2009年03月27日

だから、無意味に煽るなと 北の「人工衛星」

日本に落下なら陸自を災害派遣 北「衛星」で幕僚長(中日新聞)


前回の関連エントリーはこちら

自衛隊は「災害」に際して、大きな力を発揮します。
ですがそれは、多くの人員と物資を短期間で展開できる組織が、他にないからです。

逆に言うと、そう言った特徴が必要にならない災害に、自衛隊を出す意味はありません。火事が起きたり人が倒れてたら、電話する先は119であって防衛省ではありません。
さて、今回の「人工衛星」落下ですが、自衛隊が実力を発揮する大規模災害かというと、まず間違いなくそんな事はありません。

まず、「弾頭」の落下については、危険は絶無です。弾頭は中身が問題ですが、モノが人工衛星であれ弾道ミサイルの試射であれ、NBC兵器を積み込む馬鹿は居ません。また、実際に落下地点に被害を出すのが目的でない以上、通常弾頭すら積む意味はありません。何のメリットもないですから。
つまり、中身は空か、実際の弾頭と同じ質量のダミー以外考えられません。こんな物が落ちてきて「被害」を出す心配をするなら、その日一日車の運転と横断歩道の歩行時に注意を払った方が、余程寿命が延びるでしょう。

一番被害が大きくなるとすれば、一段目または二段目が分離仕損なって丸ごと落下というパターンでしょう。ですが、これも大した事にはなりません。中国の有名な事故を思い出す方も居るかと思いますが、テポドンの燃料はケロシンと予想され、有毒ではありません。もし、それ自体が化学兵器と言っていいヒドラジン系だったとしても、日本に到達した段階でほとんど消費されている(いなければ届かない)事になるので、やはり「でかいモノが空から降ってくる」以上の事にはなりません。

少なくとも、自衛隊を災害派遣しなくてはならないような事態にはなりません。
相手はこちらを脅したがっているわけですから、必要もないのに事態を大きく見せるような事はやめて欲しいものです。
(勿論、外交ルートに関しては抗議し、威嚇し、圧力をかける必要があります。しかし、国内の不安を煽るのは有害でしかない。危機演出で支持率稼ぎとか言うなら短期的には「得」でしょうが、それは歴史が示すとおり、正に自爆テロです)


ああ、「でかいモノが空から降ってくる」のは怖い、とお思いですか?
では、ちょっと簡単な計算をしてみましょう。

日本の面積は、約377,835km^2です。海は含みません。
そこで、テポドンがあなたの近く、10000m^2(100m四方)に落っこちてきたら大事だ、と考えてみましょうか。
すると、テポドンが日本の陸地に落ちた場合、あなたにとって大変な事になる可能性は、1/37,793,500です。ちなみに、宝くじの一億円当選率は、大体1/10,000,000です。

ですが、これだけではありません。まず、テポドンがトラブルを起こし、それが丁度良く日本に落ちるタイミングで起きる必要が有ります。
通常ロケットの打ち上げ成功率は99%程度ですが、これは軌道に上がってからのトラブルや打ち上げ時の爆発などを含みます。勿論、北朝鮮の技術力は相当問題がありますので、ザックリ相殺して考え、「日本の陸地に落ちてくる」可能性を1%としてみましょう。

これで、確率は1/3,779,350,000になりました。

ちなみに、破片が一つとは限らないだろう、と言う突っ込みがあるかと思いますが、破片が増えれば「落ちたら危険な範囲」が狭まるので、この設定でそう大きくは変わらないはずです。

そして、これを国民全員について考えてみます。
つまり、

1-0.01*(37,793,499/37,793,500)^120,000,000

です。これが、「国民誰にも被害が出ない確率」ですね。

今、openofficeで計算してみたところ、「1-0.009582121316426」という数値が出てきました。
つまり、被害が出る可能性は1%。まあ、当たり前ですが後半は1に近似してしまうので、落下確率にそのまま依存することになります。

ただこれはあくまでも、周囲10000m^2に被害を与えるような物凄い落下が起きる場合を考えています。実際にはさらに小さくなるでしょう。
例えば、周囲100m^2程度に被害を与える(これでもかなり大きな被害です)落下物で考えると、領土落下時の被害率は
0.031252709063323
破片を小さく考えたので、領土内落下率を思い切り大きくして10%と計算しても、「領土内に落ちてきて人的被害が出る確率」は
0.003125270906332
です。

まあ前者で考えて、1%もあれば十分危ない、と思いますか?
ですが、考えてみてください。現在交通事故の死者は年間6千人火災によるものは2千人程度です。つまり、ある一日をとって、複数が被害に遭うような悲惨な事故が起きる可能性や、複数が焼け死ぬ悲惨な火事が起きる可能性は、1%どころではすみません。殺人事件だってそうです。

そもそも、いいですか。この「1%」というのは、「一億二千万人の誰かが被害に遭う可能性」です。毎日確実に数十人以上死んでいる、交通事故や火事や行き倒れと比べてみてください。

我々はその程度のリスクに日々さらされて生きているわけで、その中で「空から降ってくる北のロケット」は、全く大したものではないのです。

いや本当、いい加減こんな「被害予測」で大騒ぎするのはやめましょうよ。
ロシアがミール宇宙ステーションを廃棄したときは、南太平洋一帯に大量の破片がまき散らされましたが、被害を受けた人は居ませんでした。
スペースシャトル・コロムビアが空中分解したときも、アメリカ中に破片がまき散らされましたが、窓ガラスが割れたという話すら聞こえてきません。
そもそも、世の中には落ちてきた隕石に尻を直撃された、不運すぎる人というものも存在しますが、(昔学研の関連本で読んだんですが、ネットでサーチしても出てこない)この人も別に死んでません。小さい破片なら、落ちてきてもそう簡単には人は死にませんから、安心して生活するのが一番だと言う事で。


それと、これは余談ですが、今回の騒ぎを見ていて、いかに北朝鮮のミサイルが使えない代物か解るんですが、なんで政府もマスコミも、まともに解説しないんですか?
だって、液体推進のせいで準備にこれだけ時間がかかってるんですよ?上空から見てれば燃料注入始めたのも一目瞭然。準備中に爆撃食らったらイチコロです。
ちなみに、燃料の特性上、入れっぱなしにしておくことは出来ません。

世界初のICBMこと旧ソ連のR-7(これ自体は、今でもロシアの現役宇宙ロケットで、非常に良いものなんですが)も、液体推進式のせいで時間がかかりすぎ、核戦争になったら全てが発射台の上で破壊されると言われていました。
このため、現行の戦略ミサイルは全て固体式です。この辺の固体と液体の違いは、日本の宇宙開発史にダイレクトで関わってくるため、知っておくと面白いですよ。

要するに、北朝鮮のテポドンは、現状では脅しにしか使えないのです。「実際に」戦略ミサイルとして使おうとした瞬間、アメリカに空爆食らって終わりです。それを余すことなく露呈しているのが現在の発射プロセスな訳で、むしろそこを突けば良い宣伝が出来るんですよ。「あんな物は脅威ではない」「脅しに屈する理由がない」とかって。

どうせ威勢の良いことをわめくなら、そっちにして欲しいものです。


(追記)
計算式が一部間違っていたので訂正。確率、さらに下がっちゃったよ……

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この記事へのコメント
日本の面子を潰されただけで戦争する価値は十二分にあります。戦争する理由は、損得勘定だけではありませんよ(^-^)
Posted by 現役海自軍曹 at 2009年06月22日 21:58
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