2012年03月09日

同情不要 『僕と彼女とギャルゲーな戦い』 感想

僕と彼女とギャルゲーな戦い (メディアワークス文庫)
僕と彼女とギャルゲーな戦い (メディアワークス文庫)

『妄想ジョナさん。』で作家を続けていたことに気づいた西村悠ですが、他の作品も読んでみることにしました。
と言うわけで、まず手を伸ばしたのがこれ。比較的新しい(2010年)『僕と彼女とギャルゲーな戦い』です。

内容は、小規模デベロッパーに雇われた大学四年生が、デスマーチを乗り越えて成長する話。と、こう書くと、『なれる!SE』の感想と同じような流れになるかと思われるでしょうが、ちょっと違います。『なれる!SE』と違って、舞台の会社はブラック臭が多少小さいと言うのもあるのですが、そこよりも更に気になる部分が大きかったのです。あ、最後のオチについては、二つの作品ではほぼ同じ感想でしたがね。

何が引っかかるかというと、ギャルゲーマーとして過ごしてきた私自身の経験です。
結局の所この作品は、「クソゲーができるまで」とでも言うべき、偽実録(語義矛盾)デスマーチ作品です。これだと名作である「らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~」が頭に浮びますが、あちらがそこでしか生きられないダメ人間達の、血を吐くような、間違っている事が前提の自己実現(社会からも市場からも一切評価されないというラストは、必然です)の話だったのに対し、こちらは妙に前向きで苛つかされるのです。

どう言うことかと言えば、この作品ではあの会社の作ったあのゲームが、「価値がないどころかマイナス」と言う視点が、すっぽり抜け落ちているのです。

別に、主人公達を非難していのではありません。あれは不幸が重なった事故(良くあるけどな!)ですし、責任を云々できることではありません。
しかし、あのゲームを買ったユーザーの失望は紛れもない事実で、「評価してくれた人も居た」などと言う甘っちょろい話でお茶を濁されては、怒りも心頭に達しようという物です。
だって、作中のゲームがどんな感じに仕上がっているか、そして雑誌等でどう期待を煽られていたかは、正に手に取るように・目の前のディスプレイに映し出されているかのように、克明に想像できるでしょう?自己の経験に照らして。

そして、青息吐息どころか、死亡寸前のチェーンストークス呼吸に入っているエロゲ・ギャルゲ業界の惨状を導いてきたのは、正にああ言うゲーム達です。ある娯楽に失望するのに、地雷レベルのネタ作品など必要ないのです。明らかな納期ミスや練り込み不足や途中カットによって、ガッカリとしか言いようのない出来になった代物を数本連続で掴まされれば、簡単に客は市場から逃げ出します。

繰り返しますが、この過程に制作会社や制作者はほとんど責任がありません。制作体制そのものの問題、市場・業界・更にそれを包摂する社会の波をかぶり、ある意味最適手を打ち続けてきた結果なのですから。
しかし、彼らが被害者であることと、客や市場に対して加害者になると言うことは独立で両立しうる命題です。ゲームを、ゲーム業界を愛すると叫ぶ登場人物達にその視点が欠けていることに、私はとても大きな違和感を覚えました。

あの、未完成品をやっつけで完成させた代物を売りつけられ、一体何人がギャルゲーに見切りを付けたでしょうか?何人が、市場から去ったでしょうか?あるいは、ギャルゲーというものを初めてやってみようと、雑誌で大きく取り上げられていた作品に少なくない小遣いを突っ込んだ少年は、何を思ったでしょうか?彼らの罪の本質はそこで、ビジネス的に赤が出なくて良かったねみたいな話は、超短期の緊急回避でしかありません。

いや、ちょっと想像すれば解るはずなんですよ。見事にやらかしたあの作品を受けて、ユーザーは次のオリジナルタイトルを予約するか?雑誌は大きく特集を組んでくれるか?勿論、事前にプログラマーが言っていたとおり、主人公のライター名にも大きな傷が付いていますよね。
最後にパブリッシャーから評価されて良かった云々の話は、チャンスを残すと言う程度の意味しか持ちません。別に、この作品がビジネスの指南書なら、あの売り逃げ上等の弥縫策は最適解のダメージコントロールですが、物作り系の話でそれを前向きに書かれても、正直困っちゃうんですよね。

と言うわけで、私はこの作品から全くカタルシスを得られませんでしたし、むしろ実体験に照らして、「潰れちまえ、クソメーカー」みたいな感想しか抱けませんでした。当然、主人公の選択にも肩をすくめるしかありません。むしろ、納期さえ余裕があれば良い物を作れる、と言うのなら、同人ソフトで成り上がりを目指すのが、昨今の市場環境だと一番良いんじゃないかと思ったり。
それじゃ食えない、と言う話については、正に主人公が「そうなれたはず」なとおり、正業持って日曜ライター方式で制作すればいいだけの話なんですよ。だって、結局主人公達が作ったゲームがクソゲーになったのは制作システムの問題で、そこをクリアする解答として、副業同人方式は十分適しているんですもん。

まあ、この作品については、作者の実体験を活かした方向性がいつもと違う作品みたいなので、とりあえず他の作品も読んでみようかと思います。




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