2012年09月10日

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 11巻 感想

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11) (電撃文庫)


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メディアミックスの都合で強引に足踏みをさせられて、物語の流れがグチャグチャになってしまっていた「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」、その11巻が出ました。


あそこまでグダグダになってしまっていた場合、普通はシリーズごと切ってしまうのですが、文章の基礎的な技術力が非常に高いのと、ちゃんと終わる方向へ行く可能性が残されていた事を思い出し、購入・読破しました。

そして、感想は以下のとおりです。


舞台は整理され、コマは配置され、緊張が最高潮に達する中、物語は終局へと進む。
素晴らしい「終わりの始まり」。このままの勢いで最終巻を書ききれば、傑作になる事は想像に難くない。


では、その素晴らしい内容について、以下詳細。

まずこの巻は、今までの足踏みが何だったのかと思うほど、ストレートに本筋へと切り込みます。具体的には、桐乃と主人公、そして幼なじみの過去の問題を描くエピソードが即座に幕を開け、短編一本で逃げることなく一巻丸ごと展開させます。これは確かに、前巻ラストで予告されたとおりです。しかし、そう言った「決定的な展開へ至る道」をはぐらかしては時間稼ぎをしてきたここ数巻の流れから見ると、ビックリするほどストレート。

関係性の変化については概ね予想どおりなのですが、これをきちんと各キャラクターが言葉にし、事実として認識したことは重要で、正にエンディングへの地固めです。逆を言うと、ここを明確にした以上、物語は終わりへと向かわざるを得ません。最近全話視聴して大絶賛状態になった、おジャ魔女どれみの終盤を思い出しました。「大体こうなんだろうな」と言う予想と、それが明確な形になり物語を紡いでいく過程はハッキリと別物で、その予想が当たるかどうかは作品の質とは直接関わりません。


それにしても、思春期の妹との冷戦状態が余りにリアルだった作品序盤もそうですが、リアル妹持ちには、色々身につまされるところがありますよね。ええ、走って引き離しましたともさ。私は主人公のようなイケメンではなかったですから、転んで泣かれたら、むしろ加速したはずですし。そう言った妹の価値というか、「ちゃんと優しくしてやれば良かった」とか思うだけの余裕が出来る頃には、子ども時代は終わっているわけで。その後和解したところで当時の無自覚な所業がなかった事になるわけでもなく、また当時の自分を思い出せばそうせざるを得ない必然(小学生にとって友人関係は至上命題ですから)も憶えているだけに、何とも言えない気分になるわけです。


ところで、作中に年表が出ておりまして。これ自体は非常に解りやすく、またキャラによる解説もあってライトノベルの面目躍如なんです。しかし、ちょっと驚愕したことも付記しておかねばならないでしょう。つまり、「供給側は、ここまで客を低く見ているのか」と。破壊屋のこの記事を思い出してしまいました。頭の中で情報を整理しながら読み進めていたら、突然懇切丁寧な年表が出てきてガクッとなってしまいました。
勿論、解りやすさは正義であり、幅広い読者に対応する意味でもこれは悪いことではないはずです。ただ、何というか、巻末の付録くらいにして欲しかったなあ、と言う感想を抱くくらいは許されるでしょう。

ちなみに、当時の京介の人格については、一巻の内容と乖離が激しく間違いなく後付け設定だと思うのですが、語り口の巧みさとパワーで押し切り、「最初からこう言う設定だったのでは?」と思わせる手腕はさすが。キャラクターの活き活きした様子が「現在の」キャラクター描写と完全にマッチしていて、違和感を打ち消しています。この辺はさすが。

しかも、この過去イベント回想は、単なる本編のパーツに留まらず、愛すべき熱血野郎・高坂京介の、挫折の物語でもあるわけです。そして、本編(一巻)開始時の状況を、中学時代に犯した失敗の結果としての「平凡」と再定義し、物語全体を彼の再生の物語として語り直してみせる。これは、見事な構成です。

中学生、あるいはその前の万能感は成長と共にへし折られる物ですから、これは読者の共感を呼ばざるを得ません。私も、多分に漏れず定型的な成長過程を辿ってきましたから、懐かしさと鬱屈がまとめて領空侵犯してきましたよ。と言うか、リアル妹に散々言われた「お兄ちゃんは昔はもっとマトモだった」と言うセリフが変な風に再定義されて、胸に徹甲弾を撃ち込まれた気分です。

まあ、思春期過ぎれば酷く仲の悪かった兄妹でも、それなりに落ち着くもんだと思いますが。と言うか、思春期に冷戦にならない兄妹ってのもあんま見ないという、狭い範囲の経験則が。

そして、ラスト。残り一巻(短編集を間に挟むという手は使えますが)でケリを付けると宣言すると共に、膨張してしまった人間関係を、桐乃を軸に再整理。構造的には京介ハーレム物と見せかけて、実際は桐乃に対する友好・敵対関係の網の目で作品をまとめ上げ、いわば「最終決戦」への序章を紡ぐ力わざは圧巻です。

何よりも、暗黙の了解でぼかし続けた桐乃の立ち位置を明確化することで、「血を流さずにはおれない」リングの準備は完了。見事な手腕です。
この「プロローグ」は言わば、闘技場での剣闘士の紹介に当たるわけで、こんな引きで締められたら、もう期待せざるを得ません。ぬるま湯のハーレムものが増殖する状況にウンザリしていたロートルとしても、こんなエキサイティングな恋愛戦争を予告されたら期待度は限界を突破です。

いやあ、本当に最終巻が楽しみです。
願わくば、「誰とくっつくか」ではなく「それが必然であるかどうか」について、ガツンと納得させてくれるようなパワフルなエンディングが描かれますように。
ここ数巻の停滞で切ってしまわなくて、本当に良かったです。





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