2012年03月06日

拭えない些細な違和感/映画「ドラゴン・タトゥーの女」 感想

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女

↑こっちは原作小説。どうにも題名が内容に合ってないと思ったら、原語ではなくフランス語版からの三角翻訳の影響みたいです。原題は "Män som hatar kvinnor" で、直訳は「女性嫌いの男性」(google翻訳)。確かにストレートすぎる気がしますが、邦題(映画の場合、英語題名と同じですが)は、もうちょっと何とかならなかったのかと。


映画って良いですよね。どんなに時間が無いときでも、規定時間で終わる事が約束されてるわけですから……

と言うわけで、忙しい合間を縫って見てきた「ドラゴン・タトゥーの女」です。もっともこれ、3時間近くありますので、決して短時間で手軽な娯楽とは言えなかったり。(後で詳述)

内容は、スキャンダル訴訟で敗北して私生活は死に体のスウェーデン人ジャーナリストが、財閥の老人に雇われて一族の秘密に関わる過去の事件を調査する、と言う物。
北欧の陰鬱な雪景色の中、多くの闇を抱え込んだ富豪一族とそれに関わる残虐な事件の数々、そして現代の社会問題が交錯する作りは、所要時間に恥じない骨太の展開……を約束するはずでした。

と、ここで結論を先に書いておきます。

1,基本は、十二分に引き込まれる良質サスペンス。背景や演出も良好。
2,でも、この長さは必要でしたか?
3,本筋とは関係ないけど、いい加減にしろよハリウッド!


では、順番に。
とりあえず、基本的には最初に挙げた事は全て事実で、話は見事に展開し、途中飽きる事もなく見通す事ができます。ハリウッド映画なのに、アクションに頼らないサスペンス展開で物語を引っ張っていく方式が、きちんと活きています。
背景も、北欧らしい陰鬱な雪と海の描写や、近代的なトラムと古い建物が同居するストックホルムの光景など、良い雰囲気。これで舞台をアメリカのメイン州辺りにしてしまうと、かなり雰囲気が変わってしまったはずで、ハリウッドにしては原作を尊重しています。(皮肉・後述)
演出ももの凄く良いというのは無いのですが、奇をてらわない控えめな物で、半分は無音で舞い散る雪と夜の中で展開する、静かな物語に良く合っています。

しかし、正直この話、3時間弱も必要ありません。まず、「これ、ひょっとして主人公二人は合流しないまま話が終わるんじゃないか?」と視聴者が不安に感じる前半。延々と見せられる女主人公・リスベットの虐待と反撃の話は、もっとあっさり流すべきでしょう。原作は女性への暴力がテーマらしいので外せなかったのかもしれませんが、あのパートは恐ろしい事に、本筋には一切絡みません。
同様に、話が決着した後のリスベットのパートも、数カットで済ませるべきだったのでは?彼女のチェスをさしながらのセリフからラストシーンへの流れは非常に美しいだけに、前段は余りに冗長。って言うか、ハッカー能力をワイルドカードとして振り回すのは、ハリウッドの加えた改変なんでしょうか?

そして、徹頭徹尾つきまとうのが、ハリウッド的ないやらしさです。
もうね、金の単位が「クローネ」って言われるだけで、ストックホルムのど真ん中でアメリカ英語しか話さない連中が劇やってるだけで、違和感が凄いんですよ。あまつさえFUCKとか言い出すんですよ。もう馬鹿かと。
上で皮肉混じりに設定を変えなかったのは偉いねと書きましたが、理由というのも恐らくは、児童虐待と強姦殺人と女性差別と福祉の腐敗がお手々つないで行列を為す展開を、アメリカ舞台にする事で引き受けてやる理由が無かったからでしょう。

先に言っておきますが、私はスウェーデンは好きではありません。過去に児童ポルノを極大スピン始めた惑星みたいに世界中にばらまいておいて、今はその反動の表現の自由圧殺政策を、評価データも無しに各国にばらまこうとしている所など超論外。大体女性保護政策の充実は素晴らしいとして、政策とデータ基準を混同したあげく、統計データが世界との比較が不可能になって結果政策の実効性も評価不能とか言う、笑える状態ですよ。わが国の統計機関と良い勝負で、どこにも賞賛すべきポイントなど見あたりません。評価するとしたら、実効性なんぞハナから求めていない、今を17世紀と勘違いしているピューリタンども位でしょう。

ちなみに、彼らの麗しき法律だと(スウェーデンでもイギリスでも)、主人公二人は児童ポルノの単純所持罪(ネタバレなので一応反転)で有罪になる、と言う事も踏まえて映画を観ると、色々こみ上げてくる物がありますね。

しかし、です。セリフを全部英語にし、子どもの時はともかく「大人になったらただのアメリカ人」(役者はイギリス人らしいですが)みたいな人物・役者配置をしておいて、泥かぶり役だけは全部原作通りスウェーデン(人)という構成は、余りに醜いものを感じるんですよね。特に、福祉制度の腐敗の話とか、これ見ながらアメリカ人が「スウェーデンは怖いわねえ、さすが『社会主義』(米国的にはレッセ・フォールでない、程度の基準で、そのくせ悪口としては悪魔崇拝者みたいな扱いになる)」みたいな顔をするのが目に浮ぶだけに、うんざりしてきます。
つまるところ、犯罪学的にも宗教的にも良い勝負のアメリカに、スウェーデンを馬鹿にする権利はないだろう、と。クライマックスで流れるENYAとか、演出としては実に上手いんですが、結局強調点としてはそう言う方向になってくるわけで……

考えすぎ、と言われそうですが、日本の映画会社が韓国のベストセラー犯罪小説を映画化し、日本人役者と日本語セリフで展開しておいて舞台や犯人は韓国のまま、と言うような代物を作ったら突っ込みたくなるでしょう?良く過去の海外名作を使って自国舞台の翻案リメイクをやっている、韓国映画の方がそれっぽいでしょうか?

とまあ、色々気になって仕方がなく、基本的に出来の良い作品にもかかわらず、どうにも不完全燃焼でした。
繰り返しますが、話の展開も陰鬱な雰囲気も、そしてラストシーンの「決まり」方も、とても素晴らしいんです。あの、「スウェーデン人の男はクズばっか」みたいな描写にしても、女主人公の絶望や生きにくさを示す見事な演出になっているわけで。それだけに、ある意味普遍性を持つ現代的な問題を、異国情緒と共に「外国の事」として描き出してしまうハリウッドの手法に、違和感と怒りを覚えるわけで。
いや本当、度し難いってのはこう言うのを言うんでしょうね。それでも、予算でも技術でも一流で、劇としてとても面白くまとまっているのが、素晴らしいところであり、また困ったところなのですが。


あ、最後に全然関係ないですけど、予告編をやってたサッチャーの伝記映画(この状況でサッチャーかい……)"Iron lady" に、「鉄の女の涙」って副題をくっつけた配給会社の担当者は、北海油田でポンプ磨きでもやってた方が、映画界の為だと思います。



当BLOG内の、その他の映画関係記事はこちら





同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事画像
「HELLSING X 上映イベント」に行って来ました
アニメ PSYCHO-PASS #06 「狂王子の帰還」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第6話感想
アニメ PSYCHO-PASS #05 「誰も知らないあなたの顔」 感想
アニメ PSYCHO-PASS #04 「誰も知らないあなたの仮面」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第5話感想
同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事
 意志決定の機会を与えられない物語『この世界の片隅に』 感想 (2016-12-07 00:00)
 「作家性」とは歪さと見つけたり/『君の名は。』感想 (2016-09-08 00:00)
 面白いのが一番!『ゴーストバスターズ』リメイク版 感想 (2016-09-02 01:00)
 素晴らしい、そして欠点だらけの怪作 『シン・ゴジラ』感想 (2016-08-04 00:00)
 これはダメな映画では? 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』感想 (2015-07-10 00:00)
 酷いなこりゃ 映画版Steins;Gate 『負荷領域のデジャブ』 感想 (2013-05-02 00:00)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。