2009年04月07日

低空飛行の不思議な安定感 『SHI-NO 君の笑顔』 感想

SHI-NO-シノ- 君の笑顔 (富士見ミステリー文庫)
SHI-NO-シノ- 君の笑顔 (富士見ミステリー文庫)

このシリーズの内容は、クールというか感情が未発達な天才小学生と半同居生活を送る大学生の話です。……なんだ、このいかがわしいとしか言いようのない紹介は?

ええと、話の中心は、この女の子が逸脱した存在・魂(ぶっちゃけ猟奇殺人犯達)に強く心を惹かれており、事件に首を突っ込みたがると言う所にあります。
とはいえ、小学生ご本人は天才なので、特に危険ではないわけです。が、主人公のワトソン君こと大学生は常識に従って彼女にくっついていったり心配して止めようとするので、結果として「危ない目」という事件・物語が成立する。こう言う、変則型の推理物です。

で、今回完結したわけですが……

ごく希に、「面白いかと言われると首を捻るけど、シリーズ途中で読むのをやめるほどひどくもない」と言う不思議な安定状態に入って、完結まで読んでしまう本があります。
今回完結したこれは、まさにその典型。

大体、こういう風になる物は、

1,序盤がすごく面白い
2,失速するが、即時処断を言い渡すほどではない
3,切る決断をする前に完結する

の三つが条件になります。
特に3が重要でしょう。援軍の希望がない籠城戦は、そう長くはもちません。最近アニメ化が決まったこれなど、その典型。
あ、リンク先の作品は本当に素晴らしいですが、20巻辺りより後については正に地獄のハイウェイと化しますのでご注意を。失速ぶりにおいて、ガンダム00なんて目じゃありません?

閑話休題、このシリーズは1が当てはまらない希有な例。
一巻であるSHINO ―シノ― 黒き魂の少女
の段階ではっきり言って拙い文章で、読み通すのが厳しいレベル。ところが、なぜか一巻の後半になるといきなり文章がマトモになってきて、成長有望株に見えてくるのです。
結果、二巻以降も読んできたのですが、それ以降の成長は大幅鈍化。しかし、「もう少しでシリーズが終わりそう」という気配がちょくちょく感じられたので、切るタイミングを見失ってこうなりました。
ですのでこれ、逆に全十巻と判明した現在だと、二巻以降の売上が落ちる気がします。


さて、今回出た最終刊ですが、相変わらず主要登場人物の「すごさ」に関する描写は、「描かないことでボロを出さない」と言うハッタリ一択。キャラクターの可愛さも、大部分こう言う方法での演出な気がしますが。

文章は一巻から比べるとかなり良くなっているのですが、三人称の指示代名詞が同一段落中で入れ替わったりする(例えば、「その男」と「彼」が説明無く併用されたりする場合)ため、混乱する箇所複数。この辺は、編集者の問題だと思いますが。

推理関係については元々重視する部分ではないのですが、割と残念。ブラフとしての黒幕は中盤には読める一方、真犯人は後出しジャンケンにも程があるいつものパターン。推理物じゃない方が良いと思うのですが。
それこそ、サイバーパンクみたいな何でもありの世界で、最初から推理なんかできるかよ!と言う所を出発点にしてやった方が、据わりの良い話だと思います。

やや冗長な文章は作者の癖というか持ち味と言うことにしてスルーするにしても、やっと終わってくれた、と言うのが正直な感想。

ただ、なんだかんだで10冊付き合って妙な愛着が湧いているのも確か。なので、作者である上月雨音さんの次回作が出たら、一応読んでみようかと思います。あ、推理物だったら少しためらうかも知れませんが。



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