2011年12月21日

面白かった作家との意外な再会 『妄想ジョナさん。』 感想

妄想ジョナさん。 (メディアワークス文庫)
妄想ジョナさん。 (メディアワークス文庫)


メディアワークス文庫は、立ち上げ期の迷走を脱し、ライトノベルと一般小説の狭間に豊かな領域を開拓しつつあります。ラノベ的飛び道具に頼らず、しかしそれを有効に活用する方向を拓いた、と申しましょうか。ラノベ作家を積極的に拾い上げにかかったハヤカワ文庫と並んで、読者の高年齢化に対応する道がようやく整備されましたね。

と言うわけで、色々気に入った作品が出てきているのですが、今回紹介したいのはこちら。派手な妄想癖(ガチの器質性脳障害レベル)を持つ半引きこもりの大学生の前に、ウサギの着ぐるみ姿の美少女(ただし主人公の自覚的妄想)が現れ、現実と向き合えと言ってサポートキャラになる話です。

初期設定から話のオチまで全て見える感じですが、まあほぼその通り。しかし、主人公が現実に立ち向かいそして傷つく一つ一つのエピソードを積み重ね、脇を固めるキャラクター(変人奇人)を魅力的に描く事で、見事に感動できる作品に仕上がっています。
その「感動」と言うのも、ヒロインが主人公の妄想であることを前提とした上での、「面白うてやがて哀しき」路線。終盤、文字通り現実と妄想の間で引き裂かれる主人公の姿は胸に迫ります。そして、それを手を差し伸べる脇役達の優しさも。
物語は、冒頭で主人公が言っている事が全てなのですが、与えられたフラグをこなしていく作業的な物とは対極の、在るべき場所にピースがはまっていく心地よさで貫かれています。

多分読者は、最初の余りに過剰な妄想の内容に少し後ずさると思うのですが、そこで止めずに読み通す事をお勧めします。他の疑問点は、主人公の孤立を決定づけた「電柱の彼女」とある登場人物の類似が、説明されていない所くらいですし。

何気に、舞台の半分となる推理研究会のゲーム群とかも、なかなか良くできてて楽しめるんですよ。あのサークル、メディアワークス文庫を読むような少し古目のオタクにとって、理想と郷愁の煮こごりのような物でしょう。
と言うわけで、なかなか良いライトノベル(?)でした。


さて、最後に表題の意味なのですが、作者の他作品も読んで見ようと思ってググったら、なんと、電撃文庫で出ていた「二四〇九階の彼女」の作者さんじゃないですか。
「二四〇九階の彼女」は、魔界塔士SA・GAを彷彿とされる高い塔を降りていく少年の話です。恐らく人類の移住施設、コロニーのような物だったと思しきこの建物は、各階層が一つの世界を構成しています。しかし、そこを管理し人類を「幸福」に導くべきコンピュータは狂っており、主人公の前に現れるのは、ほとんどが、どこか歪んだ世界。
幸せだった故郷を離れ、遠く無線通信で会話を交わした憧れの人を求めて旅立つ少年の姿と言い、哀しくも狂ってしまった幸せな世界の諸相など、生硬ですがとても綺麗な短編集でした。しかし、電撃文庫と言うかラノベの主流からは外れていたため見事二巻で打ち切られ、そのまま作者もフェイドアウトしたかと思っていました。(実際、その後電撃文庫で全く見かけませんでしたし。今調べたら、3年後の2009年に一冊出していたようですが)

いや本当、あれが速攻版元品切れ再販予定無し・AMAZONで1円出品の嵐って、余りにひどいと思うのですよね。


ですが、作者さんはちゃんと生き延びて、ついでにその方向性がマッチするレーベルも存在するようになったわけで、素晴らしい話です。
メディアワークス文庫は、どんどん少年ジャンプ化して無茶な続編ばかりになってしまった電撃文庫にかわって、実力はあるけど地味目で損をしている作家を受け容れていって欲しいと思います。



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