2009年03月20日

SFとライトノベルの狭間 『小学星のプリンセス☆』 感想



なぜ一巻だけ表紙映像が無いんだ、AMAZON?

三巻がもうすぐ発売されるらしいので、紹介。待て、逃げるな。あと、ラノベとSFの境界面について。
まあ、これ本の内容自体は、題名から想像されるとおりの萌え小説な訳ですが。

内容は、解りやすく言うと、ネオテニー異星人と地球人の恋物語です。一応お勧めなのですが(後述)実は私が期待した内容とはかなり違ってました。萌え特化だし……

そもそもこれ、私が手に取ったのは、SFマガジンのリーダーズダイジェストコーナーで紹介されていたためです。あのコーナーはすごく使えるので、毎月図書館で読んでます。

さて、SFマガジンに取上げられていた以上、私が期待したのは当然SFの面白さでした。
だって、ネオテニーの異星人ですよ?コニー・ウィリスかル・グインかという、パンチの効いた皮肉が飛び交うものと思うじゃないですか!?
でも、そうはなりませんでした。

例えば、物語中最大の問題として提示されるのは、主人公(地球人)が、同胞からロリコン呼ばわりされることです。
ですが、これよりももっともっと大きな問題があるはずなのです。
それは、逆方向。小学星から見て、地球人がどう見えるか、と言うところです。

ネオテニー、つまり幼形のまま性的に成熟する存在はウーパールーパー(アホロートル)が典型ですが、人間と類人猿がこの関係だとも言われます。類人猿の子どもは、体毛が無い事をはじめ、人間にそっくりですから。

つまり、小学星人から見れば、人間は類人猿のような物の筈なのです。想像してください。ロリコン野郎の高校生と、ゴリラに恋してしまったお姫様。よりヤバイのは、どっちでしょう?
ですが、この問題は非常に簡単な形(家族の反対)でしか、物語中に出てきません。

さらに言えば、小学星人の存在は、地球の倫理・法体系を破壊します。
主人公は紛う方無きロリコン野郎でしょうが、実はあの世界で彼を「ロリコン野郎」と非難する事は、誰にもできない筈なのです。

ロリコンが許されないのは、弱者・「保護されるべき存在」の子どもに手を出すからです。
しかし、小学星人は子どもでも弱者でもありません。それどころか、高度な文化を持ち、恒星間飛行を成し遂げる「上位種(オーバーロード)」です。
そんな相手に恋をした主人公は、間違ってもロリコン野郎呼ばわりされるいわれはありません。それどころか、そんな相手を射止めた彼は、むしろ上位の存在になります。
さらに言えば、彼をロリコン野郎と断罪することは、小学星に対する文化的な宣戦布告に他なりません。「うちらの姫様を弱者呼ばわりか、野蛮人ども!?」というわけです。

さらにさらに、法体系を見てみましょう。キリスト教諸国には、「子どもに見える成人のポルノは児童ポルノ」という、狂った法律を作っている国があります。我国の宗教団体宗教政党も、そう言うことを主張してますね。

ですが、国交樹立・貿易開始に伴って、彼の星の映像が流入したら、何が起こるでしょう?
小学星人の裸体が映った映像は、「児童ポルノ」になってしまいます。
ですが、これも上記と同じ問題を孕みます。こう言ったものを禁制品にした場合、その支えとなる理論故に「我々小学星人を劣った者扱いするのか」「我々の芸術作品を”児童ポルノ”と呼ぶのか!?」と、文化対立一直線です。
そもそも、小学星人の図像は外見が子どもそのものであるにも関わらず、全く異なる意味を持たずには居られません。18世紀の絵画における「黒人」は商品・劣ったもの・保護すべき者・野蛮等々の表象ですが、現在新聞を賑わすオバマ大統領の映像は、ほぼ真逆の意味の象徴です。これが、一夜にして起きてしまう。これぞ、地球人にパラダイムシフトを強いる、典型的な「未知との遭遇」話です。
つまり、本来弱者の姿をした強者の存在は、これだけ地球の文化に改変を迫らずにはおかないわけです。
星新一の短編に、地球人が梱包材に使った園芸雑誌が、植物から進化した宇宙人の星で悪質なポルノ扱いされる話がありましたが、これぞSF的思考実験の面白さでしょう。

ですが残念ながら、この作品では今までこう言ったテーマは前面に出ていません。
さっき挙げた星新一の短編を、私は中学の時の読んでいたく感銘を受けました。だから、こう言うテーマを盛り込んだからと言って、決して訴求対象から大きく外れるとは思えないのですが。
この辺が、SFとライトノベルの違いになってくるのかなあ、と少し残念に思っています。
三巻では、軽くでも良いのでこの辺の話を扱ってくれないかな、と期待して待つことにします。


ちなみに、期待はずれだったと言いながら買い続けているのは、一巻のラストの展開が非常に面白かったため。

「好きだ」と言うことが何の力にもならない状態でヒロインをどう口説き落とすか、が主題なのですが、解法が実に見事で。ああ言う発想の転換、大好きです。単なる自爆テロのような気もしますが、それも又良し!

まあ、鎖骨だうなじだという萌え描写にノックダウンされそうになるかも知れませんが、お薦めの作品ですよ?いや、ほんとに。




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