2012年12月13日

娯楽作品としての質の低さよ/映画「のぼうの城」 感想


のぼうの城 上 (小学館文庫)のぼうの城 下 (小学館文庫)

↑原作を読んだ友人によりますと、小説としてはマトモだそうです。


平成ガメラに愛着は特になく、巨神兵東京に現るはマジFUCKとしか言いようが無かったのですが、邦画だって年に一本は見ておこうと「のぼうの城」を鑑賞してきました。

で、例によって最初に結論。

1,題材として盛り上げようがなく、娯楽作品として精度が低い
2,若手俳優の演技力に、邦画の末期症状を見る

と言うものになります。
まず話ですが、時は戦国末期。北条攻めの渦中に、石田三成率いる二万の軍勢を迎え撃つ小規模要塞・忍城!と言うこれだけ見ると燃えるシチュエーション。城主代理は「でくのぼう」略して「のぼう様」と呼ばれる惰弱な能なしですが人望篤く、彼の号令一下様々な人材が協力して防衛戦に挑む、と言う戦記物としての常道が設定されています。

ところが、実は盛り上がる設定はここまで。
何しろ、城主は既に豊臣方に内通しており、忍城の開城は規定事項。所領安堵と領民の安全は保障されており、戦う理由はこれっぽっちもありません。
加えて、石田三成は例によって舞い上がった無能な前線指揮官として描かれており、「このような強大な敵とどう戦うのか!?」と言う盛り上げもありません。
あるのは、やらなくても良い戦をやらされる農民の面の皮であり、規定事項の開城ひいては三成への軍功付与をご破算にされた副官の悲哀です。特に後者など、秀吉が実に気を使って、優秀なのに惰弱扱いされている三成を引き立てようとしている姿が描かれるだけに、涙を禁じ得ません。

そして経過も、忍城が踏ん張るが故に三成は軍功を立てられずに立場を落とし、農民は農地を荒らされて酷い目に遭い、城主は内通をご破算にされ、配下の武将達も所領安堵がご破算に…… と言う、誰も幸せにならない未来へと突き進みます。これが、「戦国という世の悲劇」ならまだ解るのですが、全ての原因は政略的に全く無意味かつ有害な開戦を決意した主人公・のぼうにあるため、カタルシスは欠片もありません。と言うか、「戦う意味のない戦い」をいくら勇壮に描かれても、広がるのは白けた風景だけです。

もっと言えば、一番の売りである攻城戦の描写は本当に冒頭だけで、あとの見所は派手ではあってもただの津波と変わらない水攻め経由堤防の決壊くらい。後半は一切戦闘が行われないまま、ラストまでダラダラと(上映時間約2時間半!)話が続きます。馬鹿殿が田楽踊って、映画として何が楽しいんですかね?


とにかく理解に苦しむのですが、こう言う題材をやりたいのであれば、それこそ上田城攻防戦をやればいいじゃないですか。戦う意味は十二分にあり、敵は精強で、しかも勝利のあとに悲劇が待つのでエピローグも完璧です。(今作の場合、お約束の「その後」説明は記録が無いだの出家だのとろくな物がありません)後述するちゃらちゃらしたイケメンが演じる問題にしても、軍記物の萌え萌えヒーローたる真田幸村であれば、割とスルーして楽しめたはずです。

とにもかくにも、キチガイが暴走して意味のない戦いをしてみんなに迷惑をかけました、と言うシナリオで娯楽作品撮ろうというのは、ちょっと酷すぎると思います。って言うか、真面目に作って下さいよ、本当に。映画って、面白いんですよ?面白かったから邦画は娯楽の王様だったし、面白いからハリウッドは世界を制覇してるんですよ。この作品、予算規模も人員も、ちゃんとかけてるじゃないですか。なんで面白い物を作ろうとしないんですか?


で、この問題をある意味端的に示すのが、2の俳優問題です。
開始十分で解る事ですが、ベテラン勢と若手の演技力には天と地ほどの差があります。演劇を見ていたら突然学芸会が混ざるような違和感です。最悪なのは甲斐姫で、時々出てくる子役並。つまるところ、話題作りに能のない芸能人を使って恥じない邦画の体質は、若手の演技力育成、ひいては演技力のある役者を育てるという発想その物を殺し、ドラマや邦画の惨状を形作っているのでしょう。
ただ、タメ口が混ざって滅茶苦茶になる脚本や、明らかに演技ではなくて素で喋っているだけの台詞を修正しない監督にも、問題はあるかと思います。特撮屋は画面をいじくりさえすれば「映画」ができると勘違いしている、と言うどこかで聞いた悪口も、ひょっとして当たらずといえども遠からずなのかと思ってしまいます。


勿論、全く悪いだけの映画ではなく、津波その物のような水攻めの描写(あれはイチャモンつけられて公開延期になったと言うのも解ります。同意できると言う意味ではなく、あの津波を想起せざるを得ない迫力があったので)や城攻めの手順を見せる緒戦の描写、長々と説明される秀吉の計画など、良い部分も沢山あるのです。しかし、肝心のメインストーリーはかくのごとしで、メインの若手役者もあの始末。しかも、最後のポイントは、その秀吉の地固めに感心すればするほど、戦略をたたき壊すのぼうがキチガイにしか見えなくなる諸刃の剣。

やっぱり邦画は見なくていいや…… と言う感想を抱きながら、映画館を後にしました。どうにもこうにも、やるせない話です。



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タグ :映画

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