2011年11月17日

トチ狂ったかNHK  未契約世帯を提訴



民主が完全に第2自民党と化して(党内の意見が割れるだけマシ、と言う絶望的な見方を除く)グッダグダの政治より、遙かに驚愕するニュースが飛び込んできました。


未契約5世帯を提訴 NHK、受信料支払い求める(朝日新聞)
NHK自身が出したニュースリリースはこちら


NHKは、放送法によって「国民」が契約を義務づけられるという、あり得ない特権を付与されている民間団体です。
はっきり言って、放送法64条(放送法の条文はこちら)の規定は、その正当性が極めてあやしいものであり(後述)、今まで契約拒否世帯を提訴する事が無かったのは、その辺を良く理解していたからのはずです。

ところが、なんと正面突破で訴訟に打って出ました。大方、完全拒否されて引っ込みがつかなくなったんじゃないかと思いますが。訴訟を仄めかして契約を迫った段階で、拒否されて提訴しなければ脅迫罪になりますから。

上のNHK自身が出したPDFファイルを見て頂ければ解りますが、丁寧口調を要約すれば、「脅しがきかなかったので裁判やります」と言う事でしかありません。

「誠心誠意」とか、素敵な言い回しですよね。「我々は誠意を尽くしたが、相手は応じなかった」と言うセリフは、正当性が完全に担保されていなければヤクザの脅し文句と変わりません。


さて、では一応放送法の何が問題かを整理しておきましょう。


・契約自由の大原則
近代国家の最大の特徴は、所有権と取引・契約の自由が犯されない事です。政治的自由じゃないのかという意見はあると思いますが、所有権や契約の自由と制限選挙の撤廃、どちらが先だったのかを思い出していただきたい。理念上土地も人も王や領主の所有物とされていた中世から、自己の財産と意志決定権を奪い返した事こそ、近代国家の神髄です。

その中で、「契約」と言うのは、近代においてほぼ全ての行動を根拠づける大原則です。
一番解りやすい売買契約から結婚の約束まで、法律と関わる他者との関係は契約で基礎づけられ、空間に働く物理法則のように社会を規定します。

その要件は、「申し込み」と「承諾」で、片方が「こう言う契約を結んで下さい」と言い、もう片方が「解りました」と応えてはじめて効力が発生します。成立タイミング等については、法学部の学生に血反吐を吐かせる細目の百鬼夜行になっていますが、原則はこれ。
これが認められない国など、近代国家ではありません。

しかし、当然ながら例外もあります。
インフラ(電気・ガス・水道)などの事業者は、契約の申し込みを拒否する事はできません。
契約の内容は法律の制限を受け、公序良俗に反する内容はもとより、様々な制約があります。

ですが、これらと放送法の規定は、実は決定的に異なっています。
契約自由の原則が制約されている場合というのは、それなりの理由があります。
専門用語を使っても仕方がないので、解りやすく書くとこう言う事です。

「不平等な契約の押しつけを防ぐ」
「特権と引き替えに権利を制限する」

この二つはいずれも、社会を合理的に回すための修正である事に注意して下さい。

一つ目の、不平等な契約の押しつけというのは、労働基準法などが典型でしょう。雇用者側は被用者側より常に有利で、戦前などはその地位を使ってやりたい放題やってきました。(女工の等級賃金制と賃金カルテルなど、今にそのまま引き継がれてる物もありますけどね!)そのままでは国内に奴隷制が存続しているような物で、経済発展も望めないし社会不安の温床になります。
あるいは、強力な事で有名な借家人の権利ですね。狭い日本で地主や家主は圧倒的な強者なので、その権利が制限されています。

二つ目の意味は、一つめとかぶるかもしれません。特権的な地位を付与された存在は、それだけで決定的な強者ですから。
例えば、みんな大好き・東京電力は、東京地方の発電・送電を独占することが法律で保証されています。しかし、一社しかないのですから、契約自由の原則を適用すると大変な事になります。

「え、あんた等、自家発電設備とか入れちゃうの?じゃあ、そいつが停電になっても電力売ってもらえると思うなよ?」
「あんた、テレビで随分うちの事けなしてくれたね。明日から、暗い部屋で頑張って原稿書いてね」

では、たまらないわけです。そこで、インフラ系企業(水道の場合は公共団体)は、契約の申し込みを拒否できない事になっています。これは極めて厳密な規制で、例えばある建物が建築基準法違反だったとしても、その建物への水道供給は拒否できません。独占権付与の代償とは、つまりそう言う事です。

ちなみに、完全な私企業なのに、医療機関・医師にも応諾義務という物があります。これも、独占権(医業は医師免許等特殊資格の保有者しか行えない、一種の独占だから)付与の代償とされています。しかし、支払いを行わない相手すら拒否できない、インフラ企業より遙かに大きな義務で、問題点の指摘は多いです。


さて、ここまで見てくれば、放送法の異様さが解るでしょう。NHKは、一定の電波帯を占有する事を許された寡占企業にも関わらず、「国民の側に」契約自由の原則に対する制限が科せられているのです。
そもそも放送法は、何故かNHKの義務が列挙されている中に、突然国民の義務が入り込んで来ると言う異様な構成になっていますね。

ただし、その制定過程においては、これは合理的な制限でした。
何故なら当時の技術レベルでは、電波は全国に相手を選ばずぶちまけるしかなかったからです。しかも、放送局はNHKしかありませんでした。
つまり、受信機とはNHKを観る/聞くためのものであって、その所有者に契約義務を課すのは、合理性・正当性を主張できる制限だったのです。

しかし、時代は変わります。現在NHK等、「多数存在する放送局の中の一つ」でしかありません。そもそも私のように、テレビなど各種映像メディアのディスプレイ画面でしかない者も多いわけです。
また、映像のスクランブル技術も数十年前から確立しており、受信設備所有者=NHKと契約すべき者と言う主張の正当性は、とっくの昔に消えています。

国民は、「テレビを買わない自由」の他に、「テレビでNHKを見ない自由」を当然に保有しており、それを妨げる正当性はどこにもありません。


と言うわけで、表題で「トチ狂った」と書いたのは、この裁判ガチでやり合ってNHKが勝てる確率は、5割無いとしか思えないからです。
憲法違反として構成するのは難しい(契約の語に絡めて内心の自由で争うか、正当な理由無き財産権の侵害とみなすか)かもしれませんが、公序良俗か一般法理で違憲判決が出る可能性は十分にあるでしょう。JASRAC VS 喫茶店裁判みたいな、理解に苦しむオチになる可能性も勿論あるのですが……

ひょっとして、この前の未払い者相手の損害賠償裁判で、最高裁の判断が回避された(判決の要旨はこちら。最高裁は、判決趣意書の交付は義務でも責務でもなく単なるサービス、などと言ってしまうような恥知らずなので、WEBページに掲載されていない判決は山ほどあります)事から、都合の良い判例を引き出すために深追いしたのかもしれませんが、余りまともな戦略判断とは思えません。

勿論私としては、NHKが自爆して見事に完全敗訴し、俺様法律解釈をわめき立てたあげく器物破損に及ぶような勧誘員が失業し、本体には契約解除要求が殺到して経営危機に陥り、ついでにテレビを観るという習慣も加速度的に失われ、放送局がバタバタぶっ倒れるのを指差して笑える事を期待しながら見守りたいと思います。

まあ、そこまで行っちゃうと、失業問題と、あと何よりアニメの一時頒布機会が余りに細くなっちゃうので、つぶれかかって場末のコンテンツプロバイダーに落っこちてくれるくらいが、丁度良いかと思います。ま、つぶれてくれた方が、地方独占とか言う意味わかんない放送の枠組みが道連れになって、長期的には良い方向に行く気がしますけどね。



NHK――問われる公共放送 (岩波新書)
NHK――問われる公共放送 (岩波新書)

↑こう言う本が出てからもう6年。結局、何も変われませんでしたからねえ……
今なら1円大行進。なお、私は作者と違って、公共放送がこの国に必須だとは思っていません。BBCより劣悪なのもそうですが、ではBBCのような強制権力もった組織を作ると言われたら、全力で拒否したいところですし。





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タグ :社会

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