2012年05月13日

綺麗に終わった良作/「魔法使いの夜」 感想3・クリア



魔法使いの夜 初回版
魔法使いの夜 初回版


感想その1・その2はこちら

時間の無さというのは本当に恐ろしい物で、GWに至ってやっと再開でき、終わったときにはこの始末。まあ、普通なら中断即フェイドアウトとなるノベルゲームで、最後までやり通せたと言う事は、間違いなく魅力的な作品だったと言う事でしょう。


と言うわけで、ラストとなる感想3は第8章からラストまでです。
一応、アーカイブで未読の物が少しだけあるのですが、大勢は変わらないでしょうから。


さて、いきなり否定から入りますが、やはり時間軸のおかしさは健在。8章冒頭で主たる舞台が「80年代後半」と改めて明記されています。「バブル末期」とも。そのくせペットボトルの水がどうこうとかやらかしていたりするので(ペットボトルで水が売られ始めたのは90年代以降のはず。我が家は「六甲のおいしい水」をたまに買ってましたから、良く憶えています)、また引っかかります。もう気にしても仕方ないのかも知れませんが、一番基礎的な時代の描写部分が何故こうなのか。

一方、全くほのぼのなどしていないのに穏やかな日常の描写は見事で、良く模倣される戦闘描写(今回更に磨きがかかりましたが)と同じくらい、センスを感じます。男料理の下りとか、有珠と草十郎のキャラクターを実に自然に演出していて出色。
生きてたのかよ!?とか叫びたくなる、アホな元遊園地経営者の爺さんとかも。

ところで、最初の方とラスト近辺で、青子は地の文(独白)で姉が出奔したから後継者になった、と言っていたはずなのですが、あれはブラフだったのでしょうか?あるいはあの文章の意味は、姉が居なくなったので、修行の方法が変わったと言う事?

そして、ゆっくりした展開は良いのですが、日常シーンが続くと背景やスクリプトの流用が目立ってきます。同じ場所で同じペースの話が展開するから当然なのですが、こうなると序盤の圧倒的な物量との落差で、良い意味でのハッタリ、つまり化けの皮が剥がれて行ってしまいます。
逆に、手抜きを上手く使って目先を変えた「なぜなにプロイ」は、緩急として上手く機能していました。
他の幕間エピソードでは、「リア充爆発しろ」状態の自転車二人乗りの内容が、「水分豊富な関東圏の雪が積もった曲線坂道をノンブレーキで疾走」という、サドンデスな内容だったことに胃が縮む思いを味わったり。いやあ、洒落になってませんよ。

と、細かい話は置いておいて、ひとまず全体のバランスについて。

結局、作品にちぐはぐな印象を与えるのは、後半に至るまでのリズムじゃないかと思うのです。
例えば、プレイ開始後長い長い日常シーンが飽きるほど続き、最初に出てくる本格的なアクションシーン(魔法使いの夜1)は、全体の1/4経過後なわけです。しかも、ここで大きな戦闘イベントが三連続で投入され、今度は逆に読んでいる側は疲れてきます。戦闘シーンというのは、大きなイベントである一方、話の展開としては動きがありませんから。(戦闘と言うのは、あくまでも物語上の中間目的達成過程)
そしてそれが終わると、今度は何と全体の半分ほどの長さが、ずっと続く日常シーン。たまに物騒なイベントが挟まっては居ますが、一コマ漫画程度の分量。
今回、ぶっ続けにプレイできたわけではないので尚更そう感じたのかもしれませんが、中盤までのテンポが良くありません。書いたとおり、個々のシーンはできが良いだけに、勿体ない事になっています。
これは、画面演出がスキップできないために、無闇に待ち時間が多くなってしまった事も絡んでくるはずです。

とは言え、後半の戦いは、一夜の戦いの内容を分割して間にシーンを挟むなどして、上手く処理して居るんですよね。年代関係の誤りも考えると、推敲が足りなかったんでしょうか?開発期間を考えると、普通そんなわけ無いと思うのですが……

一方、雰囲気作りは後半に行くにしたがってどんどん上手くなっていきます。これは、冷たく鋭利な空気、孤独を強調する蒼さと言った、作者が本来得意とする舞台装置が増えて行くためでしょう。前半の廃園などは、あくまでも本来賑やかな場所に人影が耐えていることから来る寂寞ですが、後半の舞台はそもそも人を拒むような荒涼とした光景を醸し出します。人家や公園と言った、本来人の温かさが染みついているはずの場所という意味で、前半と変化がないにも関わらず。

そしてですね、やっぱり文章の勢いと描写力は凄いんですわ。私、何度となくFATEの「結局一本調子の力押し」な戦闘を腐しているわけですが、にもかかわらず戦闘シーンが面白いと言うのは事実なわけですから。
更に今回は、演出上の「ため」と「アクション」の比率が前者寄りになると共に、全体的に流れと文章量がシェイプアップされ、切れ味が更に増しています。草十郎の活躍シーンなんか、お約束そのもなわけですよ。「普段最弱土壇場最強」のダルタニアン・メソッドで、展開にひねりもなければ伏線すらまともに張られていません。ところが、これが滅法格好良い。そして見事に簡潔にまとめられている。

身も蓋もないことを言えば、今回の演出手法上、手間をコストのかかるアクションシーンは最低限にせざるを得なかった結果なわけです。しかし、これが結果として冗長さに流れがちな戦闘シーンを上手く制御し、展開を引き締めて見栄えのするシーンを作り出しているのですから、何の問題もありません。
当然ながらそう言った配合が機能するためには、前提として作者が高レベルで構成をまとめ上げる能力を持っているのが必要で、つまりは「さすが」と言うべきなのでしょう。
ただ、その「強さ」の理論は、相変わらず酷い物。
折角魔術関係の設定を色々作ったのですから、「相手の非常識さを認識できないせいで神性が無効化されて、彼の認識通り『ただの巨大な狼』としての力しか機能しなかった」とかなんとか、適当な理屈はでっち上げられると思うんですよ。この辺、SFであれファンタジーであれ、設定から世界観を作り込んでいく話と、作者は余り相性が良くないですよね。結局、FATEの最後は力押しになってしまう戦闘というのも、こう言った設定を基にして「主人公を勝たせる論理」を組み上げられず、勢いに頼ってしまうと言う事に他ならないわけですから。
まあ、それも作風で実際受けているわけですから、好みの問題と言ってしまえばそれまでなのでしょうが……

とは言え、これは逆に作者の力量を示す物でもあります。
ご都合主義の展開、力押しの勝利とハッピーエンドを納得させる最も強力な方法は、小利口な理屈でも緻密な設定でもなく(それらでも当然可能ですが)、強力な描写でもって読者を共感させることなのですから。そして、そういったセンスと練り込みこそ、何者にも代え難い作者の能力に他ならないわけです。大体どんな物語でも、あらすじを三行にまとめれば陳腐その物で、善し悪しとはつまり、そんな代物を読者に納得させられたかどうかで決まる物です。KANONの安易で陳腐なハッピーエンドが、多くの人を感動させてノベルゲームの金字塔となったその方法が典型ですね。それまでの物語で強力に感情移入させられたプレーヤーが「どんな陳腐でもいい、この物語に救いを!」と願った瞬間、正に奇跡が起きる事で、モニターの中と外のシンクロが最高潮に達するわけです。その前提である、オーラスに向けての盛り上げ・積み重ねや、演出の巧みさ・綿密さを見ずに、安易な展開で良しと言う誤った教訓を読み取った作品がどうなったかは、まあ知ってのとおり。

従って、宇宙の「熱的死」に対する許し難い誤りとかは、一部の好事家が気にするだけの話なので、本筋ではないのです。ええ、あくまでも、一部の人間が目を剥いてモニターを蹴飛ばそうとするだけですから。
未来にエネルギーを飛ばした場合、確かに現在のエネルギー総量が変化しますが、それは同一時間軸で考えればの話。5分間が消えて別の「時間」に追加されるなら、それはエネルギーの総量がその時点で増加し、熱的死の回避に働くことになります。
まあこんなのは、ありふれたエントロピーの誤用と同様なのかも知れませんが…… でも、あっちこっちで為される「エントロピー」の誤用(最近だとまどか☆マギカが代表)大体は、作品内で言及される「エネルギー」を「利用可能なエネルギー」と言い換えれば正しかったりするので、こっちのがはるかに気になります。

なお、BGMは総じて雰囲気が良いんですが、その1で書いた最初の音楽と、ラスト付近の田舎道での会話シーンのは明らかに不協和音。基本的に私は音楽のセンスがないのでこう言う部分に言及しないんですが、あからさまに聴覚をひっかくような音に困惑させられました。本当、何なんでしょうね?


まあそんなわけで、相変わらず突っ込むところも多かったのですが、総じて出来の良い、力の入った良作でした。また特筆すべきは、最初に書いたFATEのような、極端に不快なキャラクターが居なかったという点です。厨二PC丸出し(ああ言うキャラを作るPLが居た場合、GMは、プレイを始める前に設定面を徹底的に突っついて、シナリオをまともに進められるかどうか確認する必要があります)の神父とか、かなりひどい事をやっているのに作者補正でひいきされている橙子とか、危ないのは居るんですが、FATEの主人公様と違って抑えめですし余裕で許容範囲内。大幅に強化されたグラフィックと同様、作者の力量アップを感じさせます。

とまあ、私は十分に満足しました。どうもボリューム不足と言われているようですが、市場価格は発売直後から6千円台ですし、かかっているコストを思えば十分だと思います。むしろ、昨今の無意味な重厚長大化を思えば、これくらいの規模こそ有るべき姿だと思います。単純に考えて、最低三十時間とか要求するソフトを、年に何本やれるかという話です。ノベルゲームの売上は絶賛右肩下がりですが、実はファンの総合消費時間はそこまで変わってないんじゃないかと思ったり。

何にせよ、価格分しっかり楽しめたこの作品、私は気に入りました。実は久しぶりのノベルゲームの辺りだったんですよね。エントリーに起こさないところで、記事を書くのも億劫になる地雷を幾つか踏んでたりしますし……



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