2011年10月16日

これは「薬害」とは違う/ポリオワクチンの切り替えについて

医療&健康ナビ:ポリオ生ワクチン 接種を控える動きが広がっています(毎日.jp)

再来年に予定されている不活化ワクチンの導入をめぐって、混乱が生じているというニュースです。
論調としては例によって、「厚労省の対応 FUCK!」と言う物なのですが、ちょっと待っていただきたい。ポリオワクチンによるポリオ発症は、薬害エイズや水俣病とは全く意味が違うのです。

先に結論を書きましょう。

・ポリオワクチンの「危険性」は、高コストをかけてまで撲滅するには見合わないほど小さい

ポリオは、あのルーズベルト大統領も罹っていたことで有名な、不治の病(正確には、重篤な後遺症を残す感染症)でした。そのワクチンの本格的な普及は、なんと1960年代以降。しかし、驚異的な威力により、現在先進国では一掃されています。

しかし、ワクチンという物の特性上、当然副作用はあり、その被害が問題視されているのが近年。日本を除く各国は、より副作用発生頻度の低い「不活化ワクチン」へと切り替えています。

これだけ聞くと、いつもの国内承認ギャップ(許認可利権を握る厚労省死ね)と言う結論になりそうなのですが、実はそう単純な話ではありません。

まず、ポリオワクチンそのものの効果は極めて大きく、日本だけで年間数千人居た発症者(障害者一直線です)を数十人レベルまで押さえ込みました。現時点では、野生株(自然界に居るポリオウィルス)自体が国内ではほぼ根絶されている状態です。
従って、「接種をやめる」と言う選択肢はありません。国内で野生株が根絶されていると言っても、海外に行ったり海外から人が入ってきたり、あるいは何らかの形で生き延びていたウィルスに暴露する機会は常にあるのですから。狂犬病と同じですね。

従って、あとは、ワクチンの安全性をどう考えるか、と言う事になります。

そこで問題になるのが、現行型の生ワクチン(弱毒化ウィルス)と、不活化ワクチン(調製された蛋白質)の違いです。

そしてその問題点は、端的に言って以下のようにまとめられます。

1,生ワクチンの「危険性」は、不活化ワクチンよりは高いが、非常に低い
2,コスト面では、不活化ワクチンは非常に負担が大きい
3,生産国の関係で、不活化ワクチンの採用は国内産業に打撃が出る

順番に見ていきます。


1,生ワクチンの「危険性」
生ワクチンの危険性は、医学的には、接種400万人に1人と言われています。これだと、年間出生者数を考えると、4年に1人と言った所。しかし実際には、ワクチン接種による新規感染認定者は10年間で15名となっています。これが、研究の問題なのか、日本人固有の問題なのかは解りませんが、何にせよ100万人に1~2人程度。リスクとしては、極小と言って良いでしょう。
なお、不活化ワクチンでも、麻痺の発症は0にはなりません。アレルギー反応(ウィルスだろうとウィルスのような物だろうと、体が過剰反応すれば結局神経系がやられる)が問題になるからです。勿論、遙かに低い数字となるはずですが、またぞろ「絶対安全」、などと言うたわごとは勘弁して欲しいところ。


2,不活化ワクチンの高コスト
では、その年間1.5人の麻痺患者を無くす(極小化する)のに幾らかかるか、と言うのが問題となります。
現在の生ワクチンのコストは、1人200円程度×2回。一方、不活化ワクチンは1人5000円程度×4回となりますが、これは勿論個人輸入しているための高コストで、元売りでは半額以下と予測できます。(英語でサーチしても、個別のコストが出てこないのですよ)
つまり、切り替えコストは、不活化ワクチンの価格をX円とすれば、「(4X-2×200)×100万」。

X=1000:36億円
X=2000:76億円
X=2500:96億円

と言う感じになります。これが、年間コスト。
感染者が年1.5人ですから、これは麻痺患者1人を減らすために、少なく見積もって20億円近い金をかけるという施策に他なりません。
こここそ正に公衆衛生のポイントですが、「20億使うなら、もっと多くの人を救える」と言う事は、容易に想像できることと思います。例によって患者団体はこれを厳しく非難していますが、それは利害関係者の言葉に他なりません。
「命は金に代えられない」と言う事を言う人は多いのですが、とんでもない。金は命その物です。技術でも社会システムでもましてや「心の問題」などでない、純粋な金が無いために、どれだけ各国が救える命を見捨てざるを得なくなっているか。数十億かけて年間1.5人の麻痺患者を救うべしと叫ぶのは、その数十億があれば救えるであろう数百人数千人を、見捨てろと言う事に他なりません。って言うか、公立小児科病院バタバタ潰して、保険点数で締め上げられた私立病院もどんどん潰れている中、「子どもの安全」に数十億・効果は年間1.5人です、って、一体何なんでしょうね?

勿論、量産化による規模の経済が働きますし、より安全性の高い物を開発していくのは意味があります。しかし、少なくとも今回の導入については、圧力に負けたという面が大きいのではないかと思います。


3,そして、国産の問題
その意味で非常に大きな意味を持ってくるのが、不活化ワクチンが海外製だったという問題です。上記の式から解るように、年間4億円程度の調達ですから、国内メーカーとしては結構な打撃です。それどころか、他から予算を持って来るとなると、基本的に国内に落ちるはずの金を海外に渡すことになってしまいます。その経済効果を考えれば、二の足を踏むのは、仕方のない側面があるでしょう。
勿論、そう言った合理的判断とは別に、癒着が存在し、大きな力を発したであろう事は、想像に難くありません。と言うか、遅れに遅れたのは、間違いなくそれが大きかったはずです。しかし、ろくでもない人間が支持していると言う事と、その政策が合理的かどうかは、基本的に無関係です。地獄への道は善意から。その逆もまた良くある話です。
同じ承認の遅れでも、ストレートに毒物を投与し続けた非加熱製剤の件とは、様相が異なると言う事です。、

ですから、圧力に負けたと書きましたが、少なくとも調達を要求する海外の圧力は弾いて(弾いたというか、彼らは利権を守っただけでしょうが)国産化を待って切り替えを行った厚労省の判断は、結果として合理的(まだまし)に働いた物と見て良いと思います。



感想:
本当に、この手の公衆衛生政策を見ていて思うのは、この国が近代社会システムを、本当に運用できてるのかという疑問です。
費用対効果を見極め、安い命と高い命(コストと的意味で)を秤にかけてより多くの人を救っていく。それが本来想定される民主主義の効率的側面です。王様の家族を救うには国庫を空にするけれど、領民なら税収に大きく関わらない程度ならどうでも良いよね、の中世国家と対比すれば解りやすいでしょう。あるいは、占星術で救う対象を決めるような神権国家。
確かに、結果的にある程度合理的効率的に動いていれば、意志決定手段が非合理であろうと知ったことではない、と言うのは進化論的に正しいのです。しかし、ニュースやその解説で、きちんとコストベネフィットを比較した論を一切見ないのは、さすがに首を傾げざるを得ません。

ちなみに、そんなのどこの国でも一緒でしょ、と言う議論については、期待される平均余命延長と社会的影響を方程式にして、新薬や新規施策の導入可否を議論するなんてのは、先進国はどこもやってますよ。公衆衛生については驚くほど合理主義のオーストラリアとかね。

とりあえず、今回の件については、「国民の健康に対する費用対効果が先進国最高、なのに国民満足度は先進国最低」と言う、わが国の状況を実に良く表して居るなあ、とため息を吐きたくなった次第です。



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↑ポリオと言われて思い出すのは、この色々アレな映画の中で出てきたソーク博士のエピソード。ポリオワクチンを開発しながら、特許を取得せず全世界での普及を推奨した彼に、当時流行地域だった日本は足を向けられません。
まあ、もっと印象的だったのは、カソリックのムーアがプロテスタンティズムと関わりのある資本主義をdisっている所とか、教会関係者のインタビューで、地位が上がるほど官僚的答弁が増えていく所とかだったりもしますが。
なお、観た当時のもっと長い感想はこちら




当BLOG内、この他の、社会関係エントリーはこちら




タグ :社会医療

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この記事へのコメント
貴殿とは根本的なところで意見が異なりますが、ご参考まで。


経口生ポリオワクチンの価格
自治体の契約例
http://www.city.ichikawa.lg.jp/common/000089431.pdf
経口生ポリオワクチン 200本 で契約金額 1,394,400 円
1本6972円は20人分とのことなので、一人分の価格は348円

ーーーーー
不活化ポリオワクチンの価格
CDCのワクチン価格リスト
http://www.cdc.gov/vaccines/programs/vfc/cdc-vac-price-list.htm
一本1000円程度です。
(現在個人輸入ですが、千円〜2千円の間、程度と聞いてます)


ーーーーー
定期ワクチンの接種費用(人件費)
ワクチンの接種費用(医師の予診など)健康保険の点数から換算すると、約3570円です。
定期接種の場合は、自治体が協力する医師に管理料を含めてこの金額の150%増し程度を支給するのが慣例のようです。
Posted by ご参考 at 2011年10月17日 08:03
情報どうもです。
生ワクチンの金額は、1人分=2回分で348ですから、提示計算式より安くなりますね。
一方、そのCDCリストには、ポリオワクチンは入ってないように見えるのですが?

人件費は省いた部分ですが、その数字で計算すると、接種回数が2回から4回に増える不活化ワクチンは、概算で
3570×1.5×(4-2)×100万=107億1000万
のコスト増が発生することになりますね。むしろこちらの方が大きそうです。勿論、他の健診等と抱き合わせにすることで、固定費である一回当たりの管理費等を安くできる部分はありますが。
Posted by snow-windsnow-wind at 2011年10月17日 21:40
情けない
生ワクの価格は1回分です。計算しなよ。
CDCリストには、IPVと表示されています。OPV/IPV知らないで議論していたの?
Posted by ご参考 at 2011年10月18日 08:33
なお、現在開発中の国産不活化ポリオワクチンは、三種混合との混合で4種混合ワクチンになります。

海外では、
5種混合(不活化ポリオ+3種混合+ヒブ)
6種混合(不活化ポリオ+3種混合+ヒブ+B型肝炎)
が使われています。

接種費用を考えると、多剤混合ワクチンは、バラバラに接種するより、効率的です。
この辺を、考慮して、再考されたら如何でしょうか?
Posted by ご参考 at 2011年10月18日 08:46
とりあえず、あなたが議論口調を維持する程度の事も出来ない程度の方だ、と言うのはよく解りました。

英語の悪習・3文字略称に気づかなかった事が、数値計算に影響を及ぼすとでも?
そして、「一人分」と書いたのはあなたですよ。計算も何も、あなたが提示した原資料では、そもそも200「本」としか書いてないんですから。
人件費についてもね。話を出したのは、私ではなくあなたです。

異論を唱えたいのであれば、結論を最初に書いて、必要な情報を過不足無く提示していただけませんか?後出しジャンケンで話を引っ張られるのは、不誠実以前に迷惑です。
Posted by snow-windsnow-wind at 2011年10月18日 23:20
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