2012年02月20日

光市母子殺害事件判決/”美しい国”の諸相

光市母子殺害:元少年の上告棄却 死刑確定へ


世間と意見が分かれそうなエントリーを書くときは、「炎上商法です」とか宣言する事で逆にトラブルを避けるという、ダメージコントロール技術はどうでしょうか?

大方の予想どおり、光市母子殺害事件は被告人死刑の判決が出ました。それ自体は予想どおりなのですが、やっぱり気になるのはこのニュースに対する反応なわけです。と言うか、今やネットの情報流通はニュースその物よりもニュースへの反応・それをネタとしてのコミュニケーション体系がメインになっているので、嫌でも目に入ってくるわけで。


と言うわけで、色々ゲンナリしたので軽くこの件について書いてみたいと思います。
と言っても、かなり多くの論点を含みますので、結論を先に書いておきましょう。


結論:多くの人が無邪気に犯人を鬼畜呼ばわりし、自らの「正義」に酔ってますけど、そんな簡単な話ですか?と言うか、問題点はそこですか?


で、以下が結論に至る個々の論点です。


1,報道の霧
普段マスゴミがどうこう言っている人達が、何故こう言う件ではマスコミの情報を基に過激な結論を大声で主張できるのでしょうか?
更に言えば、世論を決定づけた被告人の知人宛私信(検察側証拠)なんて、書かれた経緯・被告人との関係・検察の入手経緯など謎も多く、被告人の鬼畜性を証明する物、と単純に言ってしまって良いのかは疑問です。

2,弁護団の「問題」
ある意味被告人よりボロクソに言われている弁護団ですが、弁護士の仕事、そして社会的使命を非難するに等しい雑言が多すぎます。
弁護士は被告人の利益のみを考える存在で、極悪人の味方をするのは道理の当然です。いわゆる人権派弁護士は変な人も多いでしょうが、冤罪食らっても当番弁護士や国選弁護人に面倒くさそうな対応されるのが普通な事を思えば、熱心に弁護する「変な人」を批判するなどとんでもない。
弁護方針の選択に失敗した、と言うテクニカルな批判はいくらでもすべきかと思いますが、「被告人の主張に沿って」弁論を行う以上、ドラえもんがどうこうとか抱きつきとか言う話のどこに批判の余地があるのか解りません。だって、被告人本人がそう主張しているのだから、代弁者の弁護士がそう言うのは当然じゃないですか。

3,野次馬は常に無責任(悪魔の辞典)
つまるところ外部から見ている側としては、あの元少年は自分とは関係ない、どこか遠くの犯罪者の一人でしかないのですよ。被害者の気持ちを慮れ、などと言うのは基本的に戯言で、じゃあお前は年間千人から居る殺人被害者の何人を知っているの?と言う話になります。結局、言動がエキセントリックで報道が集中したから偶然知ったに過ぎない「世の中に一杯居るおかしな人」(滅多にいねえよ!と言う意見については、少年犯罪データベースでも見れば良いんじゃないですかね。昔も今も一杯います)をつかまえて、「殺せ」コールと「死亡決定ざまあ!」の快哉を叫ぶ。そこに見られるのは、正義という大義名分をくっつけてストレスのはけ口にする、単なる醜い光景です。
あんなひどい物を見せられた以上人間としてどうこう、と言う話もあるのですが、上記の通りひどい事など世の中には溢れていて、一人の人間を取り上げて「ざまあ見ろ!」と叫ぶ事にストレス解消以上の意味は無いでしょう。

4,問題は湖塗される
では、ストレス解消で何が悪い!と言う話になると思います。これは、明確に悪い事があります。それは、もっと本質的な問題が覆い隠されてしまう事。
そして問題とは、「加害者の過剰な保護」では、絶対にありません。
表現規制絡みで何度も何度も指摘してきましたが、わが国の犯罪者・被告人の権利保護は極めて劣悪であり、有り体に言って近代国家のレベルに達していません。少年の匿名報道などただの報道側の自粛以上の意味は無く、それ以前に弁護士の同席不可・留置実質任意・ミランダ宣告不要、とやりたい放題です。
今回の裁判にしても、供述内容が取り調べ段階から変化した事が論点になっていましたが、あんな事は、弁護士同席や録画記録があればそもそも発生しないわけです。そもそも、精神や知能に問題がありそうな被疑者をいいように誘導して犯人に仕立て上げてきた歴史こそ、人権派弁護士が出てくる大きな要因になった、と言う事も理解しておきましょう。
と言うか、これで厳罰化や権限拡大に繋げられれば、警察や検察は笑いが止まらないでしょうね。

では真の問題点は何かと言えば、「加害者・被疑者の人権以上に、被害者の人権や利益が損なわれている」と言う事でした。確かに、今回活動的な遺族のおかげで一定の立法にたどり着いた物の、あんなものは単なるお題目です。ろくな予算措置がされていませんから、犯罪被害の回復は大して変わりません。これは、「子どもの人権」を旗印に表現規制を進めながら、救済施策に予算もつけずに放置している「児童ポルノ」問題と完全にパラレルです。(それどころか、当の児童を売春で送検する始末)

結局の所、正義に酔って報道の焦点が当たった異常者(なのか解りませんが)一人を袋だたきにして溜飲を下げ、「あーすっきりした」と解散していく野次馬連は、耳目を解りやすいスケープゴートに集中させる役割しか果たしていません。

例えば今回、被害者遺族の方はそれなりに裕福だったからこそ、あれだけの活動を行えたわけですが、殺された側と遺族が逆だったら、遺族は社会的に終了です。一瞬で貧困家庭に落っこち、生活保護をもらえればラッキー。そうでなければ生活に追われ、政治活動どころか裁判の傍聴すら困難になったはずです。要はセーフティネットの問題で、これから予算と手間をかけて整備していかねばならない部分です。社会的な意味で言えば、被告人が死刑だろうが無期だろうが鑑定で保護監察かと言った問題など、実際に被害者救済システムに予算が付いてどう運営されるかの問題と比べたら、ゴミみたいな物です。

勿論、今回立役者となった遺族の方にとっては「大した問題」に他なりません。しかし、それは正に個人的な事情であって、そう言った個人の事情を背負うわけでもない外野が乗っかって正義感のはけ口に使っても、意味は無いどころか有害にもなり得るわけです。
と言うか、そうして「憎むべき犯人」に石を投げる一方、その犯人扱いされた人間は本当はどうだったのかとか、救済すべき被害者が居るのではないかと言った問題を置き去りにして来た事が、正に現在まで問題を持続させてきたわけですから。
そして、石を投げる勢いで、ただでさえ劣悪な被疑者側の人権保護が削り取られるなら、その被害は一見の殺人事件などとは比べものにならない規模になり得るのです。実際、少年事件については、毎回そう言う方向に誘導されてますよね。この辺の、権利が足りない事を改善するのではなく、誰かの(そして実は自分の)権利を削り取って溜飲を下げる奴隷根性こそ、正に「美しい国」のいつもの光景なわけで。


戦前の少年犯罪
戦前の少年犯罪

↑被疑者側の人権?ナニソレ?状態の戦前は、犯罪の凶悪性ははるか上。厳罰化に感情の満足以上の意味は無く、セーフティネットの整備に比べれば優先順位は当然下になるわけです。



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この記事へのコメント
自分も感じた世間の風潮の違和感を論理的に説明してくれたような気がして参考になりました。
最近は警察の側に権力が集中しすぎてると感じてますが、どうでしょう。
Posted by tttttop at 2012年02月21日 22:40
ブログ主様も野次馬の一人ですよね。
自分はブログ主様とは逆で、被疑者に温いと考えています。
まずこの事件が99年に起きているということ、それから10数年の間被疑者の生活はある程度保証されていた訳です。遺族にとって、その10数年どのように暮らしてきたかは当事者にしか分かりません。仕事にも支障が出るかもしれないし、本村さんは自殺すら考えたと言います。
感情を抜きにすれば主様のような考えになるのでしょうが…置かれている状況は遺族の方が悪いのではないでしょうか。

後、この弁護士達の発言の移り変わりについてはちゃんと調べた上でしょうか?
弁護士達は遺族に対しての侮辱的な発言が多くありました。弁護するのが仕事とはいえ、余りにひどい弁明故に叩かれていた、ということは知っておいて欲しいです。
Posted by 野次馬A at 2012年02月23日 00:16
論点ずれてるっす野次馬A氏

show-wind氏は野次馬が騒ぎ立てる事の弊害と、弁護士が何故そのような弁解をするに至ったのかを記事で指摘しているのではないかと

まぁぶっちゃけこういった騒ぎ方する人は石原都知事の「憲法廃止論」に諸手振って賛成するのを見てたりするのでむべなるかなって気もしますが

一応憲法=国家を制限する法律なんですがね…いやはやどこ向いてるんだか
Posted by ('A`) at 2012年02月23日 01:31
野次馬Aさん

> 遺族にとって、その10数年どのように暮らしてきたかは当事者にしか分かりません。
> 仕事にも支障が出るかもしれないし、本村さんは自殺すら考えたと言います。
> 感情を抜きにすれば主様のような考えになるのでしょうが…置かれている状況は遺
> 族の方が悪いのではないでしょうか。

遺族の方の置かれている状況が悪いからこそ、しっかりと予算措置のされた被害者救
済システムを整備していくべきなのに、そういった話はされずに被告人を袋叩きにす
ることに全力を挙げているのはどういうことか。それによって、遺族の方を支援する
ようなセーフティネットが存在していない、という問題が覆い隠されてしまっている。
というのがsnow-wind氏の言いたいことだと思いますがいかがでしょうか?
Posted by shio at 2012年02月23日 21:39
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