2011年09月05日

満足のいくクオリティ/『テルミー 2 きみをおもうきもち』 感想

テルミー 2 きみをおもうきもち (集英社スーパーダッシュ文庫)
テルミー 2 きみをおもうきもち (集英社スーパーダッシュ文庫)

一巻の感想はこちら

大事故で「生き残ってしまった」主人公とヒロインが、死んだクラスメイト達の心残りを解消して行く優しい幽霊譚「テルミー」(作者は滝川廉冶)の、第2巻が発売されました。と言っても、実は一月以上前ですが……

そして、丸一年(出版間隔は、本当にきっかり一年です)かけただけの事はあり、満足のいくクオリティに仕上がっていました。

一巻に引き続き、やる事は全く同じ。魂、あるいは記憶の一時保管庫になってしまったヒロインと、それを助ける主人公が、死者達の願いを叶えて回ります。
ささやかな願いは幕間の短い物語で、深刻な願い(あるいは、結果として深刻になってしまった物は)たっぷりを時間を使って、と言う緩急の付け方も同じ。

ただし今巻は、全巻と違って個性的な脇役が多く配置され、ラノベ的な読みやすさが加わっているのが特徴でしょう。これは、良いとも悪いとも言えません。何故なら、脇役達はあくまでも願いを残した故人の友人達で、展開の根幹が変わったわけではないからです。
あえて言うなら、「この巻で取り上げられた死者達は、心残りの成就に他者(脇役)の介在を必要とする者が多かった」と言うだけとも言えます。
第一、脇役達はあくまでも脇役で、作品の方向性を曲げてまで出てくる事はありませんし。

また、その脇役達についても、ラノベ的な個性付けは抑えめで、作品世界に確固たる足場を感じさせます。一番キャラの立っていた映研の後輩だけは、そこから半歩逸脱した雰囲気もありましたが、あれはモブの最後のセリフが失敗だったと言うだけだと思います。(「属性」を直接言ってしまったため、浮いている)

あとは、死んだクラスメイトに優秀な人間が多すぎる(映研コンビ、園芸部部長、それに前巻のバンド少女は、高校単体で数年に一人クラスの逸材でしょう。まだメインを張っていない死者の中にも、相当強力そうなのが数人見えています)気はするのですが、これは話を転がすためにやむを得ない所かと思います。

さて、この作者のデビュー作である「超人間・岩村」も読んだ上での感想なのですが、”時代からずれていて勿体ない”と言う事に尽きると思います。

このシリーズも↑も、いずれも異能者が出て来るのですが、ラノベ的セカイ系フォーマットではなく、菊地秀行のような「地に足の着いた」異能なのです。これは、設定の荒唐無稽さの話ではなく、(異常性で言えば、普通のラノベよりむしろ派手な面もあります)物語内の小さな物語・日常と地続きな点を指します。
彼らが立ち向かうのは、小さな恋愛だったりご町内レベルの悪であったり、狭い家庭内の不和だったり。つまりは、「世界の運命などとは全く絡まないが、本人達にとっては深刻極まる危機」です。

そしてその異能も、そう言った地続きの問題にデウスエクスマキナを投入するためではなく、問題を整理し、決して満点ではあり得ない解決策(特に本作の場合、クラスメイトの死は絶対に動かせない前提)を導くための鍵としてのみ機能するわけです。

なお、問題の発生その物に超常の力が絡まない以上、菊地秀行を例に出すのは間違っているかもしれません。しかし、読後感は、風の名はアムネジアとかインベーダーサマーとか、あの辺のジュブナイル作品に極めて近いです。ちなみに、リンク先は、あの二冊がコンパチになった新書版。例によって絶版。送料込みで考えると、1円出品が並ぶソノラマ文庫版(原版)より安く上がるのが何とも。

閑話休題、少しの不思議が人の思いを掘り起こし、現実だけでは到達できないフィナーレへと導くこの話は、とても綺麗で優しい物語に仕上がっています。その意味では、ブラッドベリの短編が近いのかもしれません。
一年間のブランクがあいて、忘れ去っている人も多いと思いますが、一読お勧め。

作者は、BLOG等で遅筆を気に病んでいたようですが、やはり力を入れた作品は、然るべき時間をかけるのが当然だと思います。この作品については、ジワ売れはしたと思われるものの売上的には少数で、締め切り圧力がそこまで大きくなかったであろう事が、良い方向に出たのかもしれませんね。
何とも、微妙な気分になる予想ではありますが。



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