2011年08月09日

虚淵玄 『金の瞳と鉄の剣』 感想

金の瞳と鉄の剣 (星海社FICTIONS)
金の瞳と鉄の剣 (星海社FICTIONS)


先に断っておきますと、私は虚淵玄その人について語れるほどの蓄積はありません。そもそもNitro+が苦手だったため、まどか☆マギカにはまるまで、氏のゲームをきちんとプレイしてこなかったのです。

よって、今回氏の新作小説であるこの本を手に取ったのも、Nitro+に対する敬遠の裏返しです。要するに、「もの凄い格好良いアクション」は、小説やアニメで見るのは大好きなのですが、ゲームだと「俺に操作させろよ!」と言う気持ちが先に立つので、楽しめないのです。Fateやマブラヴが苦手なのも、主人公の思想の気持ち悪さよりもまず、その辺が原因です。

つまり、これはあくまでも虚淵玄の小説「金の瞳と鉄の剣」の感想であって、虚淵玄と言う作者について語る材料として取り上げた訳ではありません。その点はご容赦を。


と言うわけで、以下が感想です。
内容は、驚くほど正統派のファンタジー。魔法や少々の不思議が存在する中世風世界を舞台に、成り上がりを目指す傭兵と人外の魔術師コンビの冒険を描きます。

そしてこれが、本当に丁寧に描かれた良質な作品でした。
まず丁寧なのは、作者が大好きな戦闘です。主人公が手に取る獲物は毎回異なり、当然戦闘の光景も変化します。しかし、いわゆる武器マニアの長口舌に陥ることはなく、むしろシチュエーションで武器を選ばせ、その特徴と有効な局面をシーンその物で語らせる形。
つまり、とても解りやすく、しかも話のバリエーション確保を果たしているのです。これは、理想的な描き方でしょう。

次なるポイントは、世界の描写。第一話は竜退治、第二話は怪異渦巻く辺境の森での敗走、第三話は財宝眠る古城、第四話は陰謀渦巻く王国の首都、と、多彩な場面を設定します。そしてその上で、冒険の前提となる世界の情報を過不足無く与え、これを積み重ねることで世界に厚みを与えていくのです。
個人的には、銀英伝がやったように、設定だけで数十ページかけて設定を畳みかけるのも好みなのですが、あれは好き嫌いが別れます。と言うか、嫌われます。活字に対する許容量は人それぞれ異なりますから、(私だって、国書刊行会のSF全集一気読みしろとか言われたら、泣きながら土下座します)こうやってシナリオと設定説明を両立させる技巧は、大いに賞賛すべきです。

また、容量をふんだんに使えるゲームシナリオ出身とは思えないほど、(いやまあ、元々ラノベ志望だったらしいですが)エピソードの推敲が出来ています。描写やイベントには過不足が無く、編集能力が残念なラノベレーベルに良くある、「で、今の会話/イベントは、シナリオ上どんな必然があったの?」と突っ込みたくなるような場面は皆無。これは、本当に凄いことですよ。

現段階では、人外の魔術師が示す人の道理を外れた思考は、かなり控えめ。むしろ、エキセントリックな言動を繰り広げるラノベの登場人物に慣れた読者からすると、良識的な人物にすら見えるでしょう。
しかしそこは、まどか☆マギカでキュゥべえという、「異質だけど理解可能な素晴らしい悪役」を描ききってくれた作者の事。これから上手く料理してくれる物と信じています。

と言うか、これは文学ではなく娯楽作品ですから、異質さ・人外性は、あくまでもシナリオの道具として活用するのでしょう。正にまどか☆マギカがそうだったように。
そして、娯楽作品としては、読みやすさや構成、テキスト量のコントロールが際だっているのは指摘したとおり。
つまり、とても丁寧に作られた娯楽作品として、今後にも期待できると言う事です。



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Posted by snow-wind at 22:00 │読み物