2013年03月01日

これは惜しいなあ 映画『脳男』感想

脳男 (講談社文庫)

↑原作小説は面白いんでしょうかね?



忙しいとばかり言っていても仕方ないので、細かい時間ができたら積極的に使うようにしています。そうなると、映画はかなり便利な娯楽になってきます。札幌の場合駅ビルに居座ってますし、2時間で綺麗に終わってくれますから。

ところで、現在の映画館ってかなり歪じゃないですか?観るものを決めていくなら良いのですが、ぶらりと入ると「今やっている映画の紹介」がどこにもないという、とんでもない状況になっていると、最近になって気づきました。
上映予定作品はビラも予告編もあるのですが、現在公開中のものについては皆無。スマホでも見ろと言う事かもしれませんが、映画館のメイン客層はもう完全に中高年なわけで、こんなんでええんかいと額に皺が寄ります。
こう言うのに気づく度に、あの業界、できる経営努力はいっぱいあるんじゃないかと思います。

閑話休題、批評サイトで評判が良かった映画「脳男」の感想です。
内容は、連続爆弾テロの犯人を追った刑事がアジトで逮捕した男・鈴木一郎(自称)は、明らかに常人ではなかった…… と言う導入のサスペンス。感情の表出が少なく、社会にそれなりに適応しているにもかかわらず異常な行動が見られるこの男。その過去と人格が、大きなテーマになっています。


でまあ、いつもの通りまず結論を。

1,脳男の演技凄い
2,悪役の演技、と言うか脚本がなあ
3,この昭和センスはわざとなの?

まず1ですが、生田斗真って凄いですね。私は役者にほとんど興味がないのでまっさらな状態で見たのですが、ジャニーズタレントなんですか?間違ってもイケメンではない(作中の話です)役柄を見事にこなし、漂わせる不気味さと痛々しい演技が最高でした。映像を舐めているテレビ屋が跳梁跋扈する邦画界で、あんなきちんとした役作りができるなんてビックリです。
この映画は間違いなく彼の映画で、その点から見れば満点でしょう。

しかし、2です。脳男に比べて、黒幕の陳腐さは何事でしょうか?取って付けたような台詞と、見苦しくわざとらしい狂気の演出。彼女から感じる不快さは、「不快で憎むべき悪役」のそれではなく、「脳男の好演をぶち壊す役者不足(役者が悪い、と言う意味ではありません)」に他なりません。
ただ、あの女優さんを悪く言うのも、ちょっと違うかなと思うのです。
まず、観た人間はすぐ解ると思うのですが、脳男は「脳男であるための設定」だけで構成された、とてもシンプルなキャラクターです。そのために、演ずるべきコアもハッキリしており、キャラクターは立ちます。
一方であの悪役は、無駄に豪華な設定を盛り込みすぎて、破綻してしまっています。大きな特徴は「天才」「大金持」「同性愛」「サイコパス」なのですが、最後の一つ以外設定に必然性はありません。と言うか、前者2つは脳男の影にするために同様の設定をぶち込んだだけで、まるで活きていません。大体、最後の一つは「悪役」と同義語で、個性になっていません。おかげで、類型的で手垢の付いた陳腐な「狂気」を見せられて、こちらはウンザリするばかりです。正に、クズみたいな物語に商材乗っけて再生産するしか脳のない、斜陽産業のセンスですよね。そのくせ、軍用拳銃を片手打ちでヘッドショットばんばん決める超人的能力には、説明ないし……
これならば、脇役の中で見事に存在感を主張した主人公の○○(一応伏せ)の内面でも描いてくれた方が、遙かに面白い話になったでしょう。実際、主人公の存在基盤を吹き飛ばしたのは、脳男と彼だったのですから。
そして、3です。序盤のコンビナートをはじめとする都市の点景、あんな所今時あるかと言いたい閉鎖病棟、後述しますが馬鹿なんじゃないかと吐き捨てたアジトの風景。いずれも昭和のサスペンスのセンスです。私が思い出したのは、太陽に吠えろとかパトレイバーの劇場版2とかですね。話自体が現代である理由は全くない(序盤のスマホのシーンから、中盤にスマホで撮影された犯人の姿が鍵になるのかと思ったら、そんな事まるで無かったですし)ので、いっそ昭和を舞台にしていたら綺麗にまとまったんじゃないかと思います。あるいは、昭和を舞台に作っていたがやっぱり止めた、とかなんでしょうか?
「まるでロボット」とか「捨てないで」とか、興ざめなセリフがちょくちょく挟まって盛り上がりをぶち壊す辺り、単にセンスの問題じゃないかと思いますが。

さて、やはり何より気になったのは、設定面での圧倒的な練り込み不足と、細部を蔑ろにする態度です。
例えば、脳男を見た主人公達(精神科医)は「こんな症例見たことない!」などと騒ぐのですが、どう見ても脳男はただの自閉症です。(検査に異常が出てないのは置いておいて、観客も大部分が自閉症を連想するでしょう)「感情がないように見える」というのも、大病院の医者が何言ってんだという感じですし、何より劇中で医者が上げている感情表出障害とやらの特徴が、そのまま脳男に当てはまっている(妙に礼儀正しくよそよそしいとか、そのまんまじゃないですか)のだからたまりません。
漫画みたいな大富豪の描写もそうですし、「キチガイの爆弾魔のアジトならこうだよね」と言うアホな感覚で作られたとしか思えない、アジトのセットもそう。って言うか、大金持ちという設定の犯人が、手作りでパイプ爆弾作ってるのを見て失笑しました。爆弾の威力が場面によって違いすぎる(新米は首が飛ぶだけなのに、病院各所は1個でエリアごと吹っ飛ぶ)のも、爆弾処理班が素人目にも滅茶苦茶な行動をする(爆弾が仕掛けてあると解ってる部屋に突っ込んで爆死って、あれ何なんですか?)のも、折角の緊迫感あるシーンをぶち壊していきます。究極の選択を設定したのに全く葛藤しない江口洋介にしても、演技が酷いのではなくて脚本がひどいのです。
描きたいことが何で、それにはどんな設定が必要なのか。それは物語の邪魔になっていないか?そんな基本的な事を、邦画はおろそかにしすぎです。
今回、脳男に見られる素晴らしい演技があり、恐らくそれを指導した監督が居たわけです。なのに、細部に魂を宿らせられなかった脚本が印象を弱め、良作に至らない凡作で終わってしまった感があります。「面白いお話」は結局細かな描写を積み重ね、違和感を取り除く土木工事なわけで、こういう勿体ないパターンを減らすためにも、ドラマ作りに真面目に取り組んだ方がいいんじゃないんでしょうか?
シナリオラインはしっかりしてますし、個々の特殊エフェクトなんかも良くできてます。「ひょっとして、ダークナイトがやりたかったけど実力が足りなかったってパターン?」とか、勘ぐりたくなる面(悪役の狂気描写とか)もありましたが、そんな事はどうでも良いのです。ただ勿体ないのは練り込み不足とセンスのばらつきで、これは作品と言うよりそれ以前、工業製品としての問題と言って良いでしょう。

まあ、「邦画」で一番売れる宮崎某の脚本どころか全体破綻映画が大手を振ってのさばってる現状では、仕方ないのかも知れませんが……
本当に惜しい。勿体ない。

追記:
なんか調べてみたら、原作では脳男は普通に自閉症扱いされてるらしいです。この点については悪いのは映画だけです。
まあ、スタッフロールの最後に出てきた参考資料の中に、医学関係の本が一冊もなかった段階で、推して知るべしなんでしょうが。リアリティの話じゃなくて、お前はフランスをネタにするのにフランスについて調べないのかというレベルの話です。


あ、最後に一つ。なんか批判的なレビューを書く度に「わざわざ気にくわない物を見て文句言うな」と、わざわざ気にくわないBLOGを読んで書きに来る人が毎回居るんですが、「合わないかも知れない」と思ってもとりあえず食ってみる間口の広さがないと、オタクもどんどん老害化しちゃいますよ。情報強者を気取って好きな物にしか接しない者の末路が、蛸壷化した領域で情報の自家中毒を起こしたネット○○(伏せ字が右翼とは限りません)なわけですから。
まあ、そう言う事を書きに来る人達は、きっとそれを理解して実践してるんでしょうが。





当BLOG内の、映画関係記事はこちら





タグ :映画

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この記事へのコメント
なんか、このレビューみるかぎり、完全に別物に近いストーリーになってるようなw


小説だと爆弾魔なんて脅迫状のメッセージ以外何もないという超無個性の悪役だったのですが。
脳男を殺そうとする理由もありきたりだったし。

基本アクション皆無の地味な話しなので色々と付け足したっぽいですね。

自閉症患者でダークヒーローモドキって映画のコンセプト事態にかなり無理があるようなw
Posted by D at 2013年07月17日 23:56
全く持って同じ感想でした。生田斗真さんは想像以上に演技が上手くて驚きましたが、あまりにリアリティに欠如した演出・脚本の数々に途中からウンザリしましたね。悪役のくだりがすべてにおいて陳腐で、作品の世界観をぶち壊していたように思います。
こんなのでも高評価得てしまうんだから、これが今の邦画の現状かと思う次第です…。
Posted by 映画スキ at 2013年09月08日 15:04
ほんと、映画の悪役にはつくづく作品を壊されました・・・
生田さんの演技はものすごくお上手で、見事に脳男を演じていたんですが・・・

どこぞの安っぽいドラマにでも出てきそうなアジト、レズビアンの悪役、金持ち、キチガイ・・・

原作はどちらかというと、脳男の生い立ちに迫る。といったような内容だったんですが、映画はアクション中心で残念でした。

しかも無意味な新米の死。あれは演出だったんでしょうか・・・。それにしても、あそこで殺す必要はなかった気が・・・
Posted by 脳男原作推し at 2013年10月05日 13:03
生田斗真の評価が良いので見てみようかと思ったのですが、レビュー読んでやめようかな、と思いました(皆さん大体同じようなこと仰ってました)
でも確かに、嫌な予感するものでも食べないと、食べるものなくなって自家中毒起こすなぁと思いました。
Posted by まる at 2013年12月31日 21:45
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