2012年05月15日

良くできてるけど嫌い/虚淵玄『白貌の伝道師』 感想

白貌の伝道師 (星海社FICTIONS)
白貌の伝道師 (星海社FICTIONS)


「白貌の伝道師」は、2004年にコミケで売られたニトロ+の公式同人小説です。これが、虚淵玄のメジャー化に伴って、商業出版されたのが今回の星海社版です。
公式同人を追いかけるようなファンじゃありませんでしたので、私もこれが初見になります。

内容は、ファンタジー世界で一辺の曇りもなく真っ黒な悪人が、ドス黒い悪事を敢行する話。いや本当、それだけで全部言い表せてしまう代物です。

恋人に裏切られて陵辱されたところを救われたハーフエルフの少女と、それを救った謎のエルフを中心に話が進みますが、徹頭徹尾ひどい事しか起きません。まあ、惨劇を描く作品自体は良いのですが、ひたすらに悪の哄笑が木霊する風情で、正直読んでいて困惑しました。

いや、色々出来は良いんですよ。編まれていくたちの悪い陰謀だったり、クズとゲスが登場人物の大部分だったり、何処を探しても救いなんか欠片も無い徹底さ加減とか、同人の面目躍如と言えるかもしれません。
ただ、主人公が余りに無敵すぎて、同系統のラノベと逆方向で「はいはい、どうせ惨劇は回避できないんでしょ」みたいな気分になってしまうところはかなり問題。話の内容は絶望的なのですが、精神にクル物が少ないのは、この辺が原因じゃないかと思います。もっとこう、希望をちらつかせた上で絶望に叩き込まないと、読者としては受けるショックが軽くなってしまうわけで。
勿論、そんなもん読みたいかと言われたら、現段階でお腹いっぱい、と答える所ですが。

ただ、救いが全くないと逆に単調になるのは確かですし、何より話にメリハリが効きません。例えば、巨匠スティーブン・キング先生の諸作なんか(特に初期作品は)後味悪い悲劇ばっかりなんですが、後に何も残らないかというとそうでもない。むしろ残る希望や人間性にこそ、絶望を強調する味わいが出てくる。(その意味で、デビュー作のキャリーはこの作品と同じパターンですね)そう言った豊穣さは、やはり不足していると思います。

とは言え、結局この物語は、虚淵玄と言う「ひっでえ話ばかり書いているシナリオライター」のファンに向けて書かれた物なわけで、その意味で間違っていないのでしょう。まあ、まどか☆マギカで増えたファンがこれを書店で手に取る悲劇が目に浮んで、眉がひそまるわけですが。

あと、これも同人らしいと言いますか、作者が興味関心情熱を注いだ部分以外は、超適当。何しろ、いきなり「エルフ」で「レンジャー」で「トレント」ですよ。"水野良"と言う不吉な言葉を彷彿とさせるほど、20年前のお約束設定・単語で構成された世界は、一周回って驚かされました。独自性なんて、はなから欠片もありません。虚淵源は、当時のオタクらしくTRPGゲーマーだったらしいので、一番書きやすかったのでしょうが。

とまあ、虚淵源をまどか☆マギカで知ったわけではない、昔からのファンにはお勧めと言った内容でした。もっとも、そんな連中は9割方発売当時(8年前)に買っているはずなわけで、今となっては書店ラノベ棚のブービートラップとしか言いようが無いと思います。
いや、書いたとおり、シナリオ構成や文章は、間違っても悪くないのですけどね。
でも個人的感想としては、「俺、これ好きじゃない」と言っておきます。多分、作者にとって、これが一番の誉め言葉になってる気もするわけですが。




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