2011年09月11日

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 9巻 感想

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 第9巻
俺の妹がこんなに可愛いわけがない 第9巻


フワーッハッハッハ!北海道の外に出れば、ライトノベルも発売日に手に入る物なのだ!!

……と、自慢だか自虐だか解らない一文から始めます。
丁度道外に出ていたタイミングだったので、発売日に入手できた、俺妹こと「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第9巻の感想です。最初に入った書店で売り切れていた時には、どうしようかと思いましたけどね。


なお、他の巻やアニメ版等の感想はこちら


今回は、前回予告があったとおりの短編集。このため、破綻無くまとまっており、笑ってしんみりして、スルリと読み通すことができます。正にライトノベル。それが引っかかるレベルに入っている面もあるのですが、それは後述。

ただこれは、前巻でやってしまった最悪のちゃぶ台返しを一旦棚上げした上で可能となる、偽りの静けさなんですよね。別にこう言う短編集は、前巻の感想で書いたとおり、あんなひどい展開などやらなくても、きちんと話を閉じたあとでいくらでも書けるのですから。
いやね、やっぱり凄く面白いんですよ。でもそれだけに、前巻のあれが残念でならないわけで。短編集ならシリーズ終了後も大丈夫というのは、フルメタルパニックが見事に証明しましたし。

とにかく、今後の立て直しがきちんとできるかどうかは、次巻以降にたらい回しです。
とりあえず、各エピソードの感想も書いておきますか。


・あたしの姉が電波で乙女で聖なる天使
黒猫の妹その1である日向(ひなた)、つまりロリ猫(大)視点で紡ぐ、8巻前後の回想。ロリ猫(大)はアニメでの可愛い(姉に向ける虫を見るような目とか)仕草が印象に残っていますが、セリフがついて見事に良いキャラになりましたね。黒猫と桐乃が話の都合であんな事になってしまった今、一番活き活きと動いていけるキャラになりそうです。


・真夜中のガールズトーク
8巻での温泉街合流直後の話。桐乃視点。作者曰く、一番描きたかった場面がカットされているらしいのですが、多分黒猫両親と京介の会話シーンでしょう。そのシーンが無いせいで、日向が美味しい所を全部持って行った印象です。本当に良いキャラですねえ。
あ、中身は特にありません。でも、それで何が悪いと?
多分これは、次巻以降黒猫と桐乃が仲直りしている事のアリバイ作りのエピソードです。しかしそれが成功していたかというと、ちょっと微妙だと思います。前巻の衝突は鋭すぎますから。
でも、あの二人は成長という名の物わかりの良さを身に付けてきている訳なので、ありと言えばありな気もします。


・俺の妹はこんなに可愛い
題名で解るとおり、赤城兄の視点。内容は、京介と赤城がどっちの妹が可愛いかで言い争うという下らない(これは誉め言葉)話。この巻でも視点人物になり損ねてフェイドアウト寸前の幼なじみのセリフが、多分内容の全部。
ただ、「妹が嫌がるから恋人と別れた」と言うセリフは、残念ながら冗談になっていません。純粋に、状況の異常さ・展開の強引さを際だたせるだけです。ギャグになる範囲を超えてしまってましたからねえ。やっぱり、あのイベントの後で、日常への回帰は困難でしょう。


・カメレオンドーター
DVD/Blu-rayのおまけキャラソンの題名をそのまま取った、沙織視点の回想。彼女が失った、過去の人間関係が描かれます。
でもこれ、過去の沙織の仲間達がひどい奴らだ、って言う印象しか受けないのですよね。他の行為は一切問うつもりはないのですが、問題はラストシーン。「代表の妹」でしかない、と言うのは良い。師匠は居ても友達は出来ていなかった、と言うのでも構わない。しかし、再会する時に沙織を呼ばないって、完全にハブじゃないですか。師匠扱いの某キャラ姉にしても、あれでは良い印象は生まれません。
沙織の経験は、本来オタクや元オタクが必ず通ってきた喪失体験として、共感を呼ぶ物だったはずです。それをああ言う風に描写してしまうのは、ちょっと意味が解りません。


・突撃 乙女ロード!
桐乃視点。瀬名と桐乃の乙女ロード訪問記ですが、乙女ロードの描写は全くありません。取材の事件取れなかったんでしょうね……
結局は、瀬名と桐乃が喫茶店でイカレタ会話を交わすだけの内容。いや、会話内容は相変わらず面白いのですが。


・過ちのダークエンジェル
あやせ視点。加奈子の出るイベントに京介が呼ばれる話で、今回最大のガン。
要は、最近売れている「ClariS」とのタイアップエピソードです。別に、実在の諸々を出すのは問題無いんですよ。スティーブン・キングの諸作は大好きですし、ゾンビ・ランドにも大笑いしましたしね。
ですが、ClariSの二人組と登場人物が、お互いを誉め合う光景の気持ち悪さは余りに生臭く、目が滑りました。背景で歌歌わせるくらいにしておけばいいのに、なんであんなヨイショにしちゃいますかね?例え作者の本心だったとしても、売り方と相まってとても純粋には見れません。
加奈子が二人に暴言を吐いている所だけは結構面白いですが、きちんと全部フォローが入る丁寧な処理に、現実に引き戻される思いを味わいました。あれは、よろしくないです。物語の異物です。
そもそもこの話、ClariSが出てくる意味は、全くないわけですし。恒例の作者インタビューに、SMEの営業が出張ってきている辺り、何とも……

ちょっとここで感想から外れますけど、このインタビューで作者の言葉が圧倒的に少ないのは、注目に値すると思います。コラボもメディアミックスも商業的成功も、大いに結構。むしろ儲かってくれれば、作者や作品が生き続けられるわけですから、Blu-rayだのゲームだのを買ってきた消費者冥利に尽きるわけです。
しかしそれはあくまでも、愛すべき作品や作者があったからであって、企業に儲けて欲しいからではありません。そこをわきまえて、展開を行うべきではないんでしょうか?
繰り返しますが、関連会社は大いに儲けて頂きたい。ガイドブックも資料集も買いますよ。おまけ小説もつくみたいですしね!
しかし、消費者にとっては作者と作品が第一で、本質的には他の連中などどうでも良いのです。あの記事が出資者向けの宣伝文書なら結構ですが、私が知りたいのは作品の情報です。作家の思いです。
書籍などただの市場に出回る商品と言うのは全くその通りですが、少なくとも作品の魂だのテーマ、展開、描きたいことと言った「ご託」こそ、一番重要な商材のはずです。
もっと端的に言うと、「夢売る仕事なんだから夢見せろよ」と言う話です。着ぐるみのミッキーが頭部を外して、アトラクションの技術的宣伝始める光景なんか、誰も見たくないでしょう?

例のハルヒ最新刊(感想はこちら)の後書きで、作者が見事に心を壊しているのを見た時も思いましたが、作家というコア商材とそのイメージを、もっと大切にするべきだと思います。
そうやって才能が使い潰されていく状況は、中長期的には作家も読者も幸せにしないのですから。

あやせの心情や加奈子の描写など、基本部分はしっかりしているだけに、これまた残念です。


・妹のウェディングドレス
作者曰く、桐乃のウェディングドレス姿を描きたかっただけで、実際それだけ。ビックリするほど雑な話です。京介が、桐乃の仕事仲間にもの凄い姿をさらしている所とか。
恐らく、ラストで二重生活をソフトランディングさせる布石になっていくのでしょうが、単品としてはかなり厳しいです。アニメになれば、絵面の面白さで化けそうですが……



と言うわけで、各編の内容としてはヒット率5割以上。十分「当たり」と言って良い内容ですが、今までの短編巻に比べるとやっぱり落ちますね。

それと、これは直接の問題ではないと思うのですが、文章がかなり簡略体になってきています。今までの巻と、文字密度を比べてみれば一目瞭然だと思うのですが、かなり流行りの路線に近づいている模様。根幹については、描写をそぎ落としつつもクオリティを維持していますが、今後深刻な心理描写や連動する情景描写を描く時に、どうなるかは未知数。
この辺、ゲーム、DVDおまけ、原作と、今まで以上の量産を余儀なくされた結果だと思うのですが、手の早さと引き替えに失っていく物がないかと心配になります。
そんなの杞憂だろう、と笑い飛ばすには、哀しい先例が多すぎますから。(代表はこれね)


とりあえず、起きてしまったことはもう仕方ないので、ここから物語が読者と作者の納得の行く幸福な終わりを迎えられる事を祈ります。



伏見つかさ関連エントリーはこちら
その他ライトノベル関係のエントリーはこちら






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