2012年04月11日

ミステリーファンはこれを喜ぶの? 『葬式組曲』 感想

葬式組曲 (ミステリー・リーグ)
葬式組曲 (ミステリー・リーグ)


個人的にですが、推理小説には苦手意識が強いです。読めば読んだで面白いのですが、「伏線の構築と回収」と言う作劇テクニックを自己目的化したジャンルそのものに、強い疑問を憶えてしまうのです。恐らくは、読書体験初期にシャーロックホームズに理不尽感しか感じなかった好みの問題に、物語の面白さを評価の埒外に置く「新本格」への嫌悪感が重なった結果だと自己分析しています。私が「推理物ですらなかった」うみねこを一切評価できない一方、「推理物でなかった」ひぐらしをそれなりに評価しているのは、この辺が関わっているのでしょう。

と言うわけで、今回紹介する、天祢涼『葬式組曲』の感想についても、その辺を割り引いて読んで頂けると良いかと思います。

この物語の時代設定は、近未来の日本。そこでは、「直葬」と呼ばれる簡易な野辺送りが普及し、従来型の「葬式」は舞台となるS県(本土外、と書かれているので恐らく佐賀県)以外ではほとんど行われないどころか、ある種の嫌悪感をもって見られています。(葬儀社の人間が公民館に立ち入る事に行政が難色を示すレベル)
そして物語は、この県の新興葬儀社が関わった様々な「普通でない」葬式の諸相と、その裏に隠された故人と遺族の意図・謎を描き出していくことになります。

これは、実際非常に面白い物でした。元々推理畑の作者と言う事もあって、伏線の構築と回収はこなれており、各話の中で簡単な謎と回答が短サイクルで上手く回されます。謎の力点の置き方も、関係者の意図におおむね集約され、それが葬式という故人との関係を清算する場と相まって、綺麗に物語が組み立てられています。

実際問題、ここまでであれば、良くできた連作短編集として、満足して本を閉じられたはずなのです。

しかし問題は、それまでのシナリオを全て引っ繰り返す、締めの一編にあります。

ここで、今までの短編中で張り巡らされてきた伏線が発動し、物語の前提を覆す展開があらわれるのですが、残念ながら、余りにも唐突かつ内容がそれまでと異なり、唖然とすることになってしまうのです。

唐突とは言っても、決して伏線が足りないわけではありません。読み始めてすぐに感じた違和感(固有名詞の使い方や背景情報など)や、構成上の些細な疑問点は全て伏線であったことがここで解りますし、そう言う意味での納得感は十分です。
しかし、その内容が余りにそれまでの「お葬式ちょっといい話」みたいな話の流れから浮き上がっており、有り体に言って、気持ちが付いていかずに浮き上がってしまいます。
私は、いきなり横っ面を張り飛ばされたような理不尽な気持ちで、本を閉じる羽目になりました。

確かに、私のようなボンクラSFファンは、それまでの物語が最終章で大きくSF的展開へと飛躍する作品を絶賛します。ですからこの作品も、推理物のファンであればむしろスタンディングオペレーションなのかもしれません。ラストエピソードの内容的はミステリー的な、余りにミステリー的なお話ですから。

と言うわけで、非常に扱いに困る作品でした。書いたとおり、ラストエピソード以外は割と綺麗にまとまっている短編集なのですが、ラストでその良さは全部キャンセルされていますので。

例えるなら、小綺麗な一戸建てが組み上がっていくのを見ていたら、ラストが突然、その家の爆破解体ショーになってしまったドキュメンタリー番組と言いましょうか……
普通ラストのどんでん返しとは、それまでの面白さの上に一枚新しい面白さのレイヤーを重ねるか、別種の面白さに塗り替える物だと思うのですが、これの場合、単に塗りつぶされて終わりになってしまった印象。

ですが、これを面白いと思う読者がいるという前提で(あるいは作者・編集者が面白いと思ったので)世に出ているわけですし、つまらないわけではない。いや本当、モヤモヤするとしか言いようのない読後感でした。まあ、こう言う読書体験も、たまになら悪くないでしょう。



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タグ :読み物

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この記事へのコメント
>「伏線の構築と回収」と言う作劇テクニックを自己目的化したジャンルそのものに、強い疑問を憶えてしまう

いや、まったく同感です。

現実生活を舞台としているのに、身近なところで殺人事件が起こったら、さあ謎解きだ、犯人探しだと、登場人物の思考がフォーカスされ、しかもそれがごく当たり前のことのように描写されているのは、まったく訳が分からない。SFなんか目じゃないくらいの「絵空事」だと思うのですけどね。

個人的には、周囲の本好きはミステリ好きばかりなので、けして言えないことですが……本当になんでみんなそんなにミステリが好きなのか、心底不思議に思います。

ミステリが嫌い、読まないと公言する作家もたまにいますね。嵐山光三郎とか。
Posted by シマ at 2012年04月13日 04:24
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