2009年04月15日

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 3巻 感想

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 3巻
俺の妹がこんなに可愛いわけがない 3巻

2010年10/5追記:他の巻やアニメ版の感想はこちら


サーチエンジンに引っかかりやすくするには、「書評」って入れた方が良いんでしょうかね?

1巻は、ひどい話なのに起承転結がしっかりしていて物語としての完成度が高くとても面白かったものの、2巻が失速したシリーズの最新刊。

話のパターンが1巻から同じという指摘がされていますが、これは特に欠点とは思えません。妹のピンチを兄が救うというパターンは、妹を中心に組み立てられた作品世界の構造そのものなわけですから。

2巻がアレだったのは、大ネタである「妹の秘密がその友人にバレる」と言う事件の解決で、いきなり硬質な現実そのままのセリフを主人公がしゃべり出してしまったところにありました。

オタク擁護の科学的言説、正確にはオタク批判の無根拠性指摘は、オタクしか読まない本でやっても意味はありません。
オタク以上に、その「正しい」言説の無力さを日々思い知っている人間はいない訳ですから。

そう言った反省を踏まえてか、今回のネタは「携帯小説」です。

最初の方の短編は、基本的には小ネタで、単なるジャブみたいなもの。後半全部を費やしたこの携帯小説がらみの話が、本当に良くできています。

シナリオは、妹が必死で携帯小説を執筆する話と、完成後のゴタゴタを描く話に分かれます。
執筆部分は、主に取材と称して主人公を引っ張り回すいつものドタバタ。これは、いつものコメディなので、ここまで付き合ってきた読者なら普通に楽しめます。

ですが、真骨頂は完成後の展開。

ある目的のために、主人公と黒猫(妹の友人のゴスロリ少女。作家志望のいわゆるワナビー)が、出版社に乗り込む事になります。

ここで、ワナビーである黒猫は持込原稿を編集者にボロクソにけなされ、ある人物によって携帯小説全般もボロクソにけなされ、そして主人公は自分の持つ負の感情に気づくことになります。

全般的に痛いネタの筈なのですが、登場人物達はきちんと問題に向き合っており、読書中の感覚は非常にポジティブ。(勿論、カタルシスの原動力になる程度には「痛い」ですが)
作家としてのデビューや商品としての小説について、割と洒落にならない「リアル」な会話が飛び交うのに、です。

ここでの構成の妙は、今まで前面に出ていなかった妹の万能性にスポットを当て、妹を、嫉妬の対象である「才能ある作家」、反感の対象である「携帯小説の作り手」の象徴に祭り上げた事でしょう。
その上で、携帯小説を馬鹿にするのは筋違いだと言う指摘に自然に持って行き、創作、そしてあらゆる層を含む文化そのものへの賛美を、謳い上げるわけです。

これに違和感を表明している人も見ましたが、私は自然に読めました。ロードス島あたりを思い返せば、ラノベの創生期は携帯小説同様酷い物だったわけですから。

そして、このパート、妹は全く登場しないにもかかわらず、妹が話の中心どころか物語世界の中心に不動の地位を得ている点が、本当に見事です。
画面内にいなくとも、登場人物達の行動原理に食い込むことで、圧倒的な存在感を放つ。こう言うキャラの立て方ができる作者は、ライトノベルに限らず貴重かと。

この構造の美しさによって、登場人物達は作品内に居場所を確保し、話の焦点も綺麗に収束していきます。

次巻で完結させるようですが、一巻のラストであれだけ綺麗に話をまとめて見せた作者のこと。期待せざるを得ません。

と言うわけで、非常にお勧め。AMAZONのレビューでは、何やら3巻が一段落ちる扱いですが、私はむしろ逆だと思います。2巻で撤退した人も、戻って来た方が幸せになれでしょう。


ただし、一点だけ引っかかる点があります。それは、一部で人気の高い幼なじみの存在です。

今回、作品世界が非常に綺麗に整理され、妹を中心にした人間関係で話を回す、と言う構造が完成しました。このため、幼なじみは、はっきり言って不要になっているのです。

もともとこのキャラクターは、作品世界に必要か怪しいキャラでした。1巻ではそれなりにイベントに絡んできたものの、そのイベント自体が不発気味。2巻ではさらに存在感が薄まり、今回は独立した短編一本に申し訳程度に出てくるだけ。そして、この一本は、単行本の中で完全に浮いてしまっています。
何しろ、この巻の本筋に全く絡んでこないのですから。

調整役の沙織、ワナビーとして物語の矢面に立つ黒猫。しかし幼なじみには、シナリオ内の居場所がありません。もう、潔いほどに全く。

どうにも、ヒロインが実の妹一本では厳しいのではないかという商業的判断で突っ込まれたオマケキャラ、と言う雰囲気が、巻を追うにつれてどんどん強まるのですよね。実質的な「彼女」を用意することで、近親相姦ネタに嫌悪感を持つ層への言い訳を用意したというか。
率直に言って、作品世界の異物、邪魔者に見えるのです。

なので、そこだけは、画竜点睛を欠くと言う印象で残念でした。


ちなみに、後書きを見ると、今回の出版ネタは色々問題が出たみたいですね。苦労したであろう事がにじみ出ていて、同情しました。
ですが、それに見合うだけの面白さが確保できていると思うので、作者さんには懲りずに書きたいことを書いて欲しいと思います。


追記:
作者さん、BLOG持ってたんですね。インタビューへのリンクもあります。

LUNAR LIGHT BLOG (該当エントリー)

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3) 発売記念インタビュー  -前編-
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3) 発売記念インタビュー  -後編-

後書きでも書かれてますが、やっぱりあのネタは出版に差し障りがあったようで。
それでも、随分早く3巻が出てますよね。二巻から3ヶ月ちょっと。

なお、色々ネタバレしているので、インタビューは本を読んでからの方がいいと思います。


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