2012年03月04日

力強い秀作SF短編集 『リリエンタールの末裔』 感想


リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)
リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)



上田早夕里は、小松左京直系と言って良いであろう、骨太の未来史『華竜の宮』で一躍有名になったSF作家です。
最近だと、まどか☆マギカがノミネートされた事で話題になった、日本SF大賞を受賞していましたね。個人的には、作品としてのパワーではまどか☆マギカの方が上だろうと思いましたが、「SF大賞」である以上、実力十分なこの作品がトップを取る事に違和感はありませんでした。(まどか☆マギカにも特別賞とかやれよ、とは強く思ったもんですが)
ただ華竜の宮は、個々のエピソードは良くできている物の、今一全体の連関が弱く、点描に留まっている部分があるのは残念に感じたところでした。小松左京との比較という意味でも。もっとも、この辺は好みの問題かとも思います。

さて、その作者の最新刊が、このリリエンタールの末裔です。内容は、華竜の宮との関連を前面に出した販促とは裏腹に、相互に独立した四話入りの短編集です。

しかし困った事に、表題作で華竜の宮の世界を舞台にした「リリエンタールの末裔」が、もっとも残念なできでした……
いや、作品の概要は悪くないのです。主人公の民族の起源も、都市における対立も上手く本筋に絡みついていますし、航空マニアの店主もやや定型的ですが魅力的。主人公はちょっと変わっていて、飛ぶ事に取り憑かれた姿は「男の子」キャラの典型のはずなのに、何故か「少年」より「少女」をイメージした方がしっくり来る不思議な存在です。(多分、被迫害者なのに迫害者との直接対決を避けると言うより興味の外に置く基本スタンスが、余り「少年的」でないせいでしょう。なお、毎回繰り返しますが、作品に対するジェンダー評価なんぞクソくらえであり、単に感じた印象を分析しているだけだという事を、ご承知置き下さい)
閑話休題、とにかく問題なのは、「そこで終わっちゃうの?ここからがキモでしょ!?」と叫ばざるを得ないラスト。正直このままでは、ヤマはなくオチが弱い、秀作ならぬ習作状態ですよ。最近アニメが話題になっている「ANOTHER」のラストを読んだときの気分、と言えば、理解してもらえるでしょうか?
基本的な設定や造りは魅力的なので、独立した長編に仕立て直せば化けるんじゃないかと思います。確かに、昔のSF短編って、こう言う投げっぱなしが良くあった気がしますが、それはむしろ克服されるべき過渡期の現象だろうと言いたいところ。

以下、各話の感想。

「マグネフィオ」
高次脳機能障害を患った元医療機器メーカー社員と、同じ事故で植物状態になった同僚、それにその妻を交えた三角関係の話。
基本的にイーガン型の、パンクまで行かないサイバー譚なのですが、人間関係に重きを置くウェットな作りになるのは日本SFのお約束。こう言う所も小松左京直系という印象を補完します。
ただ、植物状態になった夫の脳磁波情報を置き換えた、美しい花の映像に見入る妻の姿とか、色々病んでしまったリアル障害者家族の姿を見るようで背筋が寒くなります。オチの話は散々イーガン他がやってきたネタなので新奇性は無い物の、そこに落とすまでの過程でしっかりと認識の恣意性を扱っていて好感触。SFはジャンル小説に他ならないので、センスオブワンダーと言う名の新奇性以外にも、やり尽くされた観のある話を別の角度から再話して見せる技巧はとても重要です。これはそう言う話で、正に短編向きの佳作。楽しめました。


「ナイト・ブルーの記憶」
ひょっとするとこれも華竜の宮と繋がっているのかも知れない、極近未来のエピソード。
無人深海探査艇のAI訓練役として、フィードバック機構を豊富に備えた探査艇とある種のシンクロをして、海に潜る男の話です。
この中では一番短い話なのですが、イメージは一番強く、気に入りました。要は、感覚を拡張されたせいで、自己認識と共感覚が変容してしまった人の話なのですが、その変容が近くに居た人間の回想の形で語り直される事で、上手く読者の共感に繋げています。断絶が決定的になるシーンは、直前の話の持って行き方にやや作為的なものを見てしまうのですが、情景が目に浮ぶような沈痛さを憶える事ができますし。
なお、これも語り部が「別の地平に立ってしまったパイロットに、惹かれてはいても終生知人以上の関係になる事はなく、憧憬と共にある種の恐れも抱いていたメディックエンジニア」と言うような立場の人間から語られるので、割とウェット。舞台が海、と言う駄洒落ではなく、この辺が作者の持ち味なわけです。今思い出しましたが、読んでいるときの感覚が菅浩江に近いですかね。


「幻のクロノメーター」
オチは書かないようにしておきますが、ネタがマリン・クロノメーター(航海用時計)なので”そう言う”話かと思ったら、ちょっと違った話。まあ、オチの方向性は余り変わらない気がしますが。
まあ何というか、百年以上生きているらしい女性が、有名な時計職人「ジョン・ハリソン」(実在人物。wikipediaの記事はこちらですが、この話の重大なネタバレを含むので、作品に興味を持った人はまだ読まないが吉でしょう)に仕えた経験を語り出す、と言う辺りで大体話の流れは見えるかと。これまた古風な傍点の形で、ポイントを強調してくれていますし。
ただ、その大仕掛けとは別に、割と卑小な各人物が精一杯生きている姿や情景描写はこなれており、十分に魅力的。大きな物語に回収される内容ではあるのですが、あのオチがなくても「大作を書く作家が肩の力を抜いて書いた小品」として普通に赴きある物にまとまったんじゃないかと思います。例えて言うなら、クラークの『白鹿亭綺譚』みたいな。(ところで、←が1円出品行進でない事に驚愕。元があんまり売れてなかったからでしょうか?それより、今になってみると、コード番号が404ってのは面白いんだかなんなんだか)
まあそう言うわけで、これも面白かった一品。


全話文体構成を変えている辺り、色々試しているんじゃないかと思いますが、どれも欠けたところはあるにせよ、基本的に良くできていました。SF作品に外れが少ないのは、時間の工面が難しい時には、実にありがたい事です。



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