2012年05月10日

いいSFだなあ/『ほしのうえでめぐる』 第1巻 感想

いいSFだなあ/『ほしのうえでめぐる』 第1巻 感想

ほしのうえでめぐる 1 (BLADE COMICS)
ほしのうえでめぐる 1 (BLADE COMICS)


SFマガジン書評欄のコミック批評は、今一趣味とずれる事が多い気がするのですが、これは当たりでした。

この『ほしのうえでめぐる』の舞台は、今から恐らく100年は経っていないであろう未来。軌道エレベータが建設されつつある人工島で、その建設事業と少しだけ関わる人々の姿を描く、SF短編集です。
とりあえず、帯にもあとがきにも堂々と「SF」と書かれている姿は、売れなくなる禁句として表に出なかった時代と比較して、ちょっと感動しますね。

さてその内容ですが、基本的にはラブストーリー。エレベータのマスコットキャラ(の中の人)達、技術者とアンティークショップ店主、宇宙産の汚染物質で光を失った少女、そして、軌道エレベータ建設プロジェクトの初期メンバー……
ラブストーリーと聞いて首を傾げるSFファンも居るかもしれませんが、川端裕人が喝破したように、宇宙に憧れる情念には強い孤独がつきまとい、一面人間関係からの逃避を含みます。「人類は一人ではない」と言う話に希望を見出すのは、つまり自分が一人ではないと言い聞かせるためだ、みたいな。その意味で、この軌道エレベータとラブストーリーの組み合わせは見事にマッチしますし、恐らく後半で前面に出るであろうファーストコンタクトも上手い配置です。

もっとも、SF好きとしては、宇宙人など登場しなくても、触手の生えた高性能介護ロボット(ドイツ製!)の話だけで、十二分に満足できるのですが。

そして、作者が後書きであえてわざとらしい未来ガジェットは省いたと言っている絵の作りが、魅力の根源となっているように思えます。服装も建設機械も街の様子も現在と変わらず、その中に建設中のエレベータやロボットが自然に入り込む。違和感を感じるのは、たまに出てくる装甲艦くらいでしょうか。
逆説的に、そんな夢を省かれた画面の中だからこそ、夢を語る初期メンバー達の姿が眩しくて、こんなにも心を揺さぶられるのです。

余談ですが、あの軌道エレベータを介していない人類の宇宙進出については、もう少し抑えめにしておいた方が良かった、と言うのが、この作品でもっとも気になったところです。これは、作中での軌道エレベータの存在価値が「誰でも行ける宇宙旅行」とされている所と、セットですが。基本プロットが、軌道エレベータを、宇宙開発を国家のインフラ事業単体ではなく、子ども達の夢へと統合する存在として使っている以上、仕方ないのですが。
本来の軌道エレベータについては、前に紹介した文庫本でもどうぞ。勿論、作者は解って書いているはずです。プロジェクトが建設の方向性を変えるよう要請されていたり、建設途中の姿についてプロジェクト初期メンバーが効率悪いが格好良い!みたいな事を言っていたりしますから。

何にせよ、次の巻も買うのは間違いありません。全10話つまり全2巻で完結することが決まっている作品で、プロットもきちんと決まっているのは確実ですし。エンディングは大体予想できるわけですが、それが問題になるわけもありません。
ええ、とても素敵な作品でした。



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タグ :漫画SF宇宙

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