2012年01月20日

残念な疑似ナショナリズム 「花咲けるエリアルフォース」 感想

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)
花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

今更書く必要があるのか解りませんが、杉井光は、堅実な筆力で着実にファンを増やしている、実力派のライトノベル作家です。作劇上の「飛び道具」を多用しない地味な作風と、過剰さを抑えめにしたキャラクター描写が持ち味でしょうか?
一方で、人物描写も設定の練り込みも、ライトノベルとしてはこなれている一方、その殻を破れていない類型処理が鼻につくことも多い、微妙な立ち位置とも言えます。

そして、一年ほど前に出版されたこの作品では、その悪い方の側面が見事に強調されてしまう結果となっていました。

物語は、東西に分断された日本を舞台に、オーバーテクノロジーの戦闘機乗りになった中学生の話です。早い話が、イリヤの空ガンパレード・マーチ
お話としての起承転結や文章力、それっぽさを見事に醸し出す戦闘や風景の描写は、相変わらず出色です。実際問題、基本的な作品の出来は悪くないのです。しかし、オルタナティブヒストリー物としては、根本的な設定に大きな問題を抱えており、余りに残念な状態になっていました。


問題点は、恐らくただ一点から生じています。つまり、
「ナショナリズムの使い方を間違っている」
と言う事です。


これに編集も作者も気づかないというのが、正に「ライトノベル」と言われてしまうゆえんじゃないかと思うのですが、ナショナリズムを前面に出した作品で、分断国家の内戦を描くのは愚の骨頂です。
桜・皇室・白い軍服と言った象徴をこの作品はふんだんにぶち込んでいるのですが、これら「日本人」の象徴を持ち出すなら、「敵」は絶対に、同じ日本人であってはなりません。要するにナショナリズムとは内と外を分ける概念で、「外」に対して「内」の特殊性・優越性を主張する事で、構成員をその気にさせるための道具です。
一応、敵役である西日本の「民国」は、桜を切っているとか皇室を戴かないとか言う理屈がこねられているのですが、ナショナリズムを刺激する「敵」としては、無理がありすぎます。

そもそも、皇室や靖国を奉じるのが東日本(作中名:皇国)というのが悪い冗談みたいな設定だと、誰も突っ込まなかったのでしょうか?
現在の国家体制の基となった明治政府とは、250年続いた江戸幕府を、原理主義イデオロギーで武装(あくまでも人気取りと正統性主張のための道具。勿論、その政治センスが優れていたと言う事です)した西日本勢力が、クーデターで乗っ取った物です。そして靖国神社とは、その政権が功労者を慰撫するために作った招魂社で、明治維新という名の内戦で幕府・東日本勢力を殺した者達が祭られている場所です。これに関する現実の政治対立の話はどうでも良いとして、「西日本勢力との内戦を戦っている東日本政府」にとって、後生大事に拝むような代物かは、言うまでもないでしょう。西日本は東日本のナショナリズムが牙を向ける「外部」であり、靖国に祭られた明治の元勲や薩長土肥閥の軍人達(圧倒的多数派)は、「敵国の英雄」に他なりません。と言うか、敵の戦死者まで祀り続けているみたいなんですが、これに納得できる国民いるんですかね?主人公はただのアホなので気にしてないみたいですが、冒頭で親兄弟を皆殺しにした西日本のパイロットも、一緒に祀られてるって事なんですよ。そんな場所に遺族が手を合わせられると?

そもそも、折角の東西内戦という舞台を設定しながら、「同胞と殺し合う」事の問題をほとんど描かないというのは、何なんでしょうね?と言うか、その問題を描かないなら、「敵」はアメリカでも中国でも朝鮮でもロシアでも、普通に「外」に設定すれば良いわけで。同じ負け戦・東西内戦物として、色々な問題を正面から扱っていた群青の空を越えてなんかと比べる時、この意味不明な設定は許し難い物があります。一応陛下だけがそう言う事を何か言ってるんですが、むしろ大きな傷を負うのは、元同僚と殺し合い同胞を殺戮する一般兵の側でしょう。冒頭の誤爆なども、焼夷弾に焼き殺された子ども達の悲劇よりも、殺してしまった西日本兵の側に巨大な負債が発生してしまう訳ですが、その辺は描かれませんし。
恐らく、この問題をバイパスするために、主人公を人とまともにつきあえないコミュニケーション障害者にしたのだと思うのですが、おかげで主人公への感情移入度も壊滅的に。


逆に、右の人達がぶち切れそうな皇室の扱いなんかは、むしろあれ正鵠を射てる部分があったりすると思うんですけどね。血の穢れを禁忌とする皇族が前線豚やって良いのかという話は置いておいて、アイドルであれ聖なる父であれ癒しの祈念者であれ、「精神的支柱」と言う統治システム上の機能は良く表しているわけで。美少女はねえだろうというツッコミについては、もっとえげつなく描写していた零式と言う先駆者も居る事ですし。
でも、天皇自らパイロットとして西日本の同胞を殺しちゃったら、内戦で勝ったとしても、「皇国」としての再統合は不可能になると思いますけどね。一方で、非正規戦で皇族皆殺しにした西日本が政権維持できるわけねえだろうとか。この辺も、内戦の重さをない事のように扱う、設定の残念さを象徴します。

あと、これは枝葉なので余り突っ込みたくないのですが、なんでこの手の作品は、ソメイヨシノを単純クローン呼ばわりしやがりますか?あいつ等別に子孫残せますし、(要は、純粋なクローンの特徴を「ソメイヨシノ」と呼称する、トートロジーな呼び名)そもそもクローンで増えていったって、突然変異や環境因子で全然別の個体になって行くんです。ポトマック河畔のソメイヨシノの色が違う、なんてのは有名ですね。と言うか、遺伝子が同じ=同じ個体なら、一卵性双生児はどうなるねんという話です。一応SF(っぽい)作品なんですから、その辺はおさえて欲しい所。

と言うわけで、ある意味杉井光の「あと一歩で名作」感を、存分に堪能できる一品となっていました。やっぱりこの辺は、濫作を余儀なくされるライトノベルレーベルの問題じゃないかと思うのです。基本的なポテンシャルはもの凄い物を持っているわけですから、刊行本数をもう少し減らして取材や練り込みの時間を取れれば、大きく飛躍できると思うのですが。

このままだと、多作で良作も多いけど心に残る一作は非常に少ない、「売れっ子」で終わってしまいそうで残念です。作家は寿命が限られていますし、使い潰される前に数十年残る作品を書いて欲しいと思うところ。それだけの実力は、間違いなく備わっているはずなのですから。



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