都市の平和を描くのに上手く溶け込む一方、飛び出そうとする少年少女との対比で多面性が出て、一気に前進。とても気持ちよく読めました。
私だったらどうしますかねえ。やっぱり、軍用艦に忍び込んで、冷たい方程式そのまんまの目に遭わされるんでしょうか?

2,グラスハートが割れないように
「水への伝言」を原モチーフにした、現代劇。「祈りによって育つ」と言う触れ込みの地衣類と、それを信じて心の支えにする少女、そしてそれを見守る少年の話。
キャラクターを類型処理で流しているのは、実は上記「彗星都市のサエ」と同じ。けれど、描かれる問題が内面の葛藤なので、気になってしまいます。あの状況で、栄養指導しないで帰宅させる医者はどうなの?最低限、家族に心療内科を紹介すべきだと思うけど…… とかね。
何より、一々共感できない主人公が辛かったです。

3,静寂に満ちていく潮
ファーストコンタクト物。宇宙人の造型が結構練られていて面白い一方、主人公への共感でき無さが、2とは違う意味できつい作品。いや、多分この話については、共感しにくいところを含めて意味があるはずなので、欠点ではないのだけれど。
でも、環保軍とかを含めたあの世界の説明は、もう少し多目に欲しかった。読者にとって見れば、完全な異星生物であるレクリュースよりも、むしろ異質さを際だたせる地球圏を描写されてこそ、ラストの展開にも乗れると思うので。
あーでも、隠匿・独占して異星人の貴重なサンプルを情報汚染している(と、作中でも突っ込まれている)のは、さすがに共感するの無理だった。いや、繰り返すけど、そう言う馬鹿女(性別?)な行動への共感でき無さは、予定通りなんだろうけど。でも単純にむかつくし。

4,占職術師の希望
人の「天職」が見える男が、本来関わるべきでない社会の流れに関わってしまう話。
占職術のアイデアは面白いし、話も結構綺麗に落ちている。文庫本一冊くらいの分量にまとめて、この男の話を読んでみたくなる内容。実は作中で、能力の描写や制限がぶれているのだけれど、そこは短いので気にならないレベル。良い短編。

5,守るべき肌
イーガンもどきの……残念ながら、この本一番の失敗作。驚いたことに、類型的であることを逆手に取った美少女キャラは、普通に機能しています。そこは作品の癌ではないんです。珍しく入っている戦闘描写も、薄味だが悪くないのです。
問題なのは、異質な知性体である移入人類と現実人類、そしてヒロインの価値観の相克が、全く描かれていないところ。移入人類はアホなんじゃないかと言う話は置いておくにしても、(メンテナンス要員居なくなったら困るでしょうに。軽金属だって、一部構造材に使われてるわけだし)最終的に、主人公の属する移入人類の価値観だけが、一人勝ちを収めてしまうのはどうなんでしょう。その勝利も、そりゃもう一方的な代物。
現実人類のあの様子を「歪んでしまった」というのなら、移入人類の独善性も相当な物。しかも、両者の間で揺れるべきヒロインは、主人公の脅迫で移入させてしまっただけで、価値観の転換描写は皆無。ヒロインとはつまり一番読者に近い存在であるだけに、主人公の独善と移入人類の傲慢さ・身勝手さが際だってしまう結果に。
色々面白い部分はあるだけに、この背骨の歪みは残念でした。

6,青い星まで飛んでいけ
表題作。3年ほど前にSFマガジンに載った短編で、とても面白かった憶えのある一品。
内容は、クラークの作品に出て来るような異種知性探査船(地球製)が、人類が滅んだ後も宇宙を巡り続ける話。今となっては少し古目のネットスラングや、「お付き合い」の定型句を上手く使って見た目を軽く保ちながら、異種知性同士の交感が続く宇宙を描写する、素敵な作品。「老ヴォールの星」の系譜に連なるハードSFで、作者の本領発揮と言った所。
5でがっくりと落ち込んだ心が、これを読んで立ち直り、本作は本棚保存書籍に加わりました。

と言うわけで、短編六本中当たりが三つに外れが一つ、他二つは微妙だけど酷評するほどではない、と言う結果。短編集としては、十分に元が取れた計算となりました。やっぱり良いですね、SF短編集。
長編短編どちらも上手い人は貴重ですが、昨今の市場状況は、どんな作家にも長編連載を強いて使い潰すパターンばかり。こうして見ると、短編集が許される・長編も数巻で終わらせてもらえるという一点だけでも、ハヤカワの存在意義がある気がしてきます。売上の点で言えば、ほら、どうせラノベ作家なんてみんな兼業なんだし!いや、小川一水は確か専業ですけどね。

何にせよ、良い本でした。




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この記事へのコメント
SF……最近読んでませんわ……ラノベだと短編は雑誌連載とイコールですよね
Posted by かがみん at 2011年06月13日 14:41
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