2012年03月15日

誰が為の公共性/アレフ施設へのガス供給工事不許可適法判決

ガス工事めぐりアレフ側が敗訴 東京地裁(産経新聞)
足立区長の素敵なコメントはこちら


前にNHK関連で触れたことがありますが、国家だけでなく、公共団体やインフラ企業は、大きな権力や独占権を持つことと引き替えに、厳しい制約が課せられています。その第一が、「定められた要件を満たした要求は認めなくてはならない」と言う大原則です。
これは、当然のことでしょう。地方政府にせよインフラ企業にせよ、その権力や独占権は社会を効率的に運営するための道具であって、自分自身(法律上人格があるかのように振る舞う存在を「法人」と言います)の好き嫌いで振り回されてはたまりません。

さて、この判決をボロクソにけなす前に、超がつくほど有名な判例を。

最高裁(第二小法廷)昭和53年 6月16日判決(通称トルコ風呂事件)

これは、住民からトルコ風呂(現在で言うソープランド)の出店を止める事を要請された行政が、近くに公園を急遽作り、風営法の規定を使って営業許可を出さなかった事件の判決です。
これに対して最高裁は、公園設置許可は「行政権の濫用」であり、トルコ風呂の営業は適法であると判決を出しました。国や自治体がやりたい放題と言って良い行政訴訟の中で、数少ないランドマーク判決です。当然ですが、公園の近くに建設する施設を規制するのは公園の環境を守るためであって、施設を建設させないために公園を設置するというのは、本末転倒なわけです。

つまりどう言うことかと言えば、日本のどうしようもない最高裁でさえ、「権限を目的外のことに使う」、「相手が嫌われ者ならどんな手を使っても良い」と言った態度に対しては、厳しく接しているわけです。

そして、今回の事件です。
これは、住民票受理拒否事件などの流れにある物で、アレフ(旧オウム真理教)の施設にガス供給を行うための工事に、足立区が許可を出さなかったという物です。ポイントは、東京ガスは義務に従って(相手が誰であれ)ガスの供給を行おうとしたにも関わらず、法の執行を担う行政庁が、事もあろうにこれを許可しなかった、と言う物です。
似たような事件で、水道供給に関する判例が沢山あるのですが、(この辺から、「水道」で検索すると色々出てきます)いずれも「正当な理由」を厳しく精査しています。当然ですね。自治体にせよインフラ企業せよ、インフラを供給するためにあるわけで、その責務を果たさないためには相応の理由が必要です。

では、その正当な事由は一体どうなっているのか?記事中に引用されているのは以下です。

1,「付近住民は施設にアレフの信者、関係者が出入りすることに強い恐怖感、嫌悪感を示している」
2,「ガス管敷設を行えば、反対運動の激化で公共の利益が害される異常かつ危険な状態が生じるおそれもある」

いやあ、凄いですね。周囲の住民が恐怖感・嫌悪感を憶えればいいらしいですよ!
しかも、反対運動で公共の利益が害される、と来ました。その理屈は、西武の日教組集会拒否事件でも、熊本のホテルによるハンセン病患者の宿泊拒否事件でも、当然のごとく否定された論理です。
そりゃそうです。反対運動が「公共の利益が害される」レベルまで行くと言うことは、既にその運動は違法状態にあるわけです。その違法状態が出る事を理由に合法的な権利の行使を差し止めて構わないというのは、つまり、違法行為にお墨付きを与えることに他なりません。ヤクザが「あの客の依頼を受けるなら会社を爆破する」と脅したときに、その脅しを理由に契約を一方的に破棄することを裁判所が認めたら、ヤクザの脅しを裁判所が助けることになってしまうのと一緒です。

まとめると、利害関係者はこう言う風に説明できます。
・「地域住民」は違法行為の可能性をちらつかせて行政を脅迫している
・行政は、それに乗って果たすべき義務を果たさず、あまつさえやってはならない事をやっている
・アレフは被害者

三番目に違和感を覚える方は多いでしょうが、この件に関してはこうとしか言えません。元犯罪者だからと言って、迫害して良い理由にはありません。あまつさえ、「恐怖感・嫌悪感」を理由にするなど以ての外です。
表現規制の記事で何度も書きましたが、キモイとか怖いとかおぞましいといった理由は、法的な取り扱いを変える理由にはなりません。ローザ・ルクセンブルクの言葉を借りれば、「法の下の平等」とは、放って置いたら法秩序から弾き出されてしまうしまう人々のための物です。

アレフざまあと叫んでいる人達が例によって圧倒的なわけですが、喜んで石を投げている人達は、自分が投げられる側に回る可能性を考えなんですかね?
職業、門地、宗教、人種、見た目、趣味、性嗜好…… 自分が全ての面で多数派で、誰からも嫌悪を向けられることがないと確信している者でないかぎり、この判決の恐ろしさは肌で感じられると思うのですが。

いや本当ですね、この程度の基本もわきまえず、住民感情を理由に法律をねじ曲げてよしとする定塚誠裁判長は、一体何考えてるんでしょうね?まあ、wikipediaを見ると、かなりの速度で出世されてる方のようで、「あー……」と言う感じですが。
ちなみに、ネットには載っていませんが、中日新聞の紙面だと地域住民(つまり、反対している人達です)にアンケートを取り、「敷設されたガス管を使うつもりはない」と言う回答を得て「工事には公共性がない」と強弁していたりします。アホか!
この理屈が許されるなら、今まで全て棄却・却下してきた、地域住民による原発の運転差し止め訴訟をやり直すべきですよね?アンケート取ったら良いんじゃないですか?反対派住民は、間違いなく「原発の電気は使わない。多少高くても他から買う」って言いますよね。
こう言うどうしようもないのが出世してしまう辺りに、色々と救いがたい物を感じる次第です。

勿論、「住民サービス」を完全に勘違いして暴走する地方公共団体が、そもそもの問題なのですが。
上で紹介したトルコ風呂ケースですが、数年前に渋谷区が新聞記事で全く同じ方法を、「地域住民の希望を叶える画期的な方法」と誇らしげに語っているのを見たときの事を思い出します。「ああ、この国はダメかもしれんね」と言う所まで悲観が進むのはそうないのですが、あれはそのレベルでした。だって、あの判例を知らずに公務員になる事はまず無い上に、前例を調べれば絶対にぶつかるわけですよ。つまり、渋谷区は対外的な記事を出すのにその程度のチェックもできない無能の集団か、解っていてやっている悪党で、紹介するマスコミもその程度の知識無しに行政関係の記事を書いている、と言う状況だったわけですから。ちなみに、事が渋谷区だけの問題でないと判断したのは、モデルケースとして視察を受け容れて云々の話が載っていたためです。

まあそう言うわけで、行政が暴走するのは織り込み済として、織り込んであるからこそ用意されたストッパーである司法が、こんなんじゃたまらないという話なわけです。しかも、東京地裁の筆頭判事ってなあ……
希望あふるる美しきわが国の未来は、明るすぎて直視できそうにありません。


行政判例百選 (1) (別冊ジュリスト (No.181))
行政判例百選 (1) (別冊ジュリスト (No.181))

↑法律書というのは専門書の例に漏れず、本の形をした誘眠剤みたいな代物ですが、判例集くらいなら結構普通に読めるものです。




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この記事へのコメント
ペンは剣よりも強し
既得権益の獣に意見を通すにはより強い力でねじ伏せるしかないですね
選挙とか無意味です
Posted by tttttop at 2012年03月15日 22:42
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