2012年12月14日

ジジイ格好良い 「人生の特等席」 感想

人生の特等席 Trouble with the Curve 映画パンフレット 【監  督】ロバート・ロレンツ

↑AMAZONはパンフレットを置くようになったみたいなんですが、劇場の二倍の値段で買う人居るんでしょうか?


どうにも外ればかり引いている今年の映画鑑賞ですが、年末にやっと当たりを引くことが出来ました。

「人生の特等席」は、クリント・イーストウッド主演の映画です。今回は監督じゃありません。
内容は、アナログな手法を墨守するメジャーリーグの老スカウトと、一人娘の敏腕弁護士の心の交流と再生を描くヒューマンドラマ。イーストウッドが好きそうな素材で、これで彼は役者引退を撤回したとかなんとか。その道のプロの引退宣言なんて、誰も信じない類のアレですが。

そして、当たりと書いたとおり、見事な人間ドラマでした。
内容は、とても平凡です。アナログな手法にこだわりながら、衰えを隠せない老スカウト。殺伐とした弁護士業界で、のし上がりつつある娘。そこに、彼らの過去と現在の問題および変化を描く、オールドアメリカンスタイルです。このスタイルはダブルミーニングで、自然豊かなノースカロライナの農場風景だったり、バーベキュー持参で住民達が集まるベースボールスタジアムだったり、ろくでなしが集うバーやダイナーと言った、いかにもなアメリカンスタイルが画面を埋めます。今回は半ば悪役として描かれる高校生スラッガーにしても、「野球でのし上がる」と言う目標が明確で実にアメリカン。どう見ても貧困層である彼の父親がスタジアムで息子を自慢して叫ぶ様子など、ベースボールというものがアメリカで果たしている象徴としての役割を、良く示しているでしょう。

加えて言えば、ラストのスタジアムで、スカウトされたヒスパニックの少年が振りかぶるその背景に、嫌味なく星条旗がはためいている演出なども。あれ、何が上手いかって、星条旗には「焦点を合わせない」所なんですよ。邦画であのシーンを作ると、絶対にわざとらしくズームさせてしまって色々ぶち壊しにするのです。(代表例:「男達の大和」で、クソわざとらしく繰り返しアップにされる艦首の菊御紋)

正直、シナリオ内容は平凡ですし、展開に奇をてらった物はありません。後述する、あからさまな欠点もあります。しかし、設定を口先だけの物とはせず、きちんと描写を積み重ねることで、全てを生きた伏線へと昇華しています。
例えば、主人公の家に積み重なるアナログ資料と娘が持参するスマートフォンとノートパソコンの対比だったり、酒場における娘と主人公の行動で説明されない設定を何より雄弁に語っていたり。ちなみに、「カサブランカ」のあれを思わせるラストで、ちゃんと活かされる小道具にニヤリ。良いですねえ。

そして何より、ダメで頑固で明らかにろくでもないジジイ達が、本当に格好良いのです。あの微妙に小汚い親父達は現実に居そうで、しかし見事なまでに現実離れした格好良さを醸し出しています。私が映画館に見に行った時、他の観客は中高年の親父さん達ばかりだったのですが、彼らの背中が煤けた感じ(人のことは言えませんが)とイーストウッドのダンディなダメさというのは、明らかに一線を画しているわけです。それがメイクなのが画面なのか立ち居振る舞いなのかその総合なのかは解りませんが、なるほど彼はどんなに小汚く老けてダメな臭いを漂わせていても、アメリカンヒーローなのだなと妙な納得をしました。


とまあ、ベタ誉めなのですが、問題もあります。堅実なだけにシナリオが見えてしまうのは仕方ないとして、娘の恋愛パートは必要でしたか?33歳で色々崖っぷちなのでハッピーエンドに必要という判断だったのかもしれませんが、仲直りする要因がどこにもないラストシーンとか、絶対おかしいですよね!?あの時点では、フレイム君が真実を知る要素はないですし、そもそもどの面下げてという話です。あの辺の展開だけは本当に無駄だったので、何とかして頂きたかった。
あと、娘との溝がきっかけになる事件も、「それ安易じゃない?」と思ったのも事実。そんなセンセーショナルな未遂事件を持ってくるのではなくて、もっと地味なすれ違いが年月とともに広がってしまった、と言う話の方が、人間ドラマに深みが出たと思います。あれは(アメリカの小説や映画は良く安易に使いますが)、演出上の劇薬ですから。

と、当然不満点はあるものの、十二分に満足でした。グラン・トリノ(当BLOG内の感想はこちら)とまでは行かなくとも、今年見た中では1・2を争う作品であったことは間違いありません。もうしばらくは映画館にかかっていると思うので、お暇があればどうぞ。




当BLOG内の、映画関係記事はこちら





タグ :映画

同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事画像
「HELLSING X 上映イベント」に行って来ました
アニメ PSYCHO-PASS #06 「狂王子の帰還」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第6話感想
アニメ PSYCHO-PASS #05 「誰も知らないあなたの顔」 感想
アニメ PSYCHO-PASS #04 「誰も知らないあなたの仮面」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第5話感想
同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事
 意志決定の機会を与えられない物語『この世界の片隅に』 感想 (2016-12-07 00:00)
 「作家性」とは歪さと見つけたり/『君の名は。』感想 (2016-09-08 00:00)
 面白いのが一番!『ゴーストバスターズ』リメイク版 感想 (2016-09-02 01:00)
 素晴らしい、そして欠点だらけの怪作 『シン・ゴジラ』感想 (2016-08-04 00:00)
 これはダメな映画では? 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』感想 (2015-07-10 00:00)
 酷いなこりゃ 映画版Steins;Gate 『負荷領域のデジャブ』 感想 (2013-05-02 00:00)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。