2011年12月22日

上客に喧嘩を売る供給者など、潰れて構わない 自炊代行訴訟問題

本の「自炊」代行は複製権侵害 浅田次郎氏らが提訴(日経新聞)
「書籍の自炊代行は違法」作家・漫画家7人が提訴(朝日新聞)
作品電子化 差し止め求め提訴(NHK)


いつかやる、と言うか「やってしまう」んじゃないかと思っていた愚行に、見事出版業界は手を染めたようです。
奇しくもwinny裁判が「失われた7年」を経て結審した昨日、泥でできたタイタニック状態の出版界は、合法的ラッダイト運動(皮肉)を宣言しました。

これについては、余りに突っ込み所が多すぎるのですが、とりあえず3点に絞りましょう。

1,あなた達の感情など知った事ではない
2,これは「コピー」問題ではない
3,あなた達が叩きのめそうとしているのは、あなた達の一番の上客です


では、順番に。


まずは1。「あなた達の感情など知った事ではない」
我ながらひどい言い方ですが、これははっきりさせておく必要があります。書籍の購入者は、「所有権:物体の生殺与奪全権」を譲り受けています。著作権法は、厳密に範囲を定められた例外規定に過ぎません。ですから、売ったあとそれをどう扱われようと、販売者が文句を言う事はできません。正確には、文句を言うのは自由ですが、強制する権利は何もありませんし、何が変わるわけでもありません。
個人的には活字を汚すのは抵抗がありますが、必要とあれば、バラバラにもたき付けにもするでしょう。それは購入者の自由です。少なくとも、悲しい思い云々は、こんな場(訴訟を宣言する公的な場)で訴えるような事ではありません。
何よりも、スキャンその物を許すかどうかを、著作権の一部だと思っているような態度が許し難いです。どんなに立派な作家であっても、尊敬すべき人間であっても、他人がその所有物をどう扱うかにケチを付ける事はできません。それは、この社会における一番基本的なルールです。


次に2。「これは『コピー』問題ではない」
私は基本的に全てのコンテンツは実質的にコピーフリーでなければ意味が無いし、買いたくもないと思っているのですが、関連業界の見解が異なる事は理解できます。原理的に無限増殖が可能、自分のコントロールを離れて増殖するというのは、やはり恐ろしいでしょうから。
しかし、自炊代行は「コピー」ではありません。依頼者が提供した書籍は裁断され、不可逆に破壊されます。(一応再利用は可能だとしても)つまり、ムーブ、形態の変換に他ならないわけです。
裁断済書籍の売買が云々言う声も聞こえてきますが、それは全く別の問題ですし、悪い理由など何もありません。大体、それを言うなら、ダビングが前提のレンタルCD屋がどれだけ音楽産業の拡大に貢献したか(そしてCCCDが何を残したか)を、考えて見ると良いと思います。


そして、最後に本題の3。「あなた達が叩きのめそうとしているのは、あなた達の一番の上客です」
前に取り上げたまねきTVの件(わざわざ海外から、日本のTVを違法コピーでなく視聴しようとした人達のルートを閉ざした)もそうなんですが、一体これに勝って、誰が得をするんでしょうか?海賊版がどうこう言っているようですが、私が海賊版業者なら、代行サービスに頼むようなアホな事はしませんよ。自分で設備を揃えた方がいいに決まってます。足も付きにくいし、本を安い人件費(海賊版業者は基本アジアン)でスキャンしない理由がありません。
むしろ、こう言うサービスを一所懸命利用しているのは、本を捨てられない読書家で、つまりは上客に他なりません。家の収納力を越えて本をため込み、しかし売ったり捨てたりはできなくて無限収納の電子化を試みる。こんな有り難い客の利用機関を潰して、一体何が文化なんでしょう?
例えば、スキャン・裁断された本は普通にブックオフに流すというわけに行きませんから、私のように買っては売りを繰り返す(もはや収納力は限界で、手元に残すのは月数冊が限度です)者より、余程優良な顧客なわけです。その利便性を奪う。売った物を利用するなと言う。一体彼らは何を守ろうとしているのか?

そして、彼らの今までの主張をまとめれば、中古に売るな、電子化するな、裁断など以ての外、と言う事になり、もう自然に朽ち果てるまで置いておくしかないことになります。そんな面倒な制限の付く物、誰が買うもんですか。

前にも書きましたが、ご多分に漏れず私も家にも実家にも本が溢れており、ダストがダストに還る前に、何とか電子的サルベージをしなくてはならないと思っています。学者だった祖父が死んだ後、蔵書を整理しようとしたら、数十年より前の層がまとめて(文字通り)朽ち果てていた惨状を見ていますし。

しかし、それに比べれば可愛い物とはいえ、多量の本をスキャニングするのは恐ろしい手間です。作業が全部で何時間かかるかを考えたら、その時間を読書なりゲームなりに当てたいと思って先延ばしになるのは、多くの人が納得してくれるでしょう。大体、スキャン機器を設置する場所を空けるためには、本を整理せねばならないという本末転倒も待っています。
従って、スキャン代行は電子化を考える読書家にとって、最も合理的な解です。私も、もう少し規格と値段がこなれたら頼むつもりだったのですが、この始末。

そして、読者にとって損失であると同時に、文化にとって致命的な傷を残す可能性があります。
大量にさばくためには代行サービスしかない、と言うのは書いたとおりですが、それはつまり、民間ベースで大量に存在する稀覯本もそうでないもの(現在出版されている本など、100年経てば漏れなく稀覯本です)もまとめて電子データとして後世に残すチャンスが、失われてしまうと言う事です。これは電子出版が活発化しても代替できない部分であり、絶対に出版業界を許せない理由の筆頭です。
例えば、私の本棚には、恐らく千部発行されたかどうかもあやしい弱小出版社(当然今はない)の、大して面白くもない小説が収納されています。こんな物のデータが現在残っているとは思えませんし、私を含めて恐らく全国に数十人しかいないであろう所有者が電子化しなければ、消えて無くなってしまうわけです。(ちなみに、国会図書館のデータベースでも見つかりませんでした。納本義務をブッチする連中は多いのです……)物体としての本の寿命など、普通100年もありません。
そして、上で触れましたが、年月が経つにつれ、現在人々が所有している全ての本は、消えて無くなる稀覯本と化していくのです。

結局の所、本、と言うか文章を基盤とする文化の継承と発展において、現行の既得権者は障害にしかならないのかもしれません。今はまだ懐古趣味(活字の方が良いと感じる我々は正にその側)が多数派かもしれませんが、大転換はどうせ訪れるわけで、そこで文字文化のパラダイムは一旦リセットされるのでしょう。その結果各種の技術が一時的に退行し、携帯小説のような物が主流になっていったとしても、それはきっと仕方ないことですし同情する理由もないように思えます。


日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか
日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか

暴行罪より重い刑罰を城壁のように張り巡らし、彼らが守ると称していた文化は、きっとその中にはもうありません。



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この記事へのコメント
毎度毎度この手の話は面白くためになります
結局ほっといたら声のでかい馬鹿の意見が通るようになってるんですよね。
馬鹿には意見をいわず暴力に限ります。昨今の日本は馬鹿が力もってるからもうどうしようもないですね。暴力以外の解決策が見つかりません。
Posted by tttttop at 2011年12月22日 22:57
少なからぬ数のコンテンツ関係企業、そしてクリエイターが持つ
「不正コピー」への恐怖と憎悪、既得権益への執着は、
本来手を携えていく事ができたはずのエンドユーザーと
もはや完全に相容れぬ敵対関係を作り出してしまったように思います。
表現規制を目論む警察官僚側から見れば、規制反対派という「敵」が分裂を始め
上手くすれば法整備(ネット規制・自炊規制・著作権法強化)というエサをもって
既得権利者サイドを自分たちのイヌとして取り込めるという事になり、
かなり美味しい状況でしょうね。
Posted by Code_1940 at 2011年12月23日 22:42
ハードの寿命で考えれば、紙のほうが残しやすいように思えますが。
複製が容易、バックアップを取り続ければ半永久的に残していける、ということでしょうか?
Posted by m at 2011年12月30日 19:15
>m さん
そのとおりです。紙は現段階では電磁媒体よりはるかに寿命が長いですが、個人レベルでの長期保存は物理的に現実的ではありません。
翻って、電磁データは数年おきの移行とバックアップがあれば、個人でも幾らでも残せます。
そしてその移行やバックアップと言うのは、現在普通にみんなやって居ることなわけです。

また、紙は寿命が切れた時のデータ移行が非常に面倒で、結局の所電磁化されることになると言う問題が。
恐らく紙媒体の役割は、電磁記録のバックアップ程度の意味しか持たなくなるんじゃないかと思います。
Posted by snow-windsnow-wind at 2011年12月30日 20:39
新年明けましておめでとうございます。

返信ありがとうございます。
理解できました。
Posted by m at 2012年01月01日 01:38
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