2012年06月13日

繊細な力押し 法条遙『リライト』 感想


リライト (Jコレクション)
リライト (Jコレクション)


SFマガジンの書評では余り良いように書かれていなかったのですが、割と当てにしている書評ページで誉められていたので、購入・読了しました。元々大好きなネタですし。

そして、満足度としては間違いなく「当たり」でした。

本作は、もう何編書かれているか解らない時をかける少女のオマージュです。あの(そのオマージュの代表作で指摘されているとおり)矛盾だらけで、しかしそんな事を物ともしない強烈な魅力に溢れた作品は、どちらかと言えばその矛盾部分を整理して辻褄のあったSFに落とす形で、オマージュされてきました。勿論、アニメ版のように、魅力である青春の眩しさ・愛おしさを全面的に抜き出した再話もあったわけですが、それは例外。

ところが本作は、それらとは方向性を異にします。具体的には、「辻褄を合わせる」と言う再話のパターンを踏襲しつつ、その「辻褄が合う」と言う部分を、恐ろしく気色の悪い形で提示してみせるのです。

物語は、正に「時をかける少女」そのままに、未来からの転校生との恋の思い出を持つ少女が、十年前の自分を待つところから始まります。十年前にたった五秒のタイムリープをし、未来から持ち帰った携帯電話で少年の命を救った自分。しかし、何故かそのイベントは起こりません。かくして、「過去が書き換えられている」らしいことに気づいた主人公のパートと、過去の断片がまき散らされた謎解きが始まる、と言うのが導入部。

結局、物語の辻褄は、もの凄い力押しを複数行使してまとめられるのですが、その際に読者が登場人物と共に味わわされる理不尽さは、筆舌に尽くしがたい物があります。読んだどちらかの書評(あるいは両方だったか)で「ホラー的」と表現されていましたが、確かにその通り。
過去は変わらない、あるいは変えられる、どちらの解釈を取るにせよ(この作品はハイブリッドですが)つきまとう矛盾と、矛盾を消すために行使される力の非人間性。それらが、輝く青春の物語をズタズタに引き裂き、しかしその根底を流れているのが、青臭く前向きで、そして何より愛おしい心のあり方だというのが救いでもあり呪いでもある構成が、良い意味でも悪い意味(この場合、ホラー的評価をするならば誉め言葉ですが)でも作品を鮮烈な代物に仕上げています。

と言うわけで、タイムファンタジーとしては実に歪で、それがオマージュ元とは角度の違った魅力を提供している「リライト」、中々楽しめた一冊でした。
唯一残念な面を上げるなら、この内容と手触りであれば、8月辺りに出版するのが一番効果的だったのではないか、と言う位です。

根本的に好き嫌いの別れるタイプの作品だと思いますが、一応お勧め。「ラノベとの境界領域を目指してクレパスに落っこちている」と評したくなることの多いハヤカワJコレクションの中で見ると、三指に入る(割と適当)面白さだったと思います。

あ、そうそう。
情報が結構混線するので、出てきた登場人物名だけはメモしながら読み進んだ方が良いと思います。でないと、名字と名前が分裂する事の多い設定と相まって、無駄な情報負荷がかかりますので。




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