2013年02月13日

素晴らしい絵空事 映画『ムーンライズ・キングダム』感想

ムーンライズ・キングダム オリジナル・サウンドトラック

↑このサントラのパッケージが露骨に示すように、見事な皮肉と美しさに溢れた映像が素敵です。


ムーンライズ・キングダムは、1960年代のニューイングランドを舞台に、問題を抱えて家とボーイスカウトキャンプから脱走した幼いペンフレンドを描く、良くできた小品映画です。

内容は、豊かな自然の中で繰り広げられるロードムービー仕立ての前半と、二人とそれを取り巻く問題が顕在化し終息へと向かう後半という構成。ちなみに、またぞろオチを書いている上に時系列が滅茶苦茶な、公式のあらすじ紹介は無視しましょう。本当に、そんなんだから斜陽産業になるんですよ。そりゃ、昔から邦題・邦版宣伝はひっでえのばかりでしたが、娯楽の王様を転がり落ちて久しいわけで、いつまでもそんな仕事では坂道の傾斜角は大きくなるばかりです。

閑話休題、この作品はまるで舞台劇のような安っぽい画面を意図的に作り出す事で、独特の世界観と雰囲気で観客を包むと共に、適度な皮肉・毒を漂わせて飽きさせない作りになっています。
どう言うことかというと、カメラは常に動かないか焦点人物の画面内での位置を変えないように動く共に、オブジェクトと登場人物を常に一次元的に並べ、毒のこもった意味で絵本のような画面を作り出しています。わざとらしく消失点を画面中心に置いたり、水平線を配置したりと言った教科書的な安っぽさは、本当に見事。勿論誉め言葉です。わざとやってるんですから。

毒のこもった、と書きましたが、これは典型的にはディズニー映画に代表される、明るく綺麗でリアルな画面作りが安っぽさを強調してしまうつまらない映像への皮肉でしょう。使われているフォントが正にディズニーフォントというか、子ども向け映画でいつも見るあれだったり、まるでピアノの練習曲のようなBGMへの皮肉として、子ども向け楽器練習用のレコードをBGMに用いている所など、見事な効果を上げています。犬死ぬし。
ドールハウスのような綺麗で小さな家。絵はがきになりそうな景色。アライグマが掘られた原色のカヌーに、ワッペンが大量に貼り付けられたボーイスカウトの制服。それらは美しい画面を作り上げると共に、問題児童である主人公達の内面を浮き上がらせます。
一方で、孤児や家庭内の不和、人生からの脱落など典型的な問題は婉曲に描かれ、決して平板な皮肉には終わりません。と言うか、さまざまな問題もまた平板に描写されることで、逆に「典型的な家庭内問題物」と言う安っぽい作劇になることを回避しています。
社会福祉士の描き方なんか、典型的ですよね。間違ってもリアルではなく、ステロタイプで構成され、それだけに主人公の置かれた立場のどうしようも無さが画面を圧迫しない形で提示される。深刻ぶってドロドロの劇をやらず、ある種の諧謔を漂わせて少年達の住む絵空事の世界を描き出すセンスは、見事なものだと思います。

例えば、前半の山となるフレンチ・キスのシーンが、カリフォルニアの明るい海岸ではなく、霧の渦巻くロングアイランドの陰鬱な入江を背景としている所など、痛々しくてあまりに素敵。かかっている音楽が、また60年代のノスタルジックなものでして。
ただ、終盤の落雷のシーンは前半の流血シーンとリアルさの水準不整合を生じるので、あそこだけ「え、それどうなの?」と素に戻ってしまいました。あそこだけは演出ミスだと思います。

ところで、一番驚いたのは、どう見ても18歳以上だろうと踏んでいたヒロインを演じる女優が、設定どおりの12歳だったと言う事。ビックリするほど60年代のワンピースが似合ってないんですが、監督、あの子で良かったんですか?悲哀あふれる警官役のブルース・ウィリスがあれだけはまっているので、間違いなく意図的なのでしょうが。

とにかく、娯楽を作ってる気があるのか今一解らない映画でしたが、面白いのは間違いないので、興味のある方は是非見てみるといいと思います。


なお、ここで皮肉を込めて描写されているのは、1960年代の「古き良きアメリカ」なので、Fallout 3に込められた皮肉が大好きな人とかは、全く方向性が違いますが観てみると楽しめるかと思います。登場人物達の格好とか、かかっている音楽とか、そのままだったりしますしね。




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タグ :映画

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