2013年02月16日

ナイストンデモ本!ダニエル・ドレクスラー『ゾンビ襲来』感想

ゾンビ襲来

ダニエル・ドレクスラー『ゾンビ襲来』は、「国際政治理論で、その日に備える」との副題のとおり、極めて真面目な研究書です。近年とみに学術的注目を集めつつある「ゾンビ」と言う現象に関し、多くの先行研究を引きつつその現実的対処を検討し、著者の専門分野である国際政治学の知識を駆使して説得力のある議論を展開します。これを読めばあなたも、ゾンビ禍と言う発生確率は低いとは言え極めて致命的な災害事象に対し、真摯な想定と政治的準備が必要なことを理解する事は間違いないでしょう。

……と言うのが、内容に応じてこちらも全力で応じる紹介文章になります。
さて、上記を読んでオイオイと思いつつ眉をひそめた方にとっととネタばらしをすると、この本は上記のような様式で書かれた素晴らしいネタ本です。著者が国際政治学の権威なのも、様式書式が真面目な論文なのも、上記のような主張が為されているのも本当です。しかし、つまるところこれらは壮大なネタであり、そして当然ながら滅茶苦茶面白い内容となっています。

何より素敵なのが、この本が学術論文の体裁を取りつつ、いわゆるトンデモ本の条件を、きちんと満たしているところでしょう。
例えば、引用される論文は彼が所属するゾンビ研究学会(http://zombieresearchsociety.com/)で発表された物ばかりですし、仰々しく取り上げられる著書はネタ本やフィクション。そして、全然関係ない用語を無理矢理結びつけて「学術的関心が高まっている!」とぶち上げるやり口は、正にトンデモ本のあれです。哲学者達はゾンビの存在を信じている!とか言う言説と共に引用されるアンケートとか、大体皆さん予想が付きますよね?

勿論、著者は解った上でやって居るわけなので、これは最高に素敵なネタ本です。大まじめにゾンビ対策を論じたゾンビサバイバルガイドや、WORLD WAR Z(当BLOGの感想はこちら)と、同じ類ですね。ちなみに、両作の著者であるマックス・ブルックスの名は、本作の中でやたらめったら引用されます。UFO本におけるアダムスキーみたいな扱いです。あるいは、ホロコースト系トンデモ本のロイヒター。(あの悪質な詐欺師連中と並べるのはあんまりな気がしますが、様式が倣ってるんでご勘弁を)


こう書くと、一発ネタの退屈な文章が続く作品に思えるかもしれませんが、そうではありません。
国際的なものに限らない政治・行政・企業などの諸要因について、様々なゾンビ作品を引用しつつ解説を加えていくその文章は、間違いなく引き込まれます。また、大仰な理論の話は読み飛ばしても、営利企業による状況の悪化に関する考察で、「政治力が明白」な一方で、実務能力とセキュリティ概念が欠如した「抜きん出た企業の無能さ」への指摘などは、大笑いできることでしょう。
ちょっと引用しますと、

>地位の低い従業員は、この企業の目的に対して全く忠誠心を持ち合わせていない。地位の高い会社の幹部は、何も達成することはできない
>唯一のわかりやすい成功は、主要なメディアで自らの過去を隠蔽できたことだけ

と言った具合です。おわかりでしょうか?これ、かの有名なアンブレラ社に関する記述です。

とは言え、やはり基本的な論文調に硬さを感じて敬遠する人は多いと思いますし、豊富な脚注で紹介される面白いWEBサイトや著書が、当然ながら英語または未訳だったりするのはマイナス要因でしょう。ただ、翻訳済であっても読んだり観ていなかったマスターピースもあり、読み進めながらAMAZONに数点注文を出してしまいました。つまり、それほど魅力を感じさせるほど、ゾンビ愛に満ちた一冊でした。出版形態の捻くれ方が大きいのと、やはりWORLD WAR Zと言う傑作には届かないものの、ゾンビ物の本としては十二分に面白いものでした。
この手のが好きな皆様は、是非読むと良いと思います。

で、関連出版社の皆様におかれましては、チャッチャと「フィード」と「ゾンビサバイバルガイド」を、翻訳して頂けないもんでしょうか?なんか、もう海外ファンの間では必読通り越して基本書扱いされてるんで、WORLD WAR Zの映画公開にでも合わせて出版してくれることを、切に願う次第です。
英語の本は読めないわけじゃありませんが、やはり読破速度は1/3~1/10まで落ちて積ん読消化を圧迫するので、業務上の必要性がない限りできる限り読みたくないんですよ。いや本当、お願いします。



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