2012年09月30日

青春戦争飛行機ラノベ? 『終末の鳥人間』 感想


終末の鳥人間

2冊目は、雀野日名子『終末の鳥人間』。はじめて見る名前だと思ったんですが、角川ホラーの「トンコ」は読んだ事ありました。あれは、今一焦点が絞りきれない気がした物の、独特の痒みを伴うような気持ち悪い(誉め言葉)ホラーでしたが、こちらは青春小説です。

北朝鮮との緊張が極度に高まった近未来。日本海に面した企業城下町を舞台に、パッとしない県立高校のパッとしないダメ高校生が、ダメ教師と一緒に人力飛行機を飛ばす話です。
この紹介だと、焦点も減ったくれも無さそうな内容ですが、さに非ず。
極度の緊張の中で暴走していく日本・北朝鮮両国と、未来が見えすぎている企業城下町の鬱屈感、そしてリアルにダメな高校生達の諸相がガッチリ組み合って、滅茶苦茶な(と、あえて言いましょう)ラストシーケンスの飛行シーンになだれ込む手腕は、しばし唖然とするパワーがあります。
とにかく、外的状況(主人公達が干渉不能)と内的状況(主人公達が干渉可能)を巧みに使い分け、「こうなっちゃ仕方ない」と「それでもできる事がある」の合間を縫って、話を膨らませていく過程が巧みです。政治・家庭・土地。まだ大人ではない高校生はそれらの動きに翻弄されるしか無く、しかし子どもでもない以上、状況の中でできることもある。この辺のバランス感覚が巧みで、話は下に凸の放物線を描いて盛り上がっていきます。(最後にとんでもない所に突っ込んでいきますが、それ以前の描写を積み重ねているので、「一般小説が途中でラノベになった」かのような違和感は、結構薄まっています)

なお、ミクロのキャラクターの動きよりも、マクロでの社会の動きが不気味なリアリティを醸し出しているのは、アドバイザーのお陰でしょうか?ただあの、「結局誰かが悪いと言うよりも、状況の中で各人が少しずつ暴走していく」描写の仕方は、本当に見事でした。ああ言うのは、「あるかもしれない」と思わせれば勝ちですから。(一部法律・行政処置についてはさすがに突っ込みたくなりましたが)

それにしても、挫折者の物理教師は良いキャラクターですねえ。CHUNSOFTの、商業的には大外れだったらしい傑作AVG「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」に出てきた素敵な理科教師・相沢先生を思い出しました。

恐らく、名作とか傑作ではなく「怪作」だと思うのですが、とりあえず夢中で読み通した一品でした。
一体どう言う層に進めたらいいのか途方に暮れるのですが、とりあえずラノベやSFが好きなら、問題ないんじゃないでしょうか?SFマガジンの最新号でも紹介されてましたし。




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