2013年01月05日

色々面倒くさい憲法9条の話

憲法 第五版
憲法 第五版

↑どんどん電波まみれになっていく諸々(憲法に関しちゃ、昔からあんなんですが)を見ていると、被選挙権は憲法の単位必須くらいにしといた方がいいんじゃないの?とか思ってしまいますわな。でも、単位どころか東大法学部経由国家I種合格してる元財務省のエリートがあんな状態なんで、教育って無力ですよねー。


正月だし、憲法に関する政治的な話でも書いてみますよ。ベアテ・シロタ・ゴードン女史も亡くなりましたしね。あ、馬鹿が馬鹿言ってるのはいつもの事なので、あれは割とどうでも良いです。

さて、政治系の話をする上で、憲法9条というのは色々癌でして、言及した瞬間に訳の解らない批判意見だの前提が滅茶苦茶な論だのが湧いて来る、疲労蓄積一直線の「見えてる地雷」です。

でもまあ、なんか普通に同じ方向で改正主張してる勢力が衆参両院で2/3取りそうですし、ちょっと整理しておいてもいいですよね、って話で。


ただ、この話は、幾重にも前提をおさらいしておかないといけませんので、どうしても長くなります。
と言うわけで、順を追って整理していきましょう。

とは言え、まずは全体の結論から。


「憲法改正、特に9条改正が、現在優先順位の高い案件とは思えない。コストを払って変える意味は見出せない」


なお、これとは別の問題として、憲法の規範性という物を滅茶苦茶にしてくれたという意味で、あの条項は如何なもんかとも思う部分があるですが、それはむしろ最高裁の問題なので触れません。
あと、9条以外の電波改正案については、馬鹿馬鹿しすぎるので実際に国会通過してから考えれば良いんじゃないでしょうか?くらいの勢いで真面目に論評する気が失せます。とりあえず、国民の代表が、国民およびその代表の権利を縮小する事を吹聴するって、頭おかしいんですか?としか。近代以降、自分たちこそが法律その他によって「縛られる」側だという意識が欠如しているのが、病理の本質って奴ですわな。

閑話休題、上記の結論に至る前提として、

1,9条以前の問題として、軍隊ってなあに?
2,9条は現在どう言う位置づけな?

を論じる必要があります。

と言うわけで、まず1から行きましょう。
軍隊というのは、まず第一義的に「外敵から国家を防衛する物」ではありません。なんだよ、国民を威圧し害するのが任務、みたいな左翼のたわごと言いたいのか?と思われるかもしれませんが、実はその方向性で間違っていません。(アレな人達が良く主張している、と言うのはこの際無視しておきましょう。誰が唱えていようと正しい論は正しいのです)

どう言うことかというと、軍隊というものの本質は「暴力装置」で、その意味は「域内における暴力の独占(占有)」です。これは、どんな民主的な国家でも変わりません。施行する法律を域内において守らせ、権威を維持するためには、暴力の独占は絶対に必要です。それが機能しないとどうなるかと言えば、アフリカの失敗国家を見れば一目瞭然でしょう。政府の権威は届かず、法律は無視され、治安は守られず、契約を守らせるには相手に直接銃を突きつける必要が出てきます。要するに、国家の体を為しません。

その目的なら警察でもいいじゃん、と言うのはその通りで、実は本質的な違いはありません。だからこそ自衛隊は最初「警察予備隊」と言う名で始まりました。

ちなみに、世界最初の近代民主国家であるアメリカ合衆国は、建国当初は常備の国軍を持っていませんでした。今のEUに近い13州の連合だったからですが、この常備軍を認めるかどうかで喧々諤々の議論をやって居ます。国民、そして13州にしてみれば、連邦政府という機関に暴力の独占を許すかという瀬戸際になるからです。

あと、思考実験として、世界統一政府のようなものを考えてみると、解りやすいかもしれません。外敵が存在し得ない状況において、軍隊は存在しているでしょうか?名目上の名前は変わっているかもしれませんが、内乱や革命を防止するための強度戦力は、当然必要にならざるを得ないでしょう。
例えば、絶賛修羅の国と成りつつある福岡で、ヤクザが白昼堂々組織的に軍事行動を始める状況に至れば、外国の脅威とは関係なく、警察の対処能力を超えた段階で自衛隊治安出動の運びとなるわけです。
なんでこんな事を確認する必要があるかというと、2の憲法解釈に密接に絡んでくるからです。


そして、2の現行の憲法解釈です。ここで紹介するのは政府の解釈です。その他の解釈は、実は余り意味がありません。正しいかどうかの話ではなく、実務ではこの解釈を基に運用が為されているからです。

憲法9条は、第1項で戦争の放棄を、2項で戦力の放棄をうたっています。ですが、政府の解釈では、戦争を仕掛けたり仕掛けるぞと威嚇する権利を放棄しているだけで、相手から吹っかけられたらその限りではない、となっています。まあ、妥当なところでしょう。憲法はあくまでも国家・政府を掣肘するものですから、他の国が行う事までは責任が取れないわけです。要は、宣戦布告がされれば戦争状態にはなってしまうわけで、その状態を「放棄」する事はできないわけですから。(即刻降伏せねばならない、とする解釈も当然ありますが、これは政府の解釈ではありません)

従って、論理的帰結として、2項で放棄されているのは、「上記の目的を達成するための『戦力』」となるわけです。ここで言う「交戦権」と言うのも、要するに「こちらから戦争を吹っかける権利」だと思えば良いです。

勿論、吉田茂が言っているとおり、「戦力」を厳密に解釈すれば、ただの自動車も港湾施設も、全てが「戦力」です。ですから、この規定は、「国民が『戦争を仕掛けるための戦力』と見なす物を、日本国は保有できない」と言う意味に他なりません。
当然、理論的には国民が「これは戦争のための戦力ではない」と判断すれば、核だろうが弾道弾だろうが持てると言う事になります。それはまあ、当然の話ですね。12条が言っているとおり、文言をどう規定するかはその時の国民がする事ですから。

結局の所、この条文が何を制限しているかと言えば、他と同様「政府の権限」を定めているのです。
独立権限をいい事に、天皇さえも無視して国政を壟断したあげく、ドイツ参謀本部と同じパターンで国家を滅亡に追いやった軍・政府に対し、その権限に枷をはめ、「国民を戦争に巻き込む権利」を奪った、と言うのが9条の本質です。
ここを理解していないと、この条項が国民大多数に受け入れられたことの意味を見誤ってしまいます。

政治関係の記事では口を酸っぱくして言っているとおり、近代国家の成文憲法と言うのは、何よりもまず政府に対する不信を出発点とし、その権力を掣肘するために存在します。その中で行われている現行の解釈は、左翼が口撃するほど無茶ではなく、右翼が腐すほど非現実的でもありません。

次に集団的自衛権行使ですが、これは要するに「同盟国(アメリカ)が攻撃されたときに日本も一緒に敵国を殴れるか」と言う話です。これは、政府の解釈では現行憲法では不可能となっていますが、「後方地域での支援」はこの限りではない、と言う解釈です。
要は、「同盟国を支援はする、しかし、同盟国への攻撃を口実として戦争をはじめる事は許さない」と言う事です。これ実は、実に都合の良い解釈なんですよね。同盟国に対して、「うちの国民、そう言うの許してくれてないんで」と言って正面支援は控えることで、被害を最小限に抑えつつご機嫌もうかがうと言う現行の方針に最適です。


さて、ここでやっと憲法改正の話になります。つまり、問題となるのは、

・何のために変えるのか?
・その目的に対し、憲法改正は合理的な方法か?

と言う事です。
実は、9条を何のために変えるのかという点については、明確ではありません。戦後すぐであれば、自主憲法制定のかけ声も意味があったんでしょうが、今更明治憲法みたいな欠陥品に基づく前近代国家に戻りたいと思う人は居ないわけです。そもそも、国民の多数にとって、現行の憲法は「生まれたときからあった物」で、誰が条文を書いたかという所に大した意味はありません。政治家だって、明治憲法体制の経験者は死に絶えてますしね。

そして、良く言われるのが普通の国とか矛盾を解消とか言う話なのですが、上記の通り現状は合憲と言う事になっています。当たり前ですわな。政府は、口が裂けても違憲とは言えない訳ですから。(一票の格差問題除く)

そもそも、公式サイトに掲げられてる改正案って、9条部分は追加する意味が解らない条項ばっかりなんですよね。例によって、条文の文法というか書式が一定せず、思いついたことを適当に並べたとしか思えないのですが。
辛うじて意味がありそうなのは、軍事法廷の設置を可能とする9条の2の5でしょうか?ただ、軍事法廷が必要かどうかは置いておくとして(必要性には理解を示しますが、大体においてあれは軍隊の独立性を無駄に高めてしまうので良い印象を持ちません)、正規の裁判所への上訴を妨げられないなら、意味ないんじゃないですか?

国民の権利を制限したくてたまらない、日本を中国や北朝鮮みたいな国家への憧れが明確な権利章典関連はともかく(あれは論外の代物ですが、逆を言えば彼らにとって改正する意味は明白にあるわけです)、わざわざ9条を改正する意味はあの文書からは見えないのですよね。
「壊れてない物を修理するな」は、組み換えコストが大きな国家にとって鉄則です。

それと、自衛の延長でしか発砲できないとか、そう言う諸規定は別に憲法由来の物じゃありませんから。必要なのは、関連法整備であって憲法改正ではありません。繰り返しますが、現行の解釈では、自衛隊も自衛戦争も領土保全行為も合憲です。合憲という前提でシステムが作られています。その上に乗っかっている細かな部分でバグがあるからと言って、憲法を改正しようというのは、アプリにバグがあるからOSを入れ替えようというのと変わりません。コスト感覚が欠如している、としか言いようがないでしょう。

正直、大日本帝国の亡霊に取り憑かれていた戦前派の政治家はともかく、現在の政治家がわざわざ9条の改正を企図する意味が、良く解らないです。
あと、権利関係については、あんな自殺行為みたいな改正案に国民の大多数が賛成するなら、それはそれで民主主義として一つの帰結ではあると思うんですけどね。ただ、国民には自殺する権利があるとして、無理心中に巻き込まれるこっちはたまったもんじゃないわけですが。



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この記事へのコメント
今の政治家ってどれだけ憲法について勉強してるんでしょうね?あくまで印象ですが、あまり勉強しているとは思えません。そしてそれは国民も同様だと思います。

憲法を変える変えない以前に、よくわからないものを下手にいじらないほうがいい、というのが私の感想です。
Posted by xibo at 2013年01月05日 22:08
あ、後、

"まさに日本国民自らの手で作った真の自主憲法となります。 "

という文が自民党の憲法改正草案のページに載ってます。

今の憲法はアメリカが作ったみたいなもんだ、というのをよく耳にしますが、あれは、敗戦後にアメリカに言われて出した憲法の原案があまりに戦前と変わってないくて、それに怒ったアメリカが代わりに原案を作った、といういきさつがあったかと思いますが違いましたっけ?
Posted by xibo at 2013年01月05日 22:21
片山さつき議員のブログへのリンク、「元財務『相』のエリート」となってますよ
Posted by Poscam at 2013年01月05日 23:17
指摘された誤字修正。同時に気づいた文章整形。
文意の変更は無し。
Posted by snow-windsnow-wind at 2013年01月06日 00:11
>xibo さん
原案作成過程は大まかにはそれで合ってます。「アメリカ」と言っても色々(ゴリゴリタカ派・保守派のマッカーサーから、ニューディール残党の民政局まで)な上、その後何度も日本人の手(各種の審議・協議、それに民間からの突き上げまで)が入っていますが。

それ以前に、現実的な機能を果たすシステムを、その機能・能力ではなく出自で判断するのは、論外だと思いますけどね。
赤かろうと黒かろうとストライプだろうとネズミを捕るのが良い猫ですし、日本人の作った毒物よりもアメリカ人の作った不味い飯の方が食すにマシなのは、言うまでもないでしょう。
Posted by snow-windsnow-wind at 2013年01月06日 00:19
 ですよねえ。
「国家の本質とは自己の統治域内における暴力の独占」
「軍隊とはその独占された暴力の実体」
「したがって、その暴力の無制限な行使を制限する目的で国家権力を縛るために作られたものが憲法」
 だと言うことをわかっていない人間がこれだけ多いという現実には眩暈がします。

『憲法に従う義務があるのは国家であって国民ではない』『国民にあるのは国家が憲法を逸脱しないよう監視する権利』だと言うことがわかっていない人間が政治家やって憲法草案まで作ってしまうこの国って一体何なんでしょう。もちろん国民の権利をまったく制限しなくていいとは言いませんが、それは法律の仕事であって憲法にそんな条項が入ること自体おかしい(というか本来ありえない)ですよね。

 私は大学時代に一般教養で憲法論とってたんですが(必須科目だったもので)、初回に担当講師に『治安の混乱が警察の対処できる限度を超えた場合の予備戦力と言う立場を踏み越えない限り自衛隊は合憲ですよね?』と聞いてみたらしっかり肯定の返事が返ってきました。今にしてみれば物凄く恵まれてた様な気がします。
Posted by あまね at 2013年01月06日 16:36
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